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シューマン:マンフレッド序曲 作品115

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1951年1月24日録音



Schumann:Manfred Overture, Op.115


流浪の旅を続けるマンフレッド

バイロンの詩劇「マンフレッド」に触発されて作曲されたもので、序曲と15の場面かな成り立っています。しかし、序曲だけは非常に有名であるのに対して、それに続く15の音楽が演奏されることはほとんどありません。
やはり、オペラでもなければオラトリオでもない、「詩劇」というスタイルが今の時代にはマッチしないのでしょうか。

また、バイロンの「マンフレッド」も、今ではどの程度のポピュラリティがあるのかも疑問です。少なくとも、日本でこの題名を聞いてシューマンの序曲を思い出す人はいても、バイロンの作品を思い出せる人は少数でしょう。
流浪の旅を続けるマンフレッドが、かつて捨て去った女性(アスタルテ)の霊と地下の国で会い、その許しを得ることで救われるという話です。

そして、このバイロンの作品全体を総括するような音楽がこの序曲なのですが、それはストーリーを標題音楽的にまとめるのではなくて、物語の中でシューマンが感じとったマンフレッドの姿を純粋器楽の形式で表現したものになっています。


全盛期への復帰なのかエコーなのか

1951年の1月にフルトヴェングラーはウィーンフィルを相手として幾つかの小品をまとめてスタジオ録音しています。録音を行ったのはEMIなのですが、おそらくはテープ録音が行われていたようで、充分とはいえなくてもかなり良好な音質が確保されているのは嬉しい限りです。
この時期に録音された小品は以下の通りです。

  1. ケルビーニ:アナクレオン序曲 1月11日録音

  2. ニコライ:ウィンザーの陽気な女房たち序曲 1月18日録音

  3. スメタナ:モルダウ 1月24日録音

  4. シューマン:マンフレッド序曲1月24日~25日録音


シューマンのマンフレッド序曲が小品かと言われるといささか言葉に詰まるのですが、それでもコンサートのメインプログラムにはならないだろうと言うことでご容赦ください。
なお、この小品を録音している間にハイドンの交響曲第94番「驚愕」(1月11日~12日&17日録音)も録音しています。
「録音」という行為に懐疑的であり、批判的でもあったフルトヴェングラーにしては珍しい事だと思うのですが、後の世のものにとっては有り難いことでした。

しかし、これら一連の録音を聞くと、フルトヴェングラーの演奏は戦争下の極限状態で行われたものこそが人類の至宝であり、とりわけ戦後にスタジオで録音されたものはつまらないという人の言い分には納得させられてしまう要素があることは事実です。
しかし、その事の根っこには、フルトヴェングラーという指揮者の本質をどうとらえるのかという根本的な問題も潜んでいるように思えます。

私がその事に気づいたのは、山下山人氏の「フルトヴェングラーのコンサート」を読んだことが切っ掛けでした。
興味のある方は是非とも一読願いたいのですが、そこで私が注目したのは山下氏がフルトヴェングラーの全盛期は1922年にベルリンフィルのシェフに就任したときからナチスが政権を握る1933年までだと断言し、それ以降の戦争が終了するまでのフルトヴェングラーの演奏をナチスによって歪に変形させられたものだったと断じたことです。

これはもう、世間一般の常識、とりわけ丸山真男氏やその熱烈な支持者である中野雄氏などの見解に真っ向から異を唱えるものになっています。山下氏にはそう言う気はないかもしれませんが、私にはその様に読めました。
もちろん、私はそのどちらが正しいかなどと言うことにここで言及するつもりはありません。
しかし、フルトヴェングラー演奏の評価に大きな影響力を持っていた丸山真男氏などとは異なる立場を、フルトヴェングラーの演奏記録を全て洗い出すという大変な労力を積み上げることによって示したと言うことは実に新鮮でした。

そして、世間ではつまらないと言われる事の多い戦後のスタジオ録音を聞くと、フルトヴェングラーがナチス政権下の歪な変形から抜け出して再び若い時代のスタイルに戻りつつあるように感じられるのです。
山下氏はこの時代のフルトヴェングラーのことを「縮小の時代」と述べています。
それはフルトヴェングラーのレパートリーが著しく限定されたものとなり、さらには、ナチス政権下の歪さからは解放されたものの、全盛期の活き活きとした活力は蘇っていないというのです。それ故に、戦後の演奏は全盛期の演奏と較べれば「影」のような音楽だと述べています。
ただし、フランスのフルトヴェングラー協会が、この戦後の時代を「アポテオーシス(神格化)」と評価していることは紹介しています。

私としては、指揮者が年を経れば若い時代の活力を失っていくのはやむを得ないことであり、この一連の録音に見られるようにテンポ設定も遅くなっていくのは良くあることです。しかし、その演奏のスタイルはナチス政権下の異常な演奏よりははるかに全盛期のスタイルに近いもののように思われます。
しかしながら、1947年に演奏活動に復帰してからフルトヴェングラーに残された時間は余り多くはありませんでした。
彼が1954年に、わずか68歳でなくなるなどと誰が想像したことでしょう。せめて、あと10年の余裕があれば、おそらくナチス政権下の忌まわしい記憶を振り切って、もう一段高い境地を聞かせてくれたかもしれないと妄想したりするのですが、それもまた妄想でしかありません。

それにしても、昔の巨匠というのは、フルトヴェングラーだけでなく誰もがこのような小品でも手を抜くことなく実に立派に演奏したものだと感心させられます。もちろん、今の指揮者も手を抜いているわけではないのでしょうが、それでもこのように上手く小品を演奏しているのを聞いたことは殆どありません。
それは、録音媒体における「小品」の価値の低下と言うことが根っこにあるのでしょう。
SP番の時代であれば「小品」といえどもそれはメインであり得ました。しかし、デジタルの時代になってからは「小品」は埋め草程度の価値しか持たないようになってしまいました。

そう思えば、フルトヴェングラーが、彼の全盛期を思わせるようなスタイルで、そしてそれが全盛期の「影」にしか聞こえないような演奏だと言われても、こういう形でスタジオ録音が残ったことは実に有り難いことだと思わずにはおれません。

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