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マックス・ロスタル(Max Rostal) |ベートーベン:ヴァイオリンソナタ第7番 ハ短調 Op.30-2(Beethoven:Violin Sonata No.7 in C Minor, Op. 30, No.2)
ベートーベン:ヴァイオリンソナタ第7番 ハ短調 Op.30-2(Beethoven:Violin Sonata No.7 in C Minor, Op. 30, No.2)
(Vn)マックス・ロスタル:(P)ローター・ブロダック 1958年録音(Max Rostal:(P)Lothar Broddack Recorded on 1958)
Beethoven:Violin Sonata No.7 in C Minor, Op. 30, No.2 [1.Allegro con brio]
Beethoven:Violin Sonata No.7 in C Minor, Op. 30, No.2 [2.Adagio cantabile]
Beethoven:Violin Sonata No.7 in C Minor, Op. 30, No.2 [3.Scherzo: Allegro]
Beethoven:Violin Sonata No.7 in C Minor, Op. 30, No.2 [4.Finale: Allegro - Presto]
ベートーベンのヴァイオリンソナタの概要
ベートーベンのヴァイオリンソナタは、9番と10番をのぞけばその創作時期は「初期」といわれる時期に集中しています。9番と10番はいわゆる「中期」といわれる時期に属する作品であり、このジャンルにおいては「後期」に属する作品は存在しません。
ピアノソナタはいうまでもなくチェロソナタにおいても、「後期」の素晴らしい作品を知っているだけに、この事実はちょっと残念なことです。
ベートーベンはヴァイオリンソナタを10曲残しているのですが、いくつかのグループに分けられます。
作品番号12番の3曲
まずは「Op.12」として括られる1番から3番までの3曲のソナタです。この作品は、映画「アマデウス」で、すっかり悪人として定着してしまったサリエリに献呈されています。
3曲とも、急(ソナタ形式)-緩(三部形式)-急(ロンド形式)というウィーン古典派の伝統に忠実な構成を取っており、いずれもモーツァルトの延長線上にある作品で、「ヴァイオリン助奏付きのピアノソナタ」という範疇を出るものではありません。
しかし、その助奏は「かなり重要な助奏」になっており、とりわけ第3番の雄大な楽想は完全にモーツァルトの世界を乗り越えています。
ヴァイオリンソナタ 第1番 ニ長調 Op.12-1:習作的様相の強い「第2番」に比べると、例えば、ヴァイオリンとピアノの力強い同音で始まる第1主題からしてはっきりベートーヴェン的な音楽になっています。
ヴァイオリンソナタ 第2番 イ長調 Op.12-2:おそらく一番最初に作曲されたソナタと思われます。作品12の中でも最も習作的な要素が大きい作品といえます。
ヴァイオリンソナタ 第3番 変ホ長調 Op.12-3:変ホ長調という調性はヴァイオリンにとって決してやさしい調性ではないらしいです。しかし、その「難しさ」が柔らかで豊かな響きを生み出させています。「1番」「2番」と較べれば、もう別人の手になる作品になっています。また、ピアノパートがとてつもなく自由奔放であり、演奏者にかなりの困難を強いることでも有名です
作品23と作品24のペア
続いて、「Op.23」と「Op.24」の2曲です。この二つのソナタは当初はともに23番の作品番号で括られていたのですが、後に別々の作品番号が割り振られました。
ベートーベンという人は、同じ時期に全く性格の異なる作品を創作するということをよく行いましたが、ここでもその特徴がよくあらわれています。悲劇的であり内面的である4番に対して、「春」という愛称でよく知られる5番の方は伸びやかで外面的な明るさに満ちた作品となっています
