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カザルス(Pablo Casals)|ブラームス:弦楽六重奏曲 第1番
ブラームス:弦楽六重奏曲 第1番
Vn:スターン、シュナイダー Va: トーマス、ケイティムス Vc:カザルス、フォレイ 1952年録音
Brahms:弦楽6重奏曲 第1番 「第1楽章」
Brahms:弦楽6重奏曲 第1番 「第2楽章」
Brahms:弦楽6重奏曲 第1番 「第3楽章」
Brahms:弦楽6重奏曲 第1番 「第4楽章」
若々しさと情熱にあふれた作品
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがそれぞれ二挺という特殊な編成を持った作品です。そして、ブラームスはこの特殊な編成による作品を二つ作っています。その中で、とりわけ有名なのがこの第1番の第2楽章です。数あるロマン派音楽の中でももっともロマンティックな音楽の一つであり、一度はどこかで耳にされた方も多いのではないでしょうか。(ルイ・マル監督のフランス映画「恋人たち」に用いられたことは有名です。)
ブラームスがベートーベンの不滅の9曲に対する重圧から第1交響曲を生み出すために20年以上の歳月を必要としたことはよく知られています。そして、室内楽の分野においても、最初の弦楽四重奏曲を生み出すまでに20曲前後の四重奏曲が破棄されました。
ブラームスにとって、交響曲や弦楽四重奏という古典派音楽における王道とも言うべきジャンルにおいては、あまりにもベートーベンの存在は重く大きいものだったようです。
そして、「できれば同じ土俵で勝負はしたくない!」という意識がはたらいたのかどうかは分かりませんが、室内楽の分野では弦楽四重奏という王道の形式で競合することをを避けて、どちらかといえばもう少し編成を大きくした管弦楽的な効果を多用するような作品が数多く生み出されました。
とりわけ、この弦楽六重奏のような分厚い編成であればベートーベンの影をほとんど気にしなくてすんだのか、いつもの気難しい顔はしまいこんで、陽気で明るく、そしてこの上もなくロマンティックな素顔をさらけ出しています。
特に、その第2楽章をピアノ独奏用に編曲して、終生の憧れであったクララの誕生日プレゼントとしたことも、その様な傾向を際だたせている要因かもしれません。そして、ブラームスはその楽譜にそえた手紙の中で「私の作品について長い手紙をください。汚い音のところ、退屈なところ、バランスの悪いところ感情の冷たいところなど、どうかたくさん書いてください。」などと、後の気難しいブラームスからは想像もできないようなことを書いているのです。
20代の青年ブラームスの若々しい情熱にあふれた作品です。
カザルスの偉大さを再確認させられる演奏
カザルスが75才の時の録音です。
そこに、若き日のスターンも加わったこの演奏はまさに一期一会とも言うべき素晴らしい演奏に仕上がっています。
この作品は、常設のカルテットにヴィオラとチェロを加えて演奏されることが多いのですが、これは6人のソリストによるアンサンブルという雰囲気です。ただし、その6人は「偉大なるカザルス」を中心として、彼の気迫のこもった重厚なチェロの響きを基本として音楽を成り立たせています。ともすれば、第2楽章の甘い雰囲気に引っ張られてナヨッとした雰囲気の演奏が多い中で、これは他に例を見ないほどに剛直で力強い演奏に仕上がっています。
スターンは最晩年に気心の知れたヨーヨー・マたちと組んでこの作品を録音しています。しかし、そこでは第2楽章はこの上もなく嫋々と美しく歌わせていますが、この古い録音のような聞くものの胸に迫ってくるような力強さはどこを探しても見つけることは出来ません。そして、この二つの演奏を聴き比べてみれば、いかにカザルスが偉大な芸術家であったかを再確認させられるだけです、・・・などといえばあまりにもスターンで失礼でしょうか(^^;
しかし、今もってこれを上回る演奏は思い当たりませんから、それもまた仕方のないことかもしれません。
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よせられたコメント
2008-05-06:夜のガスパル
- 『一期一会の素晴らしい演奏』というユング君のコメントがぴったりだと思います。第一チェロのカザルスが、時にはうなり声をあげて他のメンバーをリードしており、カザルスの偉大さを強く感じます。実際、カザルスの音楽創りの中で若いスターンが太い音で小細工なしに真っ直ぐ本質に向かっており立派です。それにしても、これほど血が通い脈を打つ様な音楽にはなかなかめぐり合えません。有名な2楽章も良いですが、悠然と歌われる第一楽章は生きる喜び、人として存在する喜びを感じます。色々な曲において“これを超える演奏は無理”と感じる録音がいくつかありますが、その最右翼ではないでしょうか。モノラル録音ながら他を聴く気になれません。
しかしユング君のコメントはどれも素晴らしいですね。
2011-02-19:カンソウ人
- 『一期一会の素晴らしい演奏』であると思います。私もそういう気持ちになります。
ここに、アップされるにふさわしい演奏です。
スターンが晩年に、室内楽の世界中の優秀な若者を集めて指導していました。
スターンだけでなく、スターンの横にはイストミンやシュナイダーやローズや、日本人の堤さんも、おられたような記憶がありました。
日を置いて現れた若い女性三人が、ちっとも上手にならないことをスターンは怒っていました。
曲は、ブラームスのピアノトリオでした。
スターンは言うのです。
「僕が若いころ、カザルスと他のみんなとも一緒に練習したんだ。その時カザルスは、教えてくれたんだ。
『自分が若いころに、晩年のクララシューマンがいて、ヨアヒムがいて・・・。
部屋のこんな距離で、ブラームスも聴いていたんだ。その時、ブラームスは身体を揺らして説明してくれたんだ。』と彼はブラームスの身体の揺らし方を真似ながら、若い僕たちに教えてくれたんだ。
君たちも、音楽史の授業で勉強したことがあるだろう。写真か絵で見たことがあるだろう?
そんなことを僕らに分かるように演奏してくれないか。音楽が出来る人の特権であるとともに、伝える事は義務なんだよ。
・・・。
別に、それが古臭いと思うならそれでもよい。自分達の思う所の、ブラームスを聞かせて欲しい。」
演奏は、それから全く変った。と言っても、レッスンレヴェルであるが。
カザルスの入ったこの演奏は、とっても熱く何かを語られていて素晴らしいと思います。
スターンは、自分のスタイルの押し付けで無くて、自分達の思う所のブラームスを聴かせて欲しい(といった意味の事を)言った。説得力のある新しい様式を作ることは、それはそれで大変な事。作曲家と自分の関係は大切で、無関係にまで離れようとする事すら可能である。(グールドの命を掛けての実験的な態度は、誰もが知っている)誰だって、年をとれば時代様式から離れていくんだから・・・。時代様式の断層に自分がいる事を感じる能力のある人は、押し付けはしないでしょう。
同じブラームスですが、ちっとも熱くもなく、偉大でもなく、冷めるのもええ加減しろと言う位に冷めていても良い演奏は可能であると、私は思います。古澤巌と高橋悠治のバイオリンソナタは、ブラームスの肉体(揺れ方?)から離れて、どんな楽譜を書いたのかを見つめています。
本当は、ズコフスキーとやった方が良いけれど、カセットも壊れてしまいました。
2013-02-14:ichiduka makoto
- 久しぶりに聞いて、若いころ療養生活した時を思い出しました。第二楽章ではよく泣かされました。いまでも…やっぱしロマンティストなのかも。
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