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ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14

アタウルフォ・アルヘンタ指揮 パリ音楽院管弦楽団 1957年11月11日~13日録音



Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [1.Reveries - Passions. Largo - Allegro agitato e appassionato assai - Religiosamente]

Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [2.Un bal. Valse. Allegro non troppo

Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [3.Scene aux champs. Adagio]

Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [4.Marche au supplice. Allegretto non troppo]

Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [5.Songe dune nuit de sabbat. Larghetto - Allegro]


ベートーベンのすぐ後にこんな交響曲が生まれたとは驚きです。

私はこの作品が大好きでした。
「でした。」などと過去形で書くと今はどうなんだと言われそうですが、もちろん今も大好きです。なかでも、この第2楽章「舞踏会」が大のお気に入りです。

よく知られているように、創作のきっかけとなったのは、ある有名な女優(アイルランド出身の女優、ハリエット・スミッソン)に対するかなわぬ恋でした。
相手は、人気絶頂の大女優であり、ベルリオーズは無名の青年音楽家ですから、成就するはずのない恋でした。結果は当然のように失恋で終わり、そしてこの作品が生まれました。

しかし、凄いのはこの後です。
時は流れて、立場が逆転します。
女優は年をとり、昔年の栄光は色あせています。
反対にベルリオーズは時代を代表する偉大な作曲家となっています。
ここに至って、漸くにして彼はこの恋を成就させ、結婚をします。

やはり一流になる人間は違います。私などには想像もできない「しつこさ」です。(^^;

しかし、この結婚はすぐに破綻を迎えます。理由は簡単です。ベルリオーズは、自分が恋したのは女優その人ではなく、彼女が演じた「主人公」だったことにすぐに気づいてしまったのです。
恋愛が幻想だとすると、結婚は現実です。そして、現実というものは妥協の積み重ねで成り立つものですが、それは芸術家ベルリオーズには耐えられないことだったでしょう。「芸術」と「妥協」、これほど共存が不可能なものはありません。
さらに、結婚生活の破綻は精神を疲弊させても、創作の源とはなりがたいもので、この出来事は何の実りももたらしませんでした。
狂おしい恋愛とその破綻が「幻想交響曲」という実りをもたらしたことと比較すれば、その差はあまりにも大きいと言えます。

凡人に必要なもは現実ですが、天才に必要なのは幻想なのでしょうか?それとも、現実の中でしか生きられないから凡人であり、幻想の中においても生きていけるから天才ののでしょうか。
私君も、この舞踏会の幻想の中で考え込んでしまいます。

なお、ベルリオーズはこの作品の冒頭と格楽章の頭の部分に長々と自分なりの標題を記しています。参考までに記しておきます。

感受性に富んだ若い芸術家が、恋の悩みから人生に絶望して服毒自殺を図る。しかし薬の量が足りなかったため死に至らず、重苦しい眠りの中で一連の奇怪な幻想を見る。その中に、恋人は1つの旋律となって現れる…」


第1楽章:夢・情熱

「不安な心理状態にいる若い芸術家は、わけもなく、おぼろな憧れとか苦悩あるいは歓喜の興奮に襲われる。若い芸術家が恋人に逢わない前の不安と憧れである。」

第2楽章:舞踏会

「賑やかな舞踏会のざわめきの中で、若い芸術家はふたたび恋人に巡り会う。」

第3楽章:野の風景

「ある夏の夕べ、若い芸術家は野で交互に牧歌を吹いている2人の羊飼いの笛の音を聞いている。静かな田園風景の中で羊飼いの二重奏を聞いていると、若い芸術家にも心の平和が訪れる。
無限の静寂の中に身を沈めているうちに、再び不安がよぎる。
「もしも、彼女に見捨てれられたら・・・・」
1人のの羊飼いがまた笛を吹く。もう1人は、もはや答えない。
日没。遠雷。孤愁。静寂。」