ヴァイオリンソナタ 第4番 イ短調 Op.23:モーツァルトやハイドンの影響からほぼ抜け出して、私たちが知るベートーベンの姿がはっきりと刻み込まれた作品です。より幅の広い感情表現が盛り込まれていて、そこにはやり場のない怒りや皮肉、そして悲劇性などが盛り込まれて、そこには複雑な多面性を持った一人の男の姿(ベートーベン自身?)が浮かび上がってきます。
ヴァイオリンソナタ 第5番 へ長調 Op.24:この上もなく美しいメロディが散りばめられているので、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタの中では最もポピュラリティのある作品です。着想は4番よりもかなり早い時期に為されたようなのですが、若い頃のメロディ・メーカーとしての才能が遺憾なく発揮された作品です。
作品30の3曲「アレキサンダー・ソナタ」
次の6番から8番までのソナタは「Op.30」で括られます。この作品はロシア皇帝アレクサンドルからの注文で書かれたもので「アレキサンダー・ソナタ」と呼ばれています。
この3つのソナタにおいてベートーベンはモーツァルトの影響を完全に抜け出しています。そして、ヴァイオリンソナタにおけるヴァイオリンの復権を目指したベートーベンの独自な世界はもう目前にまで迫っています。
特に第7番のソナタが持つ劇的な緊張感と緻密きわまる構成は今までのヴァイオリンソナタでは決して聞くことのできなかったスケールの大きさを感じさせてくれます。また、6番の第2楽章の美しいメロディも注目に値します。
ヴァイオリンソナタ 第6番 イ長調 Op.30-1:秋の木漏れ日を思わせるような、穏やかさと落ち着きに満ちた作品です。ベートーベンらしい起伏に満ちた劇性は希薄なので演奏機会はあまり多くないのですが、好きな人は好きだという「隠れ有名曲」です。
ヴァイオリンソナタ 第7番 ハ短調 Op.30-2:ハ短調です!!ベートーヴェンの「ハ短調」と言えば、煮えたぎる内面の葛藤やそれを雄々しく乗り越えていく英雄的感情が表現される調性です。この作品もまたベートーヴェンらしい悲痛さと雄大さを併せもっているので、「春」「クロイツェル」に次ぐ人気作品となっています。
ヴァイオリンソナタ 第8番 ト長調 Op.30-3:7番の作曲に全力を投入したためなのか、肩の力が抜けてシンプルな作品に仕上がっています。ただし、そのシンプルさが何ともいえない美しさにつながっていて、人というのは必ずしも、何でもかんでも「頑張れ」ばいいというものでないことを教えてくれる作品です。
作品47
そして、「クロイツェル」と呼ばれる、ヴァイオリンソナタの最高傑作ともいうべき第9番がその後に来ます。
「ほとんど協奏曲のように、極めて協奏風に書かれた、ヴァイオリン助奏付きのピアノソナタ」というのがこの作品に記されたベートーベン自身のコメントです。
ピアノとヴァイオリンという二つの楽器が自由奔放かつ華麗にファンタジーを歌い上げます。中期のベートーベンを特徴づける外へ向かってのエネルギーのほとばしりが至るところで感じ取ることができます。
ベートーベンがこのジャンルにおいて目指した「ヴァイオリンソナタにおけるヴァイオリンの復権」という目標はここで完成され、ロマン派以降のヴァイオリンソナタは全てこの延長線上において創作されることになります。
ヴァイオリンソナタ 第9番 イ長調「クロイツェル」 Op.47:若きベートーベンの絶頂期の作品です。この時代には「交響曲第3番(英雄)」「ピアノ・ソナタ第21番(ワルトシュタイン》)「ピアノ・ソナタ第23番(熱情)」が生み出されているのですが、それらと比肩しうるヴァイオリンソナタの最高傑作です。
作品96
そして最後にポツンと取り残されたように創作された第10番のソナタがあります。
このソナタはコンサート用のプログラムとしてではなく、彼の有力なパトロンであったルドルフ大公のために作られた作品であるために、クロイツェルとは対照的なほどに柔和でくつろいだ作品となっています。
