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カーゾン(Clifford Curzon)|シューベルト:4つの即興曲 D.935 No.1(Schubert:Four Impromptus, D935 [1.Allegro Moderato, F Minor])
シューベルト:4つの即興曲 D.935 No.1(Schubert:Four Impromptus, D935 [1.Allegro Moderato, F Minor])
(P)クリフォード・カーゾン 1952年12月9日~11日録音(Clifford Curzon:Recorded on December 9-11, 1952)
Schubert:Four Impromptus, D935 [1.Allegro Moderato, F Minor]
シューベルトの本質は歌
シューベルトの本質はあくまでも歌、メロディラインにこそ存在します。その本質である歌を細かく切り刻んで、その欠片をもとに再構築するというようなやり方は彼にとっては自殺行為にも等しかったのでしょう。
ですから、彼のソナタ作品ではその様な彼の本能が前面に出ているがために、どこかまとまりのない雰囲気がつきまといます。確かに彼はピアノソナタにおいても多くの優れた作品をのこしましたが、どこか窮屈な雰囲気は否めません。
しかし、この「即興曲」のような小品集では彼は常に自由であり、彼の「歌う個性」が遺憾なく発揮されているように思えます。
そして、不思議なことなのですが、そう言うソナタ形式という枠組みを外された作品の方が、結果として不思議な統一感でまとめ上げられているように感じられます。
誰かが書いていたことなのですが(その誰かが思い出せない)、シューベルトにおいてはピアノソナタは常に即興的であり、即興曲では何故かソナタ的になるのです。
とりわけ、D.935の即興曲はその様な統一感の強い作品であり、シューマンは次のような賛辞を与えています。
「自ら即興曲と名付けたとは信じがたい。第1番は明らかにソナタの第1楽章であり、完璧だ。第2番も調性や曲想から言って同じソナタの第2楽章だ。・・・第3番は別の曲だが、第4番はもしかするとこのソナタのフィナーレかもしれない。」
それと比べれば、D.899の即興曲の方はより自由なのかもしれません。第1番は自由な変奏曲形式のようであり、第3番は明らかにロマン派の無言歌につながっていく音楽です。そして第2番では音符は流れ落ちるように下降し、駆け上がる様に上昇しますし、4番はこの上もなくピアニスティックな音楽になっています。その自由さの中にシューベルトの歌う本質が思う存分に羽ばたいているのです。
しかし、こういう言い方はソナタこそがピアノ音楽の王様であり、小品はそれより劣る物という考え方の表明なのかもしれません。
シューベルトは、何処までが本心だったのかは分かりませんが、D.899の即興曲よりもはるかに統一感の強いD.935にも即興曲集と名付け、それらの4作品をまとめて出版してもらってもいいし、ばら売りでもいいと書いています。
その辺は、芸術家としての強い矜恃を持ち続けていたベートーベンとは全く異なるタイプの人間であったことの証明でもあります。
きちんとした端正な演奏
カーゾンと言えばセルが認めた数少ないピアニストとして有名です。録音嫌いで有名で、若い時代に残した録音の多くも破棄してしまったというエピソードは有名です。
演奏の途中で指が滑って隣の鍵盤に触れてしまうことを防ぐために、鍵盤をヤスリで削っていたという話も残っています。
つまり神経質なほどに完璧主義者だったようで、その様な姿勢が同じく完璧主義者のセルには好ましく思えたのでしょう。
とにかく、名人芸をひけらかせてバリバリ弾き倒すタイプとは対極にあります。壊れそうなほどの繊細なタッチと、何よりも弱音部の美しさが持ち味の人でした。コンサートホールを名人芸で圧倒するのではなく、分かる人だけ分かってもらえばいいと言うタイプです。
その様なスタンスは、シューベルトのピアノ作品とはとても相性がいいように思います。昨今のピアニストは、シューベルトをネッチリト演奏する人が多いようで辟易することが多いのですが、ここでのカーゾンは実に端正であっさりと演奏しています。しかし、カーゾンならではの繊細なガラス細工のような音色で歌いつがれていくと、そこからシューベルトならではなのはかない悲しみが浮かび上がってきます。
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