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モーツァルト:セレナード第13番ト長調 K.525 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」

ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1954年12月28・30日録音



Mozart:アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク 「第1楽章」

Mozart:アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク 「第2楽章」

Mozart:アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク 「第3楽章」

Mozart:アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク 「第4楽章」


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小さい枠ではあるが、それ自身で完結した小宇宙

この作品は驚くほど簡潔でありながら、一つの完結した世界を連想させるものがあります。
「音符一つ変えただけで音楽は損なわれる」とサリエリが感嘆したモーツァルトの天才をこれほど分かりやすく提示してくれる作品は他には思い当たりません。

おそらくはモーツァルトの全作品の中では最も有名な音楽の一つであり、そして、愛らしく可愛いモーツァルトを連想させるのに最も適した作品です。
ところが、それほどまでの有名作品でありながら、作曲に至る動機を知ることができないという不思議さも持っています。

モーツァルトはプロの作曲家ですから、創作には何らかのきっかけが存在します。
それが誰かからの注文であり、お金になる仕事ならモーツァルトにとっては一番素晴らしい動機だったでしょう。あるいは、予約演奏会に向けての作品づくりであったり、出来のよくない弟子たちのピアノレッスンのための音楽作りであったりしました。
まあ早い話が、お金にならないような音楽づくりはしなかったのです。

にもかかわらず、有名なこの作品の創作の動機が今もって判然としないのです。誰かから注文があった気配はありませんし、演奏会などの目的も考えられません。何よりも、この作品が演奏されたのかどうかもはっきりとは分からないのです。

そんなわけで、自分のために音楽を作るということはちょっと考えづらいモーツァルトなのですが、もしかしたら、この作品だけは自分自身のために作曲したのかもしれないのです。もしそうだとすると、これは実に貴重な作品だといえます。
そして、そう思わせるだけの素晴らしさを持った作品でもあります。


今の耳からすればいささか鈍重かもしれません。

今年はモーツァルトの生誕250年ということで、いつもはクラシック音楽なんかには見向きもしない世間も何かと喧しい。さすがに民放各局でモーツァルトを特集することはほとんどありませんが、NHKの方は今年をモーツァルトイヤーと位置づけてけっこう腰の据わった取り組みを展開しています。
そんな中の一つとして、「あなたの好きなモーツァルト曲ベスト10」というアンケートを行っていました。1月にも同じような企画をしていたと思うのですが、結果はやはり「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」が断トツのトップでした。とある出演者が「この傾向って他の国でも同じなんでしょうかね?」と語っていましたが、ユング君も全く同感で、ぜひ他の国でも同じようなアンケートを行ってその結果を知りたいものだと思いました。

コアなクラシック音楽ファンの中には、「なぜに、アイネクが一位なんだ?」と不満に思う人も多いのでしょう。しかし、考えようによっては絶妙な選択かもしれないと納得もさせられます。
アイネクと言えば通俗名曲の代表選手みたいなもので、その音楽は手垢にまみれたという表現ですらも追いつかないほどに擦り切れています。しかし、そこまで擦り切れながらもなお一位になると言うことは、それほどまでに酷使されながらも、それでもなお多くの人を心を魅了する何かを持っていると言うことです。これは考えようによっては、(いや、そこまで深く考え込まなくても)凄いことです。

おそらく、この作品の最大の魅力は簡潔でありながらも一つの世界として見事に完結していると言うこと、そして何よりもモーツァルトの最大の魅力である「疾走感」が作品全体を貫いていることでしょう。
小林秀雄が語った「失踪する悲しみ」は、この作品においてもあてはまります。それも、ト短調のクインテットのような地獄の底をのぞき込むような不気味さとは無縁で、音楽はどこまでも可憐で愛らしいが故に多くの人の心をとらえます。

そう考えると、このワルターの演奏は少しばかり鈍重に過ぎるかもしれません。同じことが58年のステレオ録音でも指摘できます。
ここでは、音楽は疾走しておらず、涙は振り切られることなく音楽の襟首をつかんで聞き手の心に追いついてきます。ですから、音楽の頬には涙の痕がしっかりとついてしまっています。
しかし、20世紀の中葉におけるモーツァルトのスタンダード的な表現とはこういうものだったのでしょう。
そうだとするならば、疾走する悲しみにモーツァルトの本質を見いだした小林の慧眼にこそ敬意を表すべきなのかもしれません。
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