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カラヤン(Herbert von Karajan)|ワーグナー:タンホイザーよりヴェヌスベルグの音楽
ワーグナー:タンホイザーよりヴェヌスベルグの音楽
カラヤン指揮 フフィルハーモニア管弦楽団 1954年7月23日・11月5〜8日録音
男の身勝手
オペラのストーリーというのは男の身勝手というものが前面に出ているものが多いのですが、その最たるものがワーグナーでしょう。そのワーグナーの中でも、とりわけ「酷い」なあ・・・!!と感心させられるのがタンホイザーです。
誰かが似たようなことを書いていたような気がするのですが、このお話を現代風に翻案してみればこんな風になります。
『都会に出て行って風俗のお店通いに狂ってしまった男とそんなアホ男を田舎でひたすら待ちわびる純情な娘、そしてそんな娘に密かに心を寄せる堅気の田舎青年・・・というのが基本的な人間関係です。
この男、一度は改心したかのように見えて田舎に戻ってきます。ところが、村の祭りで例の堅気の青年が「徳」だの「愛」だのとほざくのを聞いて心底うんざりしてしまって、「やっぱり町の風俗の姉ちゃんが一番だ!」なんどと叫んでしまいます。
驚いたのは村の衆であり、とりわけその純情娘の親や親戚から総スカンを食って再び村にはおれなくなってしまいます。
しかし、それでも世間知らずの純情娘はそのアホ男のことが忘れられず、必死で彼のことをとりなします。
仕方がないので、一族の連中は、「そんならハローワークに言ってまともな仕事について堅気の生活をするなら許してやる。(ローマ法王の許しを得るなら許してやる)」といいます。男は仕方なくハローワークに通うのですが(ローマ巡礼)、基本的に考えが甘いので上手く職を得ることなど出来るはずもなく「世間の連中はどうせ俺のことなんか何も分かってくれないんだ!やっぱり俺には風俗の姉ちゃんが一番だ!!」と叫んで男は再び都会に出て行こうとします。
ところが、嫌と言うほど裏切り続けられたにもかかわらず、その純情娘はそれでもアホ男のことを忘れられず、最後は自分の命を投げ出して彼を救ってくれるのです。
さすがのアホ男もその娘の献身的な愛のおかげでようやくにして目覚め、おまけに、世間の人もその娘の心を思ってアホ男を許します。』・・・という、男の身勝手を絵に描いたようなお話です。
さして、ここで演奏されている「ヴェヌスベルグの音楽」というのは、言ってみれば、アホ男が溺れてしまった風俗店での楽しい一時を描いた音楽だと言えます。
最後に、あらためて指摘するまでもないことですが、このアホ男とは疑いもなくワーグナー自身のことです。彼は己のアホさ加減と身勝手さを嫌と言うほど知っていました。でも、そんなあほうな自分でもいつか命をかけてでも愛して救ってくれる純情な女性が現れることを本気で信じていたのもワーグナーという男でした。
フィルハーモニア管弦楽団、凄い!!
この録音をはじめて聞いたとき、最初の部分の響きがあまりにも薄くて「こりゃ駄目だ」と思ったのですが、聞き進んでいくうちにそのシャープな造形と筋肉質な響きにすっかり感心させられてしまいました。これは、方向性としてはフルトヴェングラーに代表されるような音楽とは全くベクトルの異なるものであり、トスカニーニやセルに代表される音楽と縁戚関係にあることは明らかです。
それにしても、この時代のフィルハーモニア管弦楽団の機能の高さにはちょっと驚かされます。
おそらく、同時代のベルリンフィルやウィーンフィルと比べてみれば、機能面ではははるかに優れていると思います。特にこの時代のベルリンフィルは未だにドイツの田舎オケの風情を残していましたから、かなり不器用でゴツゴツした感じがありますから、このフィルハーモニアの敵ではないはずです。さらに、当時完璧さへの執念でぐんぐんとオケを鍛え上げていたクリーブランドと比較しても上回っているように思えますし、もしかしたら、トスカニーニ傘下の全盛期のNBC交響楽団と比べてみても遜色ないほどの実力を持っていたのではないかと思われます。
その様な現代的で高性能オケと若きカラヤンのシャープな感性が実に上手く融合しています。そう言う意味で、この時代のカラヤンの演奏はもっともっと聞かれてもいいのではないかと思います。
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よせられたコメント
2012-12-02:oTetsudai
- 聴き始めた瞬間、聞き慣れたタンホイザー序曲の旋律が途中から聞こえたのでタンホイザー序曲の抜粋かと思いました。非常に良い録音でオーディオ装置が2段階ぐらい上に聞こえました。演奏はそれは素晴らしいものでユングさんのおっしゃるとおりです。非常に極めが細かく輝くような中高音が巻き散らかせます。ところで解説がとてもおもしろかったです。私も考え方はこのアホ男と全く同じなので身につまされます。ワーグナーの実生活は確かにでたらめなのですが作品は抗しがたいほど傑作ぞろいです。タンホイザーは師走の忙しい中、我関せずで部屋にこもり、聞き流すのが最高の贅沢と思います。バイロイト音楽祭は夏だそうですが、日本では冬にワーグナーが似合います。でも本当に好きなのはウォルフラムの夕星の歌です。タンホイザーのように生きたかったのですが現実はウォルフラムです。悲しい。
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