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コリン・デイヴィス(Colin Davis)|ベルリオーズ:ヴィオラ独奏付き交響曲 「イタリアのハロルド」
ベルリオーズ:ヴィオラ独奏付き交響曲 「イタリアのハロルド」
コリン・デイヴィス指揮:(Viola)ユーディ・メニューイン フィルハーモニア管弦楽団 1962年10月16日&22日~23日録音
Berlioz:Harold in Italy, Symphony with solo viola in 4 parts [1.Harold in the mountains. Scenes of melancoly, happiness and joy]
Berlioz:Harold in Italy, Symphony with solo viola in 4 parts [2.Procession of pilgrims singing the evening hymn]
Berlioz:Harold in Italy, Symphony with solo viola in 4 parts [3.Serenade of an Abruzzi-mountaineer to his sweetheart]
Berlioz:Harold in Italy, Symphony with solo viola in 4 parts [4.The brigands orgies. Reminiscences of the preceding scenes]
もう一つの幻想交響曲

タイトルは「ヴィオラ独奏付き交響曲」となっています。
何ともおかしな「形式」なのですが、それはヴィオラの銘器を手に入れたパガニーニから、そのヴィオラを使って名人芸を披露できる協奏的な作品を依頼されたことがきっかけになっているからです。最初は断ったらしいのですが、ベルリオーズの才能の惚れ込んでいたパガニーニは諦めなかったので、ついにはベルリオーズも乗り気になって取り組むことになった次第なのです。
ところが、やり始めるととめどもなくイメージがふくらんでいくのがベルリオーズの常なので、結局は名人芸を披露するための協奏的な作品ではなくて、「ヴィオラ独奏付きの交響曲」とでも呼ぶしかないような作品になってしまったのです。
この作品はバイロンの長編詩「チャイルド・ハロルド」を下敷きにしているのですが、聞けば分かるようにその音楽は「幻想交響曲」を思い出させるものになってしまっています。
つまりは、そう言う下敷きを隠れ蓑にした、私小説的な音楽になってしまっているのです。
伝えられた話によると、第1楽章が仕上がった時点でパガニーニが様子を見に来たらしいのですが、ヴィオラの休みがあまりにも多いことに不満を述べたというのです。
そして、その事で、ベルリオーズもまた、自分が「書きたい」と思っている音楽とパガニーニが「期待」している音楽は別のものであることを悟り、それ以後は自分の霊感のおもむくままに筆を進めたというのです。
ベルリオーズが考えたのは、独奏ヴィオラを一人の人物に仕立て上げることです。そして、筆が進むにつれてそのハロルドに自分自身の姿を重ね合わせていくようになり、仕上がってみればそのハロルドとは結局はベルリオーズ自身という音楽になっているのです。
第1楽章「山におけるハロルド、憂愁、幸福と歓喜の場面」
独奏ヴィオラが周囲の出来事に遭わせて喜び悲しむという、ハロルドの(と言うことはベルリオーズ自身の)性格を巧みに表す音楽になっています。
第2楽章「夕べの祈祷を歌う巡礼の行列」
巡礼の一群が通り過ぎていく黄昏の景色をハロルドは眺め続けます。巡礼たちは山の小さな教会に立ち寄り、そこで敬虔に賛美歌を歌って、やがてハロルドの前を通り過ぎていきます。ハロルドもまた、その賛美歌にあわせてヴィオラのアルペッジョで加わります。
第3楽章「アブルッチの山人が、その愛人によせるセレナード」
第2楽章が緩徐楽章だとすればこの第3楽章は明らかにスケルツォ的性格を持っています。祭りの舞踏に牧人の愛のセレナードが続き、そのセレナーデに独奏ヴィオラも加わります。
第4楽章「山賊の饗宴、前後の追想」
この饗宴は明らかに幻想交響曲の「悪魔の饗宴」を想起させます。それは、ベルリオーズ自身の自虐的な性格の反映でもあります。
そして、その果てにハロルドは山賊の洞窟に踏み込むもののヴィオラの固定楽想の主題は引きちぎられ、山賊による饗宴は果てしなく続く中で音楽は閉じられます。
昔のメジャー・レーベルには余裕があった
まずは、こんな若手の指揮者によくぞこのような作品の録音にOKを出したものだと当時のEMIレーベルには敬意を表します。
ただし、EMIと言えばレッグがクレンペラーからブルックナーの6番を録音したいと言ったときに「そんなマイナーな作品の録音が売れるわけがない」と言って難色を示したという話が伝わっています。1962年と言えばEMIにおけるレッグの地位も下がってきた頃ですから、そう言う大胆な判断も可能だったのかもしれません。
さらに言えば、これこそが突然のデビューから必死に頑張って成果を残してきたデイヴィスへの「ご褒美」だったのかもしれません。彼のベルリオーズへの思い入れの深さは後の演奏活動を見れば一目瞭然ですから、まさにこれこそは彼が望んだ録音だったことでしょう。
そして結果として、まさにこの録音がベルリオーズのスペシャリストと言われるようになるコリン・デイヴィスの最初の一歩とも言うべき録音となったのです。
さらに言えば、この作品では極めて重要なヴィオラ独奏にメニューインを起用したことも大盤振る舞いだと言っていいでしょう。
もともと、この作品を依頼したのはパガニーニでした。
パガニーニは新しく手に入れたヴィオラの名器の能力を存分に発揮すべく、ヴィオラが派手に活躍できる作品をベルリオーズに依頼したのです。しかし、ベルリオーズはどうにもこうにも、そう言う名人芸をひけらかす作品は上手く書けなかったようで、結果として「ヴィオラとオーケストラのための交響曲」というスタイルに落ちついたのです。
聞いてみれば分かるように、協奏曲のようにソリストが活躍できるような音楽ではないのです。
通常のコンサートだと、ソリストが何もすることがなくてボンヤリ立っているだけの場面が多すぎて、名のあるソリストに依頼するのは申し訳ない感じの作品になってしまいまいます。
それにもかかわらず、そこにユーディ・メニューインというビッグ・ネームを起用したのですから大したものです。
そして、メニューインもヴァイオリンとは異なるヴィオラの特徴を引き出すために、あまり表面にしゃしゃり出ることなく、どこか一歩さがってヴィオラ特有の深みのある響きで演奏しています。そして、そのヴィオラ独奏の美しさは、その奥ゆかしさ故に、逆に心に染み込んできます。
この「イタリアのハロルド」と言えば、ミンシュとプリムローズによる1958年の録音を思い出すのですが、ここでのコリンズは十分に劇的でありながらもミンシュほどには荒れ狂っていません。
そのあたりのバランス感覚の良さが彼の持ち味といえるのですから、ミンシュとは違う魅力が十分に味わえる演奏です。
それにしても、昔のメジャー・レーベルには余裕があったんですね。今はまさに「貧すれば鈍する」の極みです。
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