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チッコリーニ(Aldo Ciccolini)|グリーグ:バラード ト短調, Op.24(Grieg:Ballade in G minor, Op.24)
グリーグ:バラード ト短調, Op.24(Grieg:Ballade in G minor, Op.24)
(P)アルド・チッコリーニ:1964年12月29日録音(Aldo Ciccolini:Recorded on December 29, 1964)
Grieg:Ballade in G minor, Op.24
悲しみの中で書かれた自由な幻想の飛翔
グリーグのピアノ作品といえば、まずはピアノ協奏曲、そして抒情小曲集(第1集~第10集までで全66曲)が思い浮かびます。さて、それ以外となるとなかなか思いつきません。
調べてみれば、ピアノソナタが1曲、そしてバラードが1曲あたりがそこそこ有名だそうです。
恥ずかしながら、私もまたこのチッコリーニの録音で初めて「バラード」を聞きました。
グリーグのピアノ作品といえば小品が大部分なのですが、その中にあって初期のピアノソナタや協奏曲を除けば、このバラードだけが唯一、それなりの規模を持った作品だそうです。
このバラードは正式には「ノルウェー民謡による変奏曲形式のバラード」という名づけられています。
作曲されたのは1976年で、その年はグリーグが両親を亡くした年でした。それ故に、この作品は深い悲しみの中で書かれた作品であり、優れたピアニストでもあったグリーグなのですが、公開の場においてこの作品を演奏したことはありませんでした。
なお、「ノルウェー民謡による変奏曲形式のバラード」という名づけからも分かるように、この作品はノルウェー民謡を素材として10の変奏とコーダからできています。ちなみに、14の変奏とコーダからなっているという記述も見えるのですが、異なったヴァージョンでも存在するのでしょう。そのあたりのことは私にはよくわかりません、
なお、素材となったノルウェー民謡は作曲家であり民謡収集家としても知られるルドヴィク・マティアス・リンデマンによって出版された「北地の農夫」によるものです。「北地の農夫」はリンネマンが和声付けをして出版した「新しく、そして古い山地の調べ」の第2巻の14曲目に収録されているとのことで、バラードの中ではそのリンネマンの素材にごくわずか手を入れているそうです。。(細かい話ですが・・・^^;)
グリーグは己の悲しみをこの作品の中で幻想的な飛翔へと昇華させているかのようです。
パリッとした粋な雰囲気
チッコリーニという人は非常に息の長い演奏家でした。
2015年に89才でこの世を去るのですが、その直前まで現役のピアニストとして活動をしていました。晩年は日本とも縁が深く、毎年のように来日公演を行っていて、90才を迎える2016年にも公演が予定されていたほどです。
ピアニストには長命の人が多く、その最期まで現役として活動を続ける人は多いのですが、その少なくない部分が「誰か止める人はいないのか!」と言いたくなるような醜態をさらすことは少なくありません。しかし、チッコリーニはそう言う中にあって、疑いもなく「希有な例外」だったようです。
私は彼のコンサートに足を運んだことはないので人の受け売りの域を出ないのですが、それでも多くの人が晩年のチッコリーニの変貌ぶりに驚き、そして称賛を惜しまないのです。
若い頃のチッコリーニというのは、何というか、パリッとした粋な雰囲気がいつも漂っています。それは、音楽を煉瓦のように積み上げていく「ドイツ風」のピアニストたちとは正反対の場所に位置するピアニストです。
音色はどこまでもからりと乾いていて、一つ一つの音はまるでチェンバロのようにころころとよく転がるのです。そして、彼の名刺代わりだったサティなんかを聞くと、いつもパリッとした粋な雰囲気が漂っていました。
ただ、それはそれなりに美質としては感じながらも、時によっては、そして作品によってはもっとどろっとした「情念」みたいなものが欲しくなるときはありました。
例えば、彼の得意分野でもあったリストもまたある意味ではあっけらかんとしたクリアな響きと強固な形式感によって貫かれていました。トレモロなんかも、驚くほど一音一音が明確に聞こえるので、そこからはふわっとした幻想的な感覚はほぼ皆無です。
しかし、それこそが若い時代のチッコリーニなんですね。
当然のことながら、ここで紹介している一連のグリーグの作品などもまた、北欧的な叙情は後退して、いわゆるラテン的な明晰さに貫かれています。
彼はこういう音楽を地道にやり続けることで、結果として自分の音楽の根っこと土台を強固なものにしていきました。そして、その事が年をとって衰えが出てきたときに、その衰えに相応しい音楽にチェンジする余裕を与えたのでしょう。
晩年のチッコリーニの音楽が、若い頃と較べて本当に素晴らしいものだったのかは私には分かりません。しかし、それは「醜態」でなかったことだけは確かなようですし、その「変貌」を遂げた音楽が多くの人を魅了したことも事実のようです。
しかし、晩年の彼の音楽を特徴づけるふんわりとした響きの底には、若き時代にクリアな響きを駆使したテクニックがあってこその話であることは間違いないことです。
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