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マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」

ストコフスキー指揮 Philharmonic SO 1950年録音
独唱:(S)Frances Yeend他
合唱:Westminster Choir他




異形の作品

異形の作品です。
まずは、金管群がばりばりに増強された巨大オーケストラの編成が常識をこえた異形です。ちょと、煩わしいですが、マーラーが指定している編成紹介しておきます。

*弦五部 
・第一ヴァイオリン・第二ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバス(低いハ音付き)
*木管群(合唱の人数が多い場合は倍増される)
・フルート 4・ピッコロ 複数・オーボエ 4・イングリッシュホルン 1・ピコロクラリネット 複数・クラリネット 3・バスクラリネット 1・ファゴット 4・コントラファゴット 1
*金管群
・ホルン 8・トランペット 4・トロンボーン 4・チューバ 1(離れた場所で(^^;・・・トランペット 4・トロンボーン 3)
*打楽器群
・ティンパニ 3・バスドラム 1・シンバル 3・タムタム・トライアングル・鐘・鉄琴 1
*その他
・チェレスタ 1・ピアノ 1・ハルモニウム 1・ハープ 2・マンドリン 複数

ピアノをオケの編成の中に数え入れていいのかちょっと悩みますがまあいいでしょう。そして、驚くなかれ、ここにさらに

パイプオルガン 1

が追加されます。
これだけの楽器群が一斉に鳴り響く様を想像してください。まさに常軌を逸しています。

ところが、マーラーはこれだけではまだまだ納得がいかなかったようで、さらに人間の声をここに追加しようとします。
考えてみれば分かることですが、中途半端に合唱を追加したのでは巨大なオケの前では霞んでしまいますから、当然の事ながらこちらも巨大化せざるをえなくなります。
マーラーが求めたものは、
二組の混声合唱と一組の児童合唱、そして8名のソリスト(ソプラノ 3・アルト 2・テノール 1・ バリトン 1・ バス 1)でした。

そして、この常軌を逸した異形の編成にマーラーが求めたものは、メンゲルベルグに宛てた手紙の中で明確に述べられています。
「大宇宙が響き始める様子を想像してください。それは、もはや人間の声ではなく、太陽の運行する声です。」
たしかに、第2部の終結部に向かって静かに歌い始められた合唱が次第に高揚していき、やがてはなれた場所に配置された金管群がそれにこたえ、ついには全管弦楽とパイプオルガンが一斉に鳴り響いて最後のクライマックスを築き上げていく様は、心のどこかで「虚仮威しだ」と思いつつも、やはり感動させられずにはおられません。

次に、異形なのは作品の構成です。
はたしてこれを交響曲といっていいのでしょうか。マーラーも、この作品を構成する単位を「楽章」ではなくて「第1部」「第2部」とよんでいますから、合唱とソリストを含んだ編成からいっても「オラトリオ」とよんだ方が相応しいように思われます。
それは、これに続く「大地の歌」が「オーケストラ伴奏付きの歌曲集」とよんだ方が相応しいのとよく似ています。

さらに、その二部構成のつながり具合もパッと見ただけでは意味不明です。困ったことに(^^;、じっくり考えてもよく分かりません。
どう考えても、木に竹をつないだような「ちぐはぐさ」を払拭し切れません。

第1部のテキストとして用いられているのは、賛歌「来たれ、創造主たる聖霊よ」です。これは、中世のエライお坊さんが作った有り難いポエムだそうです。
ところが、これに続く第2部はゲーテのファウストの最後の場面がテキストとして用いられています。
この二つのテキストが一つの作品のなかで、どのようにして有機的なつながりをもつのかがよく分からないのです。ある偉い先生のお説によると、両者はともに「永遠に女性的なるもの」が私たちを救済してくれて天国に導いてくれるというテーマで一貫している!!というのですが、私にはこじつけのようにしか聞こえません。

そうではなくて、おそらくこの作品においても、世界がもっているあるがままの諸相をあるがまに描きとっていくというマーラーの手法が使われていると思った方がいいのでしょう。ですから、一貫したテーマのもとに音楽を構築していると考えて、木に竹をつないだような二つの世界を無理に一つのテーマに括り込むのではなくて、「木は木、竹は竹」ととらえて、「木もあれば竹もあるのがこの世というものよ!」と開き直った方がいいのかもしれません。
とはいえ、その様な音楽のあり方というのは、ベートーベン以降の交響曲の歴史の中においてみると、やはり「異形の存在」と言わざるを得ません。

さらに、この作品はマーラーが生きた同時代において、圧倒的な成功をおさめました。「やがて、私の時代がくる」と歯がみしながら作品を作り続けたマーラーの生涯を振り返れば、その意味においても「異形」の存在だったといえます。
どれだけ将来に向かって確信を持っていたとしても、「現実の成功」はうれしいものです。「これまでの私の交響曲は、すべてこの曲の序曲に過ぎなかった。」とマーラー自身が述べているのも、その意味では割り引いて受け取る必要があるのかもしれません。

なお、蛇足ながら、この交響曲につけられた「千人の交響曲」というのは、マーラー自身がつけたものではありません。それは、初演の際に演奏者の数が千人を超えたことに注目した興行主が宣伝用のためにひねり出したキャッチコピーでした。マーラー自身はこのネーミングはあまりお気に召していなかったようですが、残念ながら今ではすっかりこの作品の副題として定着してしまいました。
現在では、この作品を演奏するために千人も要したのではとんでもない大赤字になってしまいますから、せいぜい三百〜四百人程度で演奏されるのが一般的なようです。

アメリカでの初演者、ストコフスキー


一般的なイメージからいっても、これほどストコフスキーにピッタリの作品はそうあるものではないように思います。実際、アメリカにおけるこの作品の初演は1917年で、その時の指揮者は若きストコフスキーでした。そして、マーラー自身の指揮によって1910年にミュンヘンで初演されたときも、リハーサルから本番まで立ち会うという経験もしています。
マーラーの使徒といえばワルターやクレンペラーが思い出されますが、マーラー作品をアメリカに広める上でのストコフスキーの役割というものも忘れてはいけません。
余談ながら、マーラーの「復活」に惚れ込んで、それ一曲だけの指揮者として活躍しているギルバート・キャプランというアメリカの金持ちがいますが、彼が「復活」に惚れ込むきっかけはストコフスキーによる演奏を聴いたからだと本人が語っています。

ところがです・・・。
私の手元に、彼の最晩年に録音した「復活」があります。それは実に丁寧で奇矯なところなどは欠片もない演奏です。そして、その事はこの第8番の演奏でも同様で、実に丁寧で落ち着いた演奏となっています。
もっとケレン味たっぷりに演奏することができるところはたくさんあるかと思うのですが、そういうところは意図的と思えるほどに押さえ込んで演奏しているようにさえ聞こえます。

この巨大な作品とストコフスキーの組み合わせから想像される世界とは全く異質な演奏なのです。
残念ながら、この二つ以外にストコフスキーのマーラー作品は聞いたことがないのですが、意外なほどに彼はマーラーに対しては敬虔だったのかもしれません。

よって、このストコフスキーの演奏は、この作品に圧倒的なパワーと絢爛たる響きを求める人には全く不向きです。しかし、この作品がもつもう一つの本質である宗教的な神秘性は十分に伝わってくる演奏だとは言えます。

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