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モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第40番 変ロ長調 K.454

(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)オットー・アルフォンス・グレーフ 1949年録音



Mozart:Violin Sonata in B-flat major, K.454 [1.Largo - Allegr]

Mozart:Violin Sonata in B-flat major, K.454 [2.Andante]

Mozart:Violin Sonata in B-flat major, K.454 [3.Allegretto]


ザルツブルグからウィーンへ:K376~K380「アウエルンハンマー・ソナタ」

モーツァルトはこの5曲と、マンハイムの美しい少女のために捧げたK296をセットにして作品番号2として出版しています。しかし、成立事情は微妙に異なります。
まず、K296に関してはすでに述べたように、マンハイムで作曲されたものです。
次に、K376~K380の中で、K378だけはザルツブルグで作曲されたと思われます。この作品は、就職活動も実らず、さらにパリで母も失うという傷心の中で帰郷したあとに作曲されました。しかし、この作品にその様な傷心の影はみじんもありません。それよりも、青年モーツァルトの伸びやかな心がそのまま音楽になったような雰囲気が作品全体をおおっています。
そして、残りの4曲が、ザルツブルグと訣別し、ウィーンで独立した音楽家としてやっていこうと決意したモーツァルトが、作品の出版で一儲けをねらって作曲されたものです。
ただし、ここで注意が必要なのは、モーツァルトという人はそれ以後の「芸術的音楽家」とは違って、生活のために音楽を書いていたと言うことです。彼は、「永遠」のためにではなく「生活」のために音楽を書いたのです。

「生活」のために音楽を書くのは卑しく、「永遠」のために音楽を書くことこそが「芸術家」に求められるようになるのはロマン派以降でしょう。ですから、一儲けのために作品を書くというのは、決して卑しいことでもなければ、ましてやそれによって作り出される作品の「価値」とは何の関係もないことなのです。

実際、ウィーンにおいて一儲けをねらって作曲されたこの4曲のヴァイオリンソナタは、モーツァルトのこのジャンルの作品の中では重要な位置を占めています。特に、K379のト長調ソナタの冒頭のアダージョや第2楽章の変奏曲(アインシュタインは「やや市民的で気楽すぎる変奏曲」と言っていますが・・・^^;)は一度聴いたら絶対に忘れられない魅力にあふれています。また、K377の第2楽章の変奏曲も深い感情に彩られて忘れられません。
ここでは、ヴィオリンとピアノは主従を入れ替えて交替で楽想を分担するだけでなく、二つの楽器はより親密に対話をかわすようになってます。これら4曲は、マンハイムのソナタよりは一歩先へと前進していることは明らかです。

モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第40番 変ロ長調 K.454

  1. 第1楽章:Largo - Allegr

  2. 第2楽章:Andante

  3. 第3楽章:Allegretto




ただの「芸人」で終わりたくないという思いが強かったのでしょうか

プシホダが録音したバッハ作品の項でも述べたのですが、50年前後からどう考えてもプシホダとは相性がいいとは思えないバッハだけでなく、モーツァルトの作品にも取り組み恥じます。
私の手もとにあるモーツァルトの録音は以下の6点です。

  1. モーツァルト:ディヴェルティメント K.334よりメヌエット
    (Vn)ヴァーシャ・プシホダ:ブルーノ・ザイドラー=ヴィンクラー 1924年録音

  2. モーツァルト(セルネ編):ヴァイオリン協奏曲第4番より「アンダンテ・カンタービレ」
    (Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)シャルル・セルネ 1925年録音

  3. モーツァルト:ピアノソナタ第11番 イ長調 K 331より「トルコ行進曲」
    (Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)シャルル・セルネ 1925年録音

  4. モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第40番 変ロ長調 K. 454
    (Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)オットー・アルフォンス・グレーフ 1949年録音

  5. モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調 K.216
    (Vn)ヴァーシャ・プシホダ:ハンス・ミュラー=クライ指揮 南ドイツ放送交響楽団 1953年録音

  6. モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第4番 ニ長調 K.218
    (Vn)ヴァーシャ・プシホダ:エンニオ・ジェレッリ指揮、RAIトリノ交響楽団 1957年録音


この中で1920年代に録音したモーツァルトに関しては何の問題もありません。それらはモーツァルトの小品を素材としたショー・ピースだと考えればいい演奏であって、「芸人プシホダ」の持ち味を遺憾なく発揮した演奏です。ですから、それをもって彼のモーツァルト作品へのアプローチを云々するような類のも録音ではありません。

問題は戦後に録音した一つのヴァイオリン・ソナタと2つのコンチェルトです。
おそらく、彼がモーツァルトに取り組んだ背景にはバッハの時と同じようにただの「芸人」で終わりたくないという思いがもたらしたものだったのでしょう。

しかしながら、その演奏は1949年に録音されたヴァイオリン・ソナタからして驚かされます。それはもうプシホダらしい「妖艶」な響きで彩られたモーツァルトであり、それはもうロマン派の作曲家による音楽のように聞こえてしまいます。
そう言えば、1954年にハイフェッツもモーツァルトのヴァイオリン・ソナタを2曲録音しているのですが、それはもうカミソリで削ぎ落としたような硬質な響きで造形された音楽であり、モーツァルトらしい微笑みというか、愛想のようなものは微塵も存在しない演奏でした。この二人のモーツァルトを較べてみれば、それはこの地球上で南極と北極ほどに隔たっていると言うよりは、まるで異なる星に住んでいるかのように聞こえてしまいます。

とりわけ、ハイフェッツは「100万ドルトリオ」などと言う商業的キャッチフレーズから解放されたあとは、志を同じくした仲間と数多くの室内楽作品を録音していくのですが、それらはもう、全てが「寄らば切るぞ!」と言わんばかりの厳しさに貫かれた演奏ばかりでした。そして、時代は明らかにプシホダではなくてハイフェッツたちが目指した方向を支持していました。
このプシホダの手になるモーツァルトが当時の聞き手にどのように評価されたのかは分かりませんが、間違いがないのはそれによって「芸人プシホダ」から「芸術家プシホダ」へのチェンジを嗅ぎ取った人は誰もいなかったはずです。つまりは、真っ当なモーツァルト演奏から言えば明らかに「邪道」ではあるのですが、気楽な聞き手からしてみれば面白いことは間違いないのです。
ただし、その演奏が彼の高い「芸術性」を担保するものにはならなかったことは間違いありません。

そして、それとほの同じ事は1953年に録音した「ヴァイオリン協奏曲第3番」にもいえます。プシホダは50年代にはいると急激に衰えたと言われるのですが、いやはやどうして、この妖艶にして過剰なまでの芸人魂を保持するだけのテクニックは決して失っていないことは分かります。もちろん、いささか荒っぽいところは目立つのですが、聞き手にとっては面白いことは間違いありません。
しかし、先にも述べたように時代はすでにその様なモーツァルトを評価しないようになっていたのです。

そして、最後の57年に録音した「ヴァイオリン協奏曲第4番」は、同じ年に録音したバッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲」と同じ事がいえます。
それは彼がなんとか時代に添おうとしたのか、それとも急激に衰えていったのかは分かりませんが、この録音もまた「生気を失って形骸だけをとどめている老残のプシホダの姿」しか残っていないと言われても仕方のない演奏になっています。

願いが叶うならば、原曲がどうのこうのなどと言う「せせこましい」事にはとらわれずに、最後の最後まで自由に芸人魂を爆発して欲しかったと思うばかりです。

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