第4楽章:断頭台への行進

「若い芸術家は夢の中で恋人を殺して死刑を宣告され、断頭台へ引かれていく。その行列に伴う行進曲は、ときに暗くて荒々しいかと思うと、今度は明るく陽気になったりする。激しい発作の後で、行進曲の歩みは陰気さを加え規則的になる。死の恐怖を打ち破る愛の回想ともいうべき”固定観念”が一瞬現れる。」

第5楽章:ワルプルギスの夜の夢

「若い芸術家は魔女の饗宴に参加している幻覚に襲われる。魔女達は様々な恐ろしい化け物を集めて、若い芸術家の埋葬に立ち会っているのだ。奇怪な音、溜め息、ケタケタ笑う声、遠くの呼び声。
”固定観念”の旋律が聞こえてくるが、もはやそれは気品とつつしみを失い、グロテスクな悪魔の旋律に歪められている。地獄の饗宴は最高潮になる。”怒りの日”が鳴り響く。魔女たちの輪舞。そして両者が一緒に奏される・・・・」


各声部の絡み合う姿を克明に描き出している

若くして不慮の事故でなくなったアルヘンタが残した録音はそれほど奥はありません。そんな録音の中でも彼を代表する録音としてあげられることが多いのがこの一枚です。
率直に言って、かなり不思議な「幻想交響曲」です。もっと有り体に言えば、このあまりにもあっさりしすぎた演奏に不満を覚える人もいるでしょうから、そう言う録音を代表盤とすることは、そのままアルヘンタという指揮者への過小評価に繋がりかねません。実際、Deccaのプロデュサーだったカルショーは、実力がありながらそれを十分に発揮しきれずにキャリアを終えてしまったと書いていました。

しかし、アルヘンタは40才を過ぎた頃に大病によって活動を一事断念せざるを得なくなり、その経験を一つのバネとして大きく飛躍しそうな雰囲気になっていたことも事実です。この「幻想交響曲」の演奏はそう言う大きなステップの中で為されたものですから、その「あっさり」に過ぎる演奏の背景に、彼が何を求めようとしていたのかは見てあげる必要があるのかもしれません。

確かに、これは数ある「幻想交響曲」の録音の中でも、もっとも薄味の「幻想交響曲」と言っていいでしょう。その最大の原因は低声部の薄さにあります。
しかし、彼の狙いを想像しながら聞いてみると、その低声部の響きの薄さは強く「意図」されたものだったことに気づいてきます。何故ならば、その薄さの代償として、今までの誰の演奏からも聞いたことがないほどの内部の見通しの良さを手に入れているからです。

おそらく、これほどまでに各声部の絡み合う姿を克明に描き出し、それを聞き手の耳にまでしっかりと届けきっている演奏と録音は滅多にあるものではありません。そして、そう言う明晰さの中においてもコンセルヴァトワールのオケが持っている響きの艶は失われていないのです。いや、そのフランス・オケらしい響きの美しさをスポイルしないために、分厚い低声部が邪魔をしないように徹底的にコントロールしているのでしょう。

いつも言っていることですが、こういう黎明期のステレオ録音は現場で鳴り響いているバランスが全てであって、それを録音が終わってからそのバランスの不備を編集で手直しをすることは不可能です。ですから、もしかしたら、カルショーが指摘したアルヘンタの致命的な弱点、「リハーサルの時に喋りすぎる」が遺憾なく発揮されてしまったのかもしれません。このオーケストラ・バランスはよほど口やかましく指示しないと実現できそうにありませんから。
それ故にか、同じ年に録音した「Espana!」というアルバムで聞くことが出来た自発性に満ちた情熱の発露はここにはありません。

そう言う意味ではその時期も未だにあれこれと試みをしてみる発展途上だったのかもしれません。そして、彼にも少しの時間があればと悔やまずにはおれません。

ただし、不幸だと思うのは、アルヘンタが亡くなってから半世紀もたつと、こういうふうに低声部を薄めにして細部を克明に描き出すというやり方がしだいに主流になってしまったことです。そう言う意味ではアルヘンタには先見性があったと言うことにもなるのでしょうが、そう言う「蒸留水」のような演奏に飽き飽きしている耳にとっては、「低音が出てないジャン!」として切って捨てられるのも仕方のない側面はあります。

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