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マルケヴィッチ(Igor Markevitch)|ベートーヴェン:「命名祝日」序曲, Op.115(Beethoven:Namensfeier Overture, Op.115)
ベートーヴェン:「命名祝日」序曲, Op.115(Beethoven:Namensfeier Overture, Op.115)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ラムルー管弦楽団 1958年11月26日録音(Igor Markevitch:Concerts Lamoureux Recorded on November 26, 1958)
Beethoven:Namensfeier Overture, Op.115
皇帝の「命名祝日」には演奏されなかった
![](../Jacket_record/Igor_Markevitch/Markevitch_Beethoven_Namensfeier_Overture_Op115_58.jpg)
「命名祝日」の草稿にはベートーベンの筆跡で「1814年ブドウ収穫の月1日ー我が皇帝陛下の命名日の夕べ」と記されています。
「命名祝日」のネーミングはベートーベン自身によるこの書き込みに由来します。しかし、残念ながらオーストリア皇帝フランソワ2世の命名祝日(10月4日)に演奏される事はなく、翌年の3月に一部を改作して「最新のハ長調序曲」という実に味も素っ気もないタイトルで初演されています。さらに付け加えれば、その後戸の作品が再演された1818年には「狩猟序曲」として演奏され、最終的にはリトアニアの貴族ラッヴィル侯爵に献呈され「大管弦楽のための大序曲ハ長調」として出版されました。
そのために、この作品を「命名祝日」と呼ぶのは不適切だという意見も多いようです。
しかし、全体的に力強く、祝典的な性格の音楽であり、「狩猟序曲」とか「大管弦楽のための大序曲ハ長調」よりは「命名祝日」の方が相応しいように思いますし、結果としてこの通り名が今では一般化しています。
とまあ、そう言うややこしい経緯を持った作品なのですが、それもまた機会音楽と言うことなのでしょう。
ただし、注目したいのはシラーの「歓喜の頒歌」のために着想された音楽がスケッチ帳に残っていて、この作品にはそれが転用されていることです。
思い切り踏み込んでのフルスイング
こういう演奏を聞かされると、あらためてベートーベンというのは160キロを超えるような剛速球をビシビシと投げ込んでくる豪腕投手なんだなと納得させられます。
ベートーベンは常に演奏者に対して全力を投入することを求めるといった人がいました。誰の言であったのかは今となっては思いだせないのですが、大いに納得させられた指摘でした。
それは、オケの技術のレベルにかかわらず、ベートーベンは全力で立ち向かうことを要求すると言うことです。もちろん、それはオケだけに限った話ではなく、ピアニストやヴァイオリニストなどにもあてはまるのでしょうが、私がその言葉を実感として最も強く感じるのはオケの場合です。
おそらく、同じような経験をした人は多いと思うのですが、例えば技術的に少なくない課題を抱えるアマチュアのオケであっても、そこに全力を注ぎ込む意志と情熱があれば、不思議なほどに感動を与えてもらうことがあります。
逆に腕利きのプロのオーケストラがルーチンワークのように演奏してしまうと、表面的にはきれいで整っていても何故かその音楽は心の中に入ってこないという経験も少なからずしています。
おそらく、それは、ベートーベンの音楽には溢れるようなエネルギーとパッションが内包されているからでしょう。
ですから、演奏する者は技術の巧拙に関わりなく、思い切り踏み込んでフルスイングすることが求められるのです。
そして、ここでのマルケヴィッチとラムルー管は、ベートーベンという剛速球に対して、恐れることなく思い切り踏み込んで、渾身の力でフルスイングしています。そして、そのバットは見事にベートーベンの「芯」をとらえて場外にまで飛ばしてしまったかのようです。
マルケヴィッチとラムルー管が録音した序曲は以下の6曲です。
- ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番, Op.72a
- ベートーヴェン:「命名祝日」序曲, Op.115
- ベートーヴェン:「コリオラン」序曲, Op.62
- ベートーヴェン:「フィデリオ」序曲,Op.72b
- ベートーヴェン:「エグモント」序曲, Op.84
- ベートーヴェン:「献堂式」序曲, Op.124
おそらくは、交響曲の全曲録音を目指す中でセッションが組まれたのでしょうが、メインディッシュの交響曲の添え物という扱いは全くしていません。
それどころか、交響曲の時に勝るとも劣らないほどの力を注ぎ込んでいます。そして、作品自体が交響曲と較べればその全体像が把握しやすいだけにベートーベンの音楽が内包するエネルギーとパッションの凄さが分かりやすく、そこに注ぎ込まれた熱量の大きさには圧倒させられます。
まあ、でも録音を終えた後のラムルー管のメンバーはへろへろになったことでしょう。
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