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マルケヴィッチ(Igor Markevitch) |ワーグナー:ワルキューレの騎行
ワーグナー:ワルキューレの騎行
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1954年12月19日~20日録音
Wagner:The Ride of the Valkyries
ワーグナーの狂気と侵略戦争の狂気が見事にクロスしたシーン
この、あまりにも有名な音楽は楽劇「ヴァルキューレ」の第3幕の冒頭部分を下敷きにしています。
ただし、楽劇では管弦楽のみによる序奏は短く、幕が開くとヴァルキューレ達が「ホーヨートーホー」と声を上げて、次々と岩山に集まってきます。
この「ヴァルキューレ」というのは羽のついた鉄兜をかぶり、槍と縦を持って馬にまたがり天空を駆けめぐる乙女達です。この「ヴァルキューレ」は「戦乙女」と訳されて、戦の上空を飛び回り、その勝敗の帰趨を決定づける存在とも言われるのですが、その起源は北欧神話に由来すると言われています。
その北欧神話では、彼女たちは戦場で倒れた最高の勇士達を選別しては彼らを天上に連れて帰る役割を与えられています。