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シュナイダーハン(Wolfgang Schneiderhan)|ベートーベン:ヴァイオリンソナタ 第2番
ベートーベン:ヴァイオリンソナタ 第2番
Vn:シュナイダーハン P:ケンプ 1952年9月録音
Beethoven:ヴァイオリンソナタ第2番 「第1楽章」
Beethoven:ヴァイオリンソナタ第2番 「第2楽章」
Beethoven:ヴァイオリンソナタ第2番 「第3楽章」
初期に集中するベートーベンのヴァイオリンソナタ
ベートーベンのヴァイオリンソナタは、9番と10番をのぞけばその創作時期は「初期」といわれる時期に集中しています。9番と10番はいわゆる「中期」といわれる時期に属する作品であり、このジャンルにおいては「後期」に属する作品は存在しません。
ピアノソナタはいうまでもなくチェロソナタにおいても、「後期」の素晴らしい作品を知っているだけに、この事実はちょっと残念なことです。
ベートーベンはヴァイオリンソナタを10曲残しているのですが、いくつかのグループに分けられます。
まずは「Op.12」として括られる1番から3番までの3曲のソナタです。この作品は、映画「アマデウス」で、すっかり悪人として定着してしまったサリエリに献呈されています。
いずれもモーツァルトの延長線上にある作品で、「ヴァイオリン助奏付きのピアノソナタ」という範疇を出るものではありません。しかし、その助奏は「かなり重要な助奏」になっており、とりわけ第3番の雄大な楽想は完全にモーツァルトの世界を乗り越えています。
また、この第3番のピアノパートがとてつもなく自由奔放であり、演奏者にかなりの困難を強いることでも有名です。
続いて、「Op.23」と「Op.24」の2曲です。この二つのソナタは当初はともに23番の作品番号で括られていたのですが、後に別々の作品番号が割り振られました。
ベートーベンという人は、同じ時期に全く性格の異なる作品を創作するということをよく行いましたが、ここでもその特徴がよくあらわれています。悲劇的であり内面的である4番に対して、「春」という愛称でよく知られる5番の方は伸びやかで外面的な明るさに満ちた作品となっています
次の6番から8番までのソナタは「Op.30」で括られます。この作品はロシア皇帝アレクサンドルからの注文で書かれたもので「アレキサンダー・ソナタ」と呼ばれています。
この3つのソナタにおいてベートーベンはモーツァルトの影響を完全に抜け出しています。そして、ヴァイオリンソナタにおけるヴァイオリンの復権を目指したのベートーベンの独自な世界はもう目前にまで迫っています。
特に第7番のソナタが持つ劇的な緊張感と緻密きわまる構成は今までのヴァイオリンソナタでは決して聞くことのできなかったスケールの大きさを感じさせてくれます。また、6番の第2楽章の美しいメロディも注目に値します。
そして、「クロイツェル」と呼ばれる、ヴァイオリンソナタの最高傑作ともいうべき第9番がその後に来ます。
「ほとんど協奏曲のように、極めて協奏風に書かれた、ヴァイオリン助奏付きのピアノソナタ」というのがこの作品に記されたベートーベン自身のコメントです。
ピアノとヴァイオリンという二つの楽器が自由奔放かつ華麗にファンタジーを歌い上げます。中期のベートーベンを特徴づける外へ向かってのエネルギーのほとばしりを至るところで感じ取ることができます。
ヴァイオリンソナタにおけるヴァイオリンの復権というベートーベンがこのジャンルにおいて目指したものはここで完成され、ロマン派以降のヴァイオリンソナタは全てこの延長線上において創作されることになります。
そして最後にポツンと創作されたような第10番のソナタがあります。
このソナタはコンサート用のプログラムとしてではなく、彼の有力なパトロンであったルドルフ大公のために作られた作品であるために、クロイツェルとは対照的なほどに柔和でくつろいだ作品となっています。
これはとんでもなく素晴らしい掘り出し物かも?
ベートーベンのヴァイオリンソナタといえば、オイストラフとオポーリンのコンビによる録音が長らくスタンダードの盤としての位置を占めていました。ですから、ユング君もそのセットは持っています。
しかし、正直に告白しますと、その決定盤であるべきはずのセットを聞いて感心したことは一度もありませんでした。「堂々とした落ち着きと風格のある演奏」だとか、「深くて大きな演奏」だとか言われても、全10曲のどれを聴いても今ひとつピンとこないのです。ただし、この「ピンとこない」というのはオイストラフ&オポーリンのコンビに限った話ではなく、実は他の演奏家によるどの演奏を聴いても同じでした。
ですから、「ベートーベンもヴァイオリンソナタに関してはいまいちだね!」などと恐れ多いことをほざいていたのでした。>w< ) ナヌッ!
ところが、今回このシュナイダーハンとケンプによる演奏を聴いてみて、そう言う恐れ多い物言いは、「やはり」というか、「当然」と言うべきか、間違いであることを教えられました。なぜならば、今までは誰の演奏を聴いても感心させられることのなかった作品なのですが、この二人のコンビによる演奏には心底感心させられてしまったからです。
とにかくシュナイダーハンの音色が素晴らしいです。
やや細身かもしれませんが実に艶やかな美音を振りまいてくれます。さすがはウィーンフィル最高のコンマスと讃えられただけのことはあるウィーンの音色です。しかし、そのような美音を持っていながら決してそれにもたれかかることなく、できあがってくる音楽はガッシリとした構築性を堅持していることがさらにすごいのです。
とにかく美音にもたれかかって音楽が崩れると言うことは全くありません。それどころか、背筋をピシリと伸ばして、まなざしを常に遠くを見つめているような潔さが満ちています。それはたとえてみれば(かなりおかしな喩えですが・・・)、すごい美人でありながら、その美貌に決して甘えることなく黙々と仕事に励む女性を見る思いです。
そして、ケンプのピアノも派手さや鋭い切れ込みなどはありませんが、この上もなく深々とした響きは幻想的という言葉を使いたくなるほど魅力的です。ユング君は、ベートーベンのヴァイオリンソナタがこんなにも「美しく」響くのを初めて聞いたような気がします。
ケンプも未だに50代であり、シュナイダーハンもウィーンフィルのコンマスを辞任してソリストとしての活動を始めたばかりの頃です。二人の演奏家の全盛期とも言うべき時期になんという幸運な出会いがあったことでしょう。神に感謝あるのみです。
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