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ベートーベン:ピアノソナタ第1番 ヘ短調 作品2-1

(P)ナット 1955年9月20日録音



Beethoven:ピアノソナタ第1番 ヘ短調 作品2-1 「第1楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第1番 ヘ短調 作品2-1 「第2楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第1番 ヘ短調 作品2-1 「第3楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第1番 ヘ短調 作品2-1 「第4楽章」


ハイドンに献呈されたピアノソナタ


 ボン時代にベートーベンはハイドンと知り合います。イギリスに招かれての行き帰りの時です。
若きベートーベンの才能を認めたハイドンはウィーンに出てきて自分のもとで学ぶようにすすめます。喜んだベートーベンは選定侯の支援もあって飛ぶようにウィーンに向かいます。
 ハイドンがイギリスからの帰りにベートーベンと出会い、ウィーン行きをすすめたのが1792年の7月です。そのすすめに応じてベートーベンがウィーンに着いたのが同じ年の11月10日です。当時の社会状況や準備に要する時間を考えれば、ベートーベンがどれほどの期待と喜びをもってウィーンのハイドンのもとにおもむいたのかが分かります。

 しかし、実際にウィーンについてハイドンのもとで学びはじめるとその期待は急速にしぼんでいきます。偉大な選手が必ずしも偉大なコーチにならないとのと同じで、偉大な作曲家ハイドンは決して教師に向いた人ではなかったようです。
 おまけにベートーベンの期待があまりにも大きく、そして、ベートーベン自身もすでに時代を越え始めていました。

 ハイドンの偉大さは認めつつも、その存在と教えを無批判に受け入れるというのはベートーベンには不向きなことでした。それよりは、自分が必要と思うものをクールに受け取れる存在の方がよかったようです。
 そこで、ベートーベンはサリエリ(映画アマデウスのおかげで凡庸な作曲家というイメージが定着してしまいました)やアレブレヒツベルガーなどから作曲理論を学ぶようになり、結局は翌年の春にはハイドンのもとを去ることになります。

 この作品番号2としてまとめられている3曲のピアノソナタは、そのような若き時代の意気軒昂たる姿がうかがえて興味深い作品です。そして、世上噂されるハイドンとの不和も、これらの3曲がハイドンに献呈されていることを考えると、決定的なものではなかったようです。

 ちなみに、この3曲が完成したのは1795年と言われているが、作品の着想そのものはボン時代にさかのぼるそうです。それが、イギリスでの大成功をおさめてウィーンに帰ってきたハイドンに謝意を示すために一気に完成されたと言われています。

第1楽章
 アレグロ ヘ短調 2分の2拍子 ソナタ形式
第2楽章
 アダージョ ヘ長調 四分の三拍子 展開部を欠いたソナタ形式
第3楽章
 アレグレット ヘ短調 4分の三拍子 メヌエット
第4楽章
 プレスティッシモ ヘ短調 2分の2拍子 ソナタ形式


昔はレコードは貴重品でした。

大卒の初任給が1万円ちょっとの時代でもレコードの価格は今とほとんど同じの2〜3000円はしたそうです。初任給の約6分の1程度ですから、今の感覚で言えば一枚数万円程度の値段だったのでしょう。ですから、ベートーベンのピアノソナタ全集なんてのは、そうおいそれと買えるものではありませんでした。
ですから、清水の舞台から飛び降りるつもりでその様な全集を購入しようとなれば、「誰の全集」を買うかというのは、結構深刻な課題となります。SP盤からLP盤に移行していった50年代の終わり頃は高度成長のハシリの頃であり、日本人の購買力も少しずつ上がり始めてきたこともあって、こういう「うれしくも深刻」な課題に直面する人も増えつつあったようです。その時代に、チョイスの対象となったのがこのナットとシュナーベルでした。
どこで読んだのかは忘れてしまいましたが、その様な「幸せな」悩みに遭遇した二人の盤友が、シュナーベルとナットの全集をそれぞれに購入した、という話を思い出します。
お互いに念願の全集を購入して幸せいっぱいなのですが、やがて相手のことが気になるのが人のサガで、そこで、お互いに聞き比べてみようと言うことになります。初めは、お互いにあれやこれやと和やかに批評をしあっているのですが、やがてシュナーベル君の表情が次第次第に曇ってきます。やがて、シュナーベル君の方がぽつりと「ミスったかな」と呟いてトボトボと家路についたという「それだけの話」です。
戦前におけるシュナーベルはそれこそベートーベン演奏のスタンダードでした。しかし、戦争で亡命したアメリカは純粋ヨーロッパ人の彼にとってはこの上もなく居心地の悪いところだったようで、目立った活動はほとんど出来ず、その名声にも少しばかり陰が差しました。それでもベートーベンの大家としての権威は戦後においても健在でした。
それに対してナットの方は、基本的には演奏家というよりは教育者でしたから、シュナーベルのような華々しいキャリアはありません。録音活動にもあまり熱心ではなかったようで、このベートーベンのピアノソナタ全集をのぞけばシューマンなんかにある程度まとまった録音がある程度です。ですから、この二人を聞き比べれば最初から勝負はついているようなものなのですが、シュナーベル君は建前に安住できる「愚かさ」は持っていなかったと言うことなのでしょう。

ユング君はナットの演奏をあらためて聴き直してみて、ティボール・ヴァルガを思い出してしまいました。ヴァルガもまた若くして華やかなキャリアをスタートさせながら、その虚飾の世界にうんざりしてその生涯を教育活動に捧げた人でした。そんな彼の演奏は多くは残っていないのですが、そのどれもが何もしていないようなのに、聞き進むうちに深い感情を呼び起こさずにはおられない性質のものでした。
「どうだ、おれのテクニック、凄いだろ!!」「こんな解釈、誰もやってないもんね!!」などというあざとさは全く無縁の演奏で、言葉の最も正しい意味で、作曲家の意思に忠実な演奏でした。それは、作曲家がその作品に託した思いを最大限にくみ取って、それをひたすら誠実に表出しようという演奏でした。そこでは、演奏という行為が現実世界のあらゆる利害関係から離れた地点で成り立っていました。
そして、ナットのベートーベン演奏もまた同じような場所において成り立っているように聞こえます。
荒っぽいまとめ方を許してもらえるならば、彼の演奏は全体として速めのテンポで淡々と弾ききっているようで、一聴すると何もしていないように聞こえるくらいにあっさりしています。ただし、一つ一つの音はクリアで曖昧さというものが全くありません。そのために、昨今の楽譜に忠実な演奏によく見られるように「本当に何もしていない」のではなくて、その淡々とした演奏の中に繊細で微妙な感情が交錯していく様が手に取るように浮かび上がってきます。
もちろん、こんな書き方をすると、同時代にソナタ全集を完成させたバックハウスやケンプは邪念の塊だったと言っているように聞こえるかもしれませんが、それは違います。ユング君はバックハウスやケンプの作品に対する誠実さには全く疑問は抱いていません。しかし、基本的にコンサートピアニストであった彼らにはナットのような心境になることは出来なかったのではないかと言うことです。
つまり、演奏という行為を生業としないことによって成り立つ演奏というスタイルがあると言うことです。それが録音という形で残ることは希であるが故に、その様な希な演奏に出会うと言うことはこの上もない喜びだと言うことです。
そして、これもまた何度も繰り返しますが、その様なすぐれた録音が著作権という檻から解き放たれてパブリックドメインの仲間入りをすることで多くの人が享受できるようになると言う矛盾はこれからも何度でも指摘し続けていきたいと思います。

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