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ミュンシュ(Charles Munch)|ワーグナー: 楽劇「神々の黄昏」より「ブリュンヒルデの自己犠牲」
ワーグナー: 楽劇「神々の黄昏」より「ブリュンヒルデの自己犠牲」
シャルル・ミュンシュ指揮:(S)アイリーン・ファーレル ボストン交響楽団 1957年11月25日録音
Wagner:Brunnhide's Immolation from Gotterdammerung
指輪物語の幕切れを飾る音楽
![](../Jacket_record/Charles_Munch/Munch_Wagner_Brunnhide_Immolation_57.jpg)
4夜にわたる「ニーベルングの指輪」の幕切れを飾る音楽で、極めて演奏効果の高い音楽であるために「ブリュンヒルデの自己犠牲」と題して単独で取り上げられることの多い音楽です。
この場面はブリュンヒルデの長いモノローグですすめられていきます。
ジークフリートの死を知ったブリュンヒルデは威厳に満ちた声で命じます。
太い薪(たきぎ)を積み上げて!
ラインのほとりに、うずたかく!
明るく、高く、炎よ、燃えよ!
勇者の気高い体を
燃やし尽くすのよ!
さあ、あの人の馬を連れて来て。
私と一緒に、あの戦士の後を追うのだから・・・。
勇者の神聖な名誉を分かち合うことを、
この私の体が望んでいるのよ。
さあ、ブリュンヒルデの願いを叶えてちょうだい!
そして、彼女は亡くなったジークフリートに静かに語りかけます。
この人ほど真剣に誓いを立てた人がいたかしら?この人ほど誠実に契りを守った人がいたかしら?この人ほど純粋に人を愛した人がいたかしら…?それなのに、あらゆる誓い、あらゆる契り、誠実きわまりない愛を、この人は誰よりもあざむいた…!
ヴァルハラの神々が支配する「虚偽と欺瞞の世界」では、誠実も純粋さも結局は人を欺くことにしかならないという思いでしょう。
限りなく純粋な人は、私を裏切らねばならなかった。
私が、一人の女として、悟った存在になるために!
今の私には分かるでしょうか?
お父さんに役立つことが何か・・・?
分かったの・・・すべて。すべて。
今の私は、すべて分かったわ!
お父さんがよこしたカラス達の
鳴き声も聞こえている。
あなたが心から待ち望んでいたお便りを
あの二羽に託して持ち帰らせるわ。
だからもう・・・休んでいいのよ・・・お父さん・・・神よ!
そして、ブリュンヒルデはジークフリートの亡骸を薪の山の上に運ばせ、指環を手に取ってラインの乙女たちに返す決意を語り、やがて、積まれた薪の山に松明が投じられ、火が燃え上がります。
そして、ブリュンヒルデもまた愛馬グラーネにまたがって炎の中に飛び込みます。
グラーネ!あたしの愛馬!
お久しぶり!
かわいいお友達!もう知っているの?
あなたを連れて行く場所を。
火の中で輝きながら、あの人が横たわっているわ。
ジークフリート・・・私の大切な勇者よ。
友の後を追うのがうれしくって、
そんなにいななくの?
やがてその炎はギービヒの館を包み、ライン川は氾濫して大洪水となります。
そして、ラインの乙女が指輪を手にしようとするとハーゲンは狂ったように川に飛び込み「近づくな・・・指輪に!」と叫びますが、ヴォークリンデとヴェルグンデよってに水中に引き込まれ、フロースヒルデは指環を高くかざします。
やがて、炎は天上に広がり、神々と勇士たちが居並ぶヴァルハルが炎上し、最後は「愛の救済の動機」によって全曲が綴じられます。
ワーグナーの持つ「毒」を解毒した演奏
ミンシュという指揮者はヨーロッパ出身の指揮者としては珍しく、歌劇場での活動はほとんどなかったようです。1956年のタングルウッド音楽祭でワーグナーのワルキューレ第1幕を演奏した録音が残っているようですが、いわゆる通常のオペラ劇場での演奏とは本質的に異なるものです。
そう言えば、セルもメトロポリタン歌劇場での「タンホイザー」の上演をめぐってトラブルを引き起こし、「オペラほど忌まわしいものはない!」と吐き捨てて歌劇場での活動をやめてしまいました。
そのためか、それ以後のセルのワーグナー作品を聞いてみると、穿ちすぎかもしれませんが、ワーグナーの音楽に含まれる「毒」を抜き取り、色もまた完全に脱色した「反オペラ的」な音楽に仕上げています。結果として、ワーグナーの音楽が持っているシンフォニックな立体感と造型というもう一つの側面を見事なまでに表現した演奏になっていました。
しかし、「毒」も「色」も洗い流したワーグナーは、もはやワーグナーではないという人もいるでしょうが、あれは完全に確信犯的な演奏なのですから、良くも悪くもその「確信」に添って聞かなければいけません。
そして、ここでのミンシュのワーグナーはそこまでの「反オペラ」的な確信はなかったでしょうが、根っからのコンサート指揮者ゆえにワーグナーの音楽が持つ「毒」に関しては完全に解毒されています。それ故に、その音楽はシンフォニックでありこの上もなく明るく響きます。しかし、セルのような「反オペラ」的な意図はなかったでしょうから、脱色まではしていません。
結果として、この上もなく明るく華やか音色に溢れた、ある意味では脳天気とも言えるほどに素敵な(^^;ワーグナーが立ちあらわれてしまいました。
また、アイリーン・ファーレルというソプラノ歌手に関しても余り詳しいことは知らないのですが、その軽めで明るい声はその様なミンシュの音楽にピッタリとフィットしています。調べてみれば、若い頃はポピュラー・ソングも歌ってフランク・シナトラとも共演を重ねたそうですから、いわゆる普通のクラシックのソプラノ歌手とは毛色の違う人であったことは間違いないようです。
当然の事ながら、根っからのワグネリアンからすれば「許し難い」演奏かもしれませんが、まあ、広い心を持ってこの「脳天気なまでの明るさ」を楽しんでください。
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よせられたコメント
2021-04-23:shun
- こんなにも、背負うものの何もないワグナーを初めて聞いた感じです。
これが本来の姿なのでしょうか?魅力的です。
ドイツの御仁のものを、有難がっていた過去が、ばかばかしくなります
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