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サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 Op.78「オルガン付き」

アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1952年11月15日録音



Camille Saint-Saens:Symphony No.3 in C minor, Op.78 Symphonie avec orgue [1-1.Adagio - Allegro moderato ]

Camille Saint-Saens:Symphony No.3 in C minor, Op.78 Symphonie avec orgue [1-2.Poco adagio]

Camille Saint-Saens:Symphony No.3 in C minor, Op.78 Symphonie avec orgue [2-1.Allegro moderato - Presto - Allegro moderato]

Camille Saint-Saens:Symphony No.3 in C minor, Op.78 Symphonie avec orgue [2-2.Maestoso - Allegro]


虚仮威しか壮麗なスペクタルか?

 巨大な編成による壮大な響きこそがこの作品の一番の売りでしょう。3管編成のオケにオルガンと4手のピアノが付属します。そして、フィナーレの部分ではこれらが一斉に鳴り響きます。
交響曲にオルガンを追加したのはサン=サーンスが初めてではありません。しかし、過去の作品はオルガンを通奏低音のように扱うものであって、この作品のように「独奏楽器」として華々しく活躍して場を盛り上げるものではありませんでした。それだけに、このフィナーレでの盛り上がりは今まで耳にしたことがないほどの「驚きとヨロコビ」を聴衆にもたらしたと思われるのですが、初演の時に絶賛の嵐が巻き起こったという記述は残念ながら見あたりません。
 これは全くの想像ですが、当時のイギリスの聴衆(ちなみに、この作品はイギリスのフィルハーモニー協会の委嘱で作曲され、初演もイギリスで行われました)は、おそらく「凄いなー!!」と思いつつ、その「凄いなー」という感情を素直に表現するには「ちょっと気恥ずかしいなー」との警戒感を捨てきれずに、表面的にはそこそこの敬意を表して家路をたどったのではないでしょうか。
まあ、全くの妄想の域を出ませんが(^^;。
 しかし、その辺の微妙な雰囲気というのは今もってこの作品にはつきまとっているように見えます。
よく言われることですが、この作品は循環形式による交響曲としてはフランクの作品と並び称されるだけの高い完成度を誇っています。第1部の最後でオルガンが初めて登場するときは、意外にもピアノで静かに静かに登場します。決して効果だけを狙った下品な作品ではないのですが、しかし、「クラシック音楽の王道としての交響曲」という「観点」から眺められると、どこか物足りなさと「気恥ずかしさ」みたいなものを感じてしまうのです。ですから、コアなクラシック音楽ファンにとって「サン=サーンスのオルガン付きが好きだ!」と宣言するのは、「チャイコフスキーの交響曲が好きだ」と宣言するよりも何倍も勇気がいるのです。

 これもまた、全くの私見ですが、ハイドン、ベートーベン、ブラームスと引き継がれてきた交響曲の系譜が行き詰まりを見せたときに、道は大きく二つに分かれたように見えます。一つは、ひたすら論理を内包した響きとして凝縮していき、他方はあらゆるものを飲み込んだ響きとして膨張していきました。前者はシベリウスの7番や新ウィーン楽派へと流れ着き、後者はマーラーへと流れ着いたように見えます。
 その様に眺めてみると、このオルガン付きは膨張していく系譜のランドマークとも言うべき作品と位置づけられるのかもしれません。
 おそらく、前者の道を歩んだものにとってこの作品は全くの虚仮威しとしか言いようがないでしょうが、後者の道をたどったものにとっては壮麗なスペクタルと映ずることでしょう。ただ、すでにグロテスクなまでに膨張したマーラーの世界を知ったもににとって、この作品はあまりにも「上品すぎる」のが中途半端な評価にとどまる原因になっているといえば、あまりにも逆説的にすぎるでしょうか?
 もしも、この最終楽章に声楽を加えてもっと派手に盛り上げていれば、保守的で手堅いだけの作曲家、なんて言われなかったと思うのですが、そこまでの下品さに身をやつすには彼のフランス的知性が許さなかったと言うことでしょう。


凄まじいまでの緊張感と集中力は半端ではありません

振り返ってみるとトスカニーニの録音の紹介が非常に少ないことに気づきました。おそらくは、毎年新しくパブリック・ドメインとなる録音が追加される状況ではそこまで手が回らなかったと言うことなのでしょう。
しかし、いわゆるクラシック音楽の録音史を振り返る上では、さらにトスカニーニという稀代の大指揮者の業績を振りかえる上では抜け落ちてはいけない録音が大量に欠落していることも事実です。著作権法の改悪で当面はパブリック・ドメインが増えないのですから、そのあたりの録音もじっくり検討しながら追加していきたいと思います。

そう言えば、年を重ねても「衰え」を見せない指揮者としてモントゥーについてふれたのですが、同じようにこのトスカニーニもまた年を重ねてもあまり衰えを感じさせない人でした。
しかし、その「衰え」を見せない要因がモントゥーの場合は指揮棒一つで全てを表現することの出来る精緻にして正確な指揮技術の賜物であったのに対して、トスカニーニの場合は信じがたいほどのパワーを失わなかった「恐るべき老人」であった事が指摘できます。

トスカニーニと言えばその過酷きわまるリハーサルが有名であり、そのリハーサルを通して彼が目指すべき音楽を実現しました。そのリハーサルはオーケストラのメンバーを怒鳴りつけるなどと言うことは日常茶飯事で、「君臨する独裁者」として冷酷かつ執拗にオケを締め上げました。
普通こういうタイプの人は年を重ねればそこまでのパワーを維持することが不可能になり、普通は衰えをみせるものです。しかし、ここで紹介しているサン=サーンスの交響曲などからは微塵もその様な衰えを感じさせません。

1952年の録音ですからトスカニーニが引退をする2年前の録音であり、御年85歳だったのですから、この凄まじいまでの緊張感と集中力の維持は半端ではありません。おそらく、脂ののりきった年齢の指揮者でも、ここまでの集中力を持続して壮大な造形物を作りあげられる人は殆どいないでしょう。
そして、こういう壮大にしてメリハリのきいた造形感覚こそがトスカニーニの持ち味であり、それが85歳にしても全く衰えなかったというのですから、これはもう化け物と言うしかありません。

しかしながら、その背景にどれほどの涙をオケのメンバーはリハーサルで流したことでしょう。(^^;
そして、そう言う涙などには何らの同情は示さず、全ては音楽に奉仕することこそが大切であるとして手綱を緩めなかったトスカニーニの凄さも垣間見えるのです。

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