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ワーグナー:歌劇「タンホイザー」 序曲, バッカナール(パリ版)

マックス・ゴバーマン指揮 The Vienna New Symphony 1960年(?)録音



Wagner:Tannhauser Overture And Bacchanale (Paris Version)


ミュージカル視線で仕立て直し

マックス・ゴバーマンという指揮者は長い間私の視野には入ってきませんでした。それが突如目に飛び込んできたのが、彼が60年代の初頭にはじめたハイドンの交響曲の全曲録音でした。残念ながらこの挑戦は1962年の大晦日にウィーンのホテルで彼が急逝するという不幸な出来事によって断ちきられてしまいました。
さらに言えば、その挑戦がどこかのレーベルからの依頼によって為されたものではなくて、ゴバーマン自身が「Musical Heritage Society(HMS)」というレーベルを立ち上げて行われたものだったので、ゴバーマンの突然の死はそれらの録音も同時に忘れ去られてしまう運命を持っていたのです。

しかし、近年になって、その録音の権利を買い取っていたSonyによって復刻が為され、漸くにしてその業績が広く知られるようになりました。そして、おかしな話ですが、彼がの手がけた録音の大半が、今の時代となってもそれほど録音に恵まれていない初期・中期の交響曲に集中していたが故に、その価値は非常に大きなものであることに気づかされたのです。
私もまた、どこかで書いたのですが、今まではどこか「お勉強モード」で聞いていたそれらの作品を本当に「音楽」として楽しませてくれたのがゴバーマンでした。さらに言えば、ハイドンがどの様にして交響曲という道を進化させていったのかもはっきりときざも込んだ演奏でした。

さらに驚かされたのは、そのような大事業と並行して、アメリカでは「New York Sinfonietta」という室内楽団を組織してヴィヴァルディの全曲録音にも挑戦していました。
どちらにしても、それらは彼の突然の死によって断ちきられるのですが、もしも神が彼にあと10年、もしくは少なくとも5年の時間を与えてくれていたならば、それらは20世紀の録音史に残る偉業の一つとなったことは間違いありません。

そんなゴバーマンの録音を漁っていて珍しい一枚を発見しました。それが、ここで紹介しているワーグナー作品です。
「The Vienna New Symphony」という、いかにも怪しげなオーケストラなのですが、これはおそらく国立歌劇場のオケだと考えられます。何故ならば、彼はこの時期に国立歌劇場のオケを使ってハイドンの交響曲を録音していたからです。おそらくは、そんな録音の日々の中で、ちょっとした遊び心でこの一枚を録音したのかもしれません。

それにしても、これは実に「楽しい」ワーグナーです。
ここには、ワーグナーらしいうねりもなければ重厚さもありません。しかし、ワーグナー作品が持つ美しい旋律は鮮やかに横へと流れていきます。

なるほど、これはワーグナーをオペラ視線ではなくて、ミュージカル視線で仕立て直したものだと言うこと気づかされます。

ゴバーマンは最晩年にクラシックの世界に戻ってくるのですが、それまでは長くブロードウェイのミュージカル指揮者として活躍していました。とりわけバーンスタインとの関係は深くて、彼のミュージカル作品の大部分は彼の指揮によって初演されています。
ですから、ここでもその経験を最大限に生かして、実に上手くワーグナーをミュージカル風に仕立て直しています。
特に、マイスタージンガーの仕立て直し方などは最高です。

生粋のワグネリアンからすれば到底認めたくない演奏でしょうが、楽しく気楽にワーグナーを聴きたい人にとってはピッタリの演奏かも知れません。


実に上手くリメイクしています

ここでゴバーマンが取り上げている「タンホイザー」はいわゆるパリ版と呼ばれるものです。
この「パリ版」はワーグナーが1859年にパリを再訪した時にナポレオン3世の勅命で上演されたもので、当時のバレエ大好きというか、バレエ必須だったパリの好みに合わせたものでした。
当時のパリの上流階級の人はそれぞれに贔屓の踊り子を抱えていて、その贔屓の踊り子が登場するバレエシーンのないオペラなどには見向きもしなかったのです。

ですから、ワーグナーもそう言うパリの事情に合わせて「序曲」の後に「バッカナール」と称するバレエ音楽をつけ加えたのです。
しかし、当時のパリではバレエは第2幕に挿入されるのが通常で、踊り子目当ての人々は第2幕から劇場にやってくるのでした。ところが、いつものように第2幕にあわせて劇場にやってくるとお目当てのバレエはすでに終わっていたので上流階級からは大ブーイングで、公演はわずか3日間で打ち切られました。

しかし、この事が一大スキャンダルとなって、フランスの音楽界や文壇に、「オペラはこれでいいのか!」という問題意識を与えたのでした。
そう言う経緯もあって、このパリ版は今日ではほとんど演奏会で取り上げられることはないので、その意味でも貴重な録音です。

また、マイスタージンガーについても、第3幕を実に見事に、コンパクトに仕立て直しています。
私は一度だけウィーンでこのオペラを見たことがあるのですが、5時開演の10時半終演でした。よほどの根気がなければ途中で寝てしまうのですが(^^;、やはり私も途中で寝てしまいました。しかし、最後のマイスターたちの入場からフィナーレに至る迫力は空前絶後のもので、まさにワーグナーを一度聞けば病みつきになると言う言葉の意味を初めて知らされることになったのです。

ゴバーマンはその第3幕を前奏曲→徒弟たちの踊り→終曲と言う形で全体をコンパクトに仕立て直して、まるでミュージカルのように軽々とした音楽に仕上げています。
おそらく、根っからのオペラ指揮者やコンサート指揮者には絶対真似の出来ない、と言うか、ちょっと恐くてやれないようなリメイクです。

なお、この録音はおそらく今もデジタル化されていないと思われます。盤質の状態はそれほど悪くはなかったのですが、念入りにクリーニングしてもノイズは取り切れていません。とはいえ、CD化されていないとなれば、それでも紹介する価値はあると思いますので、ノイズに関してはご容赦ください。

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