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モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」 ハ長調 K551

ベーム指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1955年9月録音




これもまた、交響曲史上の奇跡でしょうか。

モーツァルトはお金に困っていました。1778年のモーツァルトは、どうしようもないほどお金に困っていました。
1788年という年はモーツァルトにとっては「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」を完成させた年ですから、作曲家としての活動がピークにあった時期だと言えます。ところが生活はそれとは裏腹に困窮の極みにありました。
原因はコンスタンツェの病気治療のためとか、彼女の浪費のためとかいろいろ言われていますが、どうもモーツァルト自身のギャンブル狂いが一番大きな原因だったとという説も最近は有力です。

そして、この困窮の中でモーツァルトはフリーメーソンの仲間であり裕福な商人であったブーホベルクに何度も借金の手紙を書いています。
余談ですが、モーツァルトは亡くなる年までにおよそ20回ほども無心の手紙を送っていて、ブーホベルクが工面した金額は総計で1500フローリン程度になります。当時は1000フローリンで一年間を裕福に暮らせましたから結構な金額です。さらに余談になりますが、このお金はモーツァルトの死後に再婚をして裕福になった妻のコンスタンツェが全額返済をしています。コンスタンツェを悪妻といったのではあまりにも可哀想です。
そして、真偽に関しては諸説がありますが、この困窮からの一発大逆転の脱出をねらって予約演奏会を計画し、そのための作品として驚くべき短期間で3つの交響曲を書き上げたと言われています。
それが、いわゆる、後期三大交響曲と呼ばれる39番〜41番の3作品です。

完成された日付を調べると、39番が6月26日、40番が7月25日、そして41番「ジュピター」が8月10日となっています。つまり、わずか2ヶ月の間にモーツァルトは3つの交響曲を書き上げたことになります。
これをもって音楽史上の奇跡と呼ぶ人もいますが、それ以上に信じがたい事は、スタイルも異なれば性格も異なるこの3つの交響曲がそれぞれに驚くほど完成度が高いと言うことです。
39番の明るく明晰で流麗な音楽は他に変わるものはありませんし、40番の「疾走する哀しみ」も唯一無二のものです。そして最も驚くべき事は、この41番「ジュピター」の精緻さと壮大さの結合した構築物の巨大さです。
40番という傑作を完成させたあと、そのわずか2週間後にこのジュピターを完成させたなど、とても人間のなし得る業とは思えません。とりわけ最終楽章の複雑で精緻きわまるような音楽は考え出すととてつもなく時間がかかっても不思議ではありません。
モーツァルトという人はある作品に没頭していると、それとはまったく関係ない楽想が鼻歌のように溢れてきたといわれています。おそらくは、39番や40番に取り組んでいるときに41番の骨組みは鼻歌混じりに(!)完成をしていたのでしょう。
我々凡人には想像もできないようなことではありますが。

褒め殺し


Googleで「ベーム」と検索してみても、いわゆる彼の「ファンサイト」は見あたらないようです。「オーストリア共和国が与え得る栄誉は総て与え」た言われるぐらいの栄華を極めた指揮者としては不思議な限りです。
この背景には、いわゆるシルバー座席優先の業界の体質が大きく影響しているように思います。なにしろ、あの吉田大明神をしてベームは二度死んだと言わせたほどですから。

人間というのは衰えます。確実に衰えます。ですから、芸も年をとれば衰えていきます。これは厳然たる事実であって、決して、年を重ねるに従って右肩上がりに上っていくのではないのです。必ず、どこかに頂点があって、あとはそこから落ちていきます。
問題は、この頂点をすぎて衰えがきたときに、その降下のスピードをいかに抑えるかです。私が見るところ、後年まで名を残す指揮者というのはこの落ち込みが非常に小さいように見えます。
例えば、私の予想に反して今もなお絶大な人気を維持しているカラヤンです。彼もまた疑いもなくこの落ち込みが非常に小さかった人たちの仲間に入ります。
もっとも、彼の頂点をどこにもってくるかは人によって意見が違うでしょうし、何よりも彼は自分の音楽スタイルを何度かチェンジしているように見えます。ですから、若くして巨匠風のスタイルを身につけた50年代をとるのか、ベルリンフィルの機能性を生かして颯爽たる音楽を展開した60年代をとるのか、それともカラヤン美学が完成された70年代をとるのかは人によって変わってくるでしょう。しかし、衰えが指摘された最晩年の80年代の録音を聞いても、いわゆる老醜をさらしているという気は全くしません。
彼の録音を聴き直してみて、あらためて衰えの小ささに驚かされました。
フルトヴェングラーは衰えが来る前に死んでしまいました。トスカニーニも晩年は音楽性の硬直が指摘されましたが、それでも丁寧なマスタリングで晩年の録音がリリースされるようになると、今まで言われていたほど悪くないことに気づかされます。
セル然り、ムラヴィンスキー然りです。

それに対して、最晩年のベームとなると、これはもう痛々しい限りです。特に最後にリリースされたベートーベンの9番などは本当に酷いものでした。でも、その酷い録音は日本の評論家たちは老巨匠の円熟の演奏と天まで持ち上げたのです。
最近何かで読んだのですが、79年に脳卒中で倒れても指揮活動を辞められなかったのは、売れない俳優の息子を支えるためだったと言われています。そう言えば、どう考えてもベームには不似合いな「ピーターと狼」なんかを録音したことがあります。あれは、息子にナレーションをやらせるためだったのですが、ホントに売れなかったようで、今カタログに残っているのはイギリスの大女優ギンゴールドがナレーションをつとめたほうです。
しかし、まわりの人間がきちんと批判をしていればいかに家庭の事情があったといえども、ベームもまた耳だけはしっかりしていたのですからまた違った考えもあったでしょう。
世間では褒め殺しという言葉がありますが、ベームの晩年はこの言葉がもっともマッチします。

若いときには、こんなにも素晴らしいジュピターが演奏できたのに!!


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よせられたコメント

2010-06-18:POPER


2010-10-23:ジュピター


2012-10-02:ベームはすきですが


2012-11-23:マオ


2013-01-30:モーツァルト・ファン


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