ヴァイオリンソナタ 第10番 ト長調 Op.96:「クロイツェル」から9年後にポツンと作曲された作品で、長いスランプの後に漸く交響曲第7番や第8番が生み出されて、孤高の後期様式に踏み出す時期に書かれました。クロイツェルの激しさとは対照的に穏やかな「田園的」雰囲気にみちた作品となっています。
古典的な佇まいを大事にした
ロスタルの演奏は常に誠実であり、ノーブルであることはいうまでもないのですが、その根っこの部分には古き良き時代のロマンティシズムがあふれていることに気づかされてきました。
しかし、相手がベートーベンとなるといささかそのロマンティシズムが後ろに退いてベートーベンらしい古典的な構築性を大切にしようという意識が前面に出てくるようです。
それは51年に録音したクロイツェルにしても、54年に録音した4番と8番にも共通するところです。
それ故に、とりわけクロイツェルなどは実に佇まいの凛としたこの上もなく立派な演奏です。そう、この上もなく立派であることは誰しもが認めることでしょう。
ただし、欲を言えば、こういう方向性のべートーベンならばこれに変わりうる演奏が他にもあるという、実に勝手気ままな聞き手の我が儘が出てきてしまいます。できれば、あのブラームスのヴァイオリン・ソナタのように、彼が本来持つロマン性が「ドン!」と前に出てくれれば聞き手にとっては面白いベートーベンとなったのにと思ってしまうのです
、まあ、そう言う邪道をこの誠実にしてノーブルな男に期待するのは間違いですね。
ただし、面白いのは58年のライブ録音と思われる第7番の演奏です。
スタジオ録音とは違ってライブの演奏ということで、ここではロマン的なロスタルの本能のようなものがそれほど後退していません。やはり、何度も聞かれ、多くの人の手もとに届くスタジオ録音と一発勝負のライブ録音の違いということなのでしょう。その場だけの、一期一会の演奏ならば、己の想いにより添って演奏した方が聞き手にとっても幸せであり、演奏する側にとっても意義あるものになると言うことなのでしょう。
なお、最近知ったことなのですが、ロスタルが使用していたヴァイオリンはグァルネリ・デル・ジェズ「チャールズ・リード」なる1732年製作の楽器だそうです。なるほど、彼はストラディヴァリウスではなくてグァルネリの方を愛していたのですね。
そして、驚いたのは、この「チャールズ・リード」を現在使っているのが諏訪内晶子だというのです。諏訪内晶子と言えばかつてハイフェッツが愛用していたストラディヴァリウス「ドルフィン」を使っているという思いこみがあったのですが、それは貸与期間が過ぎて彼女のもとを去ったらしいのです。
そんな彼女が運命的に出会ったのがグァルネリ・デル・ジェズ「チャールズ・リード」だったらしいのです。
こんなところで偉大なヴァイオリニストであったロスタルと結びつくとは何という運命でしょうか。
ちなみにグァルネリ・デル・ジェズ「チャールズ・リード」は「The Ryuji Ueno Foundation」を主宰するDr.リュウジ・ウエノ氏によって長期貸与されるようになったようです。お金持ちの人はこういうお金の使い方をしてほしいものですね。
諏訪内晶子はかつて使っていた「ドルフィン」と「チャールズ・リード」を比較して次のように語っていました。
ストラディヴァリウスは楽器自体が完成されていますから、その良さを引き出すのが演奏家の役目。私に馴染んでくるのではなく、逆に私が馴染んでいくという感じです。楽器自体に緊張感があって、それをできるだけ崩さない形で音を作っていくことが必要です。一方、デル・ジェズは弾いているだけでは音はあまり出てこないのです。ストラディヴァリウスの場合は、楽器の持っている音を壊さないでいい状態で出すことが必要ですが、デル・ジェズは楽器が持っている音を引き出してあげるのが演奏者の役目。
ですから、自分の出したい音のイメージがはっきりしている人のほうが演奏しやすいと思います。
自分の出したい音のイメージがはっきりしている人のほうが演奏しやすい、ですか、なるほどね。
おそらく、ロスタルが愛したのも同じ思いだったのかもしれません。
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