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J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲第4番 イ長調 BWV 1055

(Cembalo)ラルフ・カークパトリック:ルドルフ・バウムガルトナー指揮 ルツェルン音楽祭弦楽合奏団 1960年10月3日~5日録音



J.S.Bach:Harpsichord Concerto No.4 in A major, BWV 1055 [1.Allegro]

J.S.Bach:Harpsichord Concerto No.4 in A major, BWV 1055 [2.Larghetto]

J.S.Bach:Harpsichord Concerto No.4 in A major, BWV 1055 [3.III. Allegro ma non tanto]


バッハは編曲でも凄い

バッハは少しでもよい条件の働き口を探し続けていた人なのですが、その最後の到着点はライプツィヒの聖トーマス教会のカントルでした。
この仕事は、教会の仕事だけでなく、ライプツィヒ市の全体の音楽活動に責任を負う立場なので、バッハにとってはかなりの激務だったようです。そんな、疲れる仕事の中で喜びを見出したのが「コレギウム・ムジクム」の活動でした。
「コレギウム・ムジクム」は若い学生や町の音楽家などによって構成されたアマチュア楽団で、当時のライプツィヒ市では結構人気があったようです。通常の時期は毎週1回の演奏会、見本市などがあってお客の多いときは週に2回も演奏会を行っていたようです。
バッハは、このアマチュア楽団の指導と指揮活動を1729年から1741年まで(中断期間があったものの)務めています。

ここで紹介している一連のチェンバロ協奏曲は、すべてこのアマチュア楽団のために書かれたものです。
ただ、バッハにしては不思議なことなのですが、そのほとんどがオリジナルではなくて、自作または、他の作曲家の作品を編曲したものなのです。しかし、公務ではなくてどちらかと言えば自らも楽しみながらの活動であったことを考えれば、すべてオリジナル作品で気楽に演奏するのは、さすがのバッハでも大変だったでしょう。
しかし、「編曲」とは言っても、その手練手管は見事なものです。
残念ながら、原曲となった作品の多くは紛失しているものが多いので、直接比較するのは難しいのですが、それでもチェンバロの特徴をうまくいかして見ごとな作品にリニューアルいています。

原曲の多くはヴァイオリン曲です。
ヴァイオリンとチェンバロでは音域が違いますし、何よりも持続音が前者は得意、後者は根本的に不可能という違いがあります。ですから、長い音符はすべて細かく分割されて、さらには装飾音符も華やかに盛り付けられて、実に精妙な響きを生み出しています。
不思議なことに、このような協奏曲形式の大家ともいうべきヴィヴァルディは1曲もチェンバロのための協奏曲を残していません。その意味では、鍵盤楽器であるチェンバロに主役の座を与え、後のピアノ協奏曲への入り口を開いたのは、これらの編曲によるチェンバロ協奏曲だといえます。ですから、オリジナルではない編曲バージョンだとはいえ、その価値が低くなることはありません。

とりわけ、第1番というナンバーが与えられているBWV1052は規模も大きくモーツァルトの協奏曲と比べても遜色のない作品です。そのため、この作品だけは「チェンバロ」という楽器が忘れ去られた時代にあっても「ピアノ協奏曲」として演奏され続けました。
やはり、バッハは凄いのです。

チェンバロ協奏曲第4番 イ長調 BWV 1055


原曲は消失したオーボエ・ダモーレ協奏曲 イ長調か、ヴァイオリン協奏曲 ハ長調であったとされています。最近の研究ではおそらくオーボエ・ダモーレ協奏曲が原曲であっただろうとされているようです。
第1楽章はいわゆるリトルネッロ形式と飛ばれる、この時代特有の形式で書かれています。いわゆる「リトルネッロ」とよばれる主題が何度も繰り返され、その部分は全合奏で、それに挟まれた部分は独奏楽器群が演奏するというスタイルです。

そして、この作品の一番の聞きどころは溜息が出るほどに美しい第2楽章です。ラメント・バス(嘆きの低音)と呼ばれる低音弦の半音下行進行がその瞑想的な雰囲気をつくり出しています。楽典的に言えば自由なパッサカリア形式だそうです。

そして、最後は再びリトルネッロ形式で書かれているのですが、こちらは舞曲的な躍動感に溢れた音楽となっています。


時代の分かれ目

リヒテルとカークパトリックの録音を同時にアップしました。
決して、リヒテルに対する「意地悪」ではありません。こうして聞き比べると、昔のバッハ演奏というのがいかに重くて暗かったかがよく分かります。冒頭のオケの響きを聞いただけで、何かの間違いではないのか?と思ってしまうほどですが、チェンバロによって演奏されるのが一般的になる前は、こういうスタイルが普通だったのです。
しかし、聞き進んでいくうちに、そんな「違和感」が次第に薄らいでいって、「これはこれで一つのバッハの姿か・・・。」と思いはじめるから不思議です。(思わない人もいるかな?)
でも、もう一度カークパトリックによる演奏を聞くと、『やっぱりバッハはこれだな。」と納得させる力を持っていることを確認させられます。

カークパトリックは高名な音楽学者でもあり、同時に優れた演奏家でもありました。この二つが彼の中で結びつくと、偉大な「music Thinker」という称号が与えられることになります。
古楽器による演奏が様々な問題点をハラミながらも広く受け入れらるようになった昨今から見れば、彼の演奏は『中途半端」なものと映るかもしれませんが、50年代の聴衆にとってはかなり衝撃的で斬新な演奏と感じたはずです。基本的に古楽器による演奏がすきではない私にとって、この程度の『新しさ』が丁度いいといえば、あまりにも保守的にすぎるのでしょうか。

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