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メンデルスゾーン:交響曲第4番 イ長調 作品90 「イタリア」

ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1966年6月録音



Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 "Italian" [1.Allegro vivace]

Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 "Italian" [2.Andante con moto]

Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 "Italian" [3.Con moto moderato]

Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 "Italian" [4.Saltarello. Presto]


弾むリズムとほの暗いメロディ

メンデルスゾーンが書いた交響曲の中で最も有名なのがこの「イタリア」でしょう。
この作品はその名の通り1830年から31年にかけてのイタリア旅行の最中にインスピレーションを得てイタリアの地で作曲されました。しかし、旅行中に完成することはなく、ロンドンのフィルハーモニア協会からの依頼を受けて1833年にようやく完成させています。

同年の5月13日に自らの指揮で初演を行い大成功をおさめるのですが、メンデルスゾーン自身は不満を感じたようで、その後1838年に大規模な改訂を行っています。
ただ、その改訂もメンデルゾーン自身を満足させるものではなくて、結局彼は死ぬまでこの作品のスコアを手元に置いて改訂を続けました。そのため、現在では問題が残されたままの改訂版ではなくて、それなりに仕上がった33年版を用いることが一般的です。

作品の特徴は弾むようなリズムがもたらす躍動感と、短調のメロディが不思議な融合を見せている点にあります。
通常この作品は「イタリア」という名が示すように、明るい陽光を連想させる音楽をイメージするのですが、実態は第2楽章と最終楽章が短調で書かれていて、ほの暗い情感を醸し出しています。明るさ一辺倒のように見える第1楽章でも、中間部は短調で書かれています。

しかし、音楽は常に細かく揺れ動き、とりわけ最終楽章は「サルタレロ」と呼ばれるイタリア舞曲のリズムが全編を貫いていて、実に不思議な感覚を味わうことができます。


まさにプロの仕事

サヴァリッシュのメンデルスゾーンと言えば、1967年にニュー・フィルハーモニア管弦楽団と録音した「全集」を想起するのが普通でしょう。
ところが、このメンデルゾーンの各曲の初出年がなかなか確定できませんでした。

しかし、漸くにして1966年に録音された4番と5番が1966年にリリースされ、1967年に録音された3番も1967年にリリースされていることが確認できました。
しかし、3番と同じく1967年6月にまとめて録音された1番と2番の初出年がどうしても分かりません。
日本国内では1968年に全集としてリリースされていることは分かったので、残念ながらギリギリでアウトかなと思っていました。しかし、最近になって、3番と同じく1967年にオランダで発行(Philips SC71AX404)されていることが確認できました。

つまりは、めでたくサヴァリッシュの全集はギリギリでパブリック・ドメインになっていると言うことです。
おそらく、60年代後半におけるサヴァリッシュの録音活動としてはこのメンデルスゾーンの交響曲全集は大きな位置を占めるものですから、それらがパブリック・ドメインとして紹介できるのは幸いなことです。

サヴァリッシュのメンデルスゾーンと言えば1959年にウィーン交響楽団と録音した「イタリア」があります。
このニュー・フィルハーモニア管弦楽団を使っての全集録音は、その時のアプローチとほとんど変わっていないように思われます。さらに言えば、59年録音の特徴だった美しい響きにはさらに磨きがかかっています。

ニュー・フィルハーモニア管弦楽団とは、フィルハーモニア管がウォルター・レッグによって1964年に解散させられた後に、オーケストラ団たちが自主運営組織として再スタートさせたオーケストラです。ですから、実態はフィルハーモニア管とほとんど変わらないはずです。
そして、この新しいスタートを支えたのがクレンペラーだったのですが、クレンペラーが高齢となって引退したあともリッカルド・ムーティやロリン・マゼールなどが支え続けました。そして、1977年には再びフィルハーモニア管弦楽団(The Philharmonia Orchestra)の名称を回復することになります。

そういう事情を考えてみれば、財政的にかなり厳しかったであろう1966年と67年にメンデルスゾーンの交響曲全集の録音という仕事が入ったのはありがたかったことでしょう。

おそらく、オーケストラ側にはここで底力を見せなければ先が見えてこないという思いもあり、さらにはそう言うやる気のあるオーケストラを前にして、的確なコントロールでその能力を十全に発揮させるサヴァリッシュの手腕があいまって、過去のフィルハーモニア管とはひと味違う響きの美しさ生み出しているように思われます。
ただし、その響きは力感を排した柔らかくて透明感のある響きなので、聞き手によっては迫力不足に感じるかもしれません。しかし、ともすればある種の物語性を纏いかねない音楽から一切の物語性を脱ぎ捨てて、おそらくはメンデルスゾーンですら想像しなかったほどのスタイリッシュにしてクリアな音の造形物へと仕上げていく上では、そう言う響きこそが相応しかったのでしょう。

そういえば、この頃のサヴァリッシュの指揮を「外科医のような」と評した人がいました。
さらには、毎年日本を訪れてN響を指揮をしている姿を見て、これで演奏できなければ不思議だと言わしめたほどにクリアな指揮をする人でした。
確かに、それもまたサヴァリッシュのの本質をい当てているのでしょうが、このメンデルスゾーンの録音では響きの美しさに魅せられます。

そう言えば、サヴァリッシュにとってメンデルスゾーンはお気に入りの作曲家で、彼の管弦楽作品の校訂を全て自分で行ったという話を聞いたことがあります。おそらく、5曲の交響曲のスコアはその済みの隅まで知り尽くしていたことでしょう。
そして、その徹底的なスコア・リーディングによって読み取ったものを、的確な指示でオケに伝えて、その結果として響きの美しさを生み出している事は明らかです。

そう言う美しさというのは、全て現実的な細かい作業の精緻な積み重ねの結果であって、決して「やる気」や「根性」「気合い」などによっては実現しないものです。
それは、ごく当たり前のことなのですが、そう言う当たり前のことをあらためて思い知らされたプロの仕事でした。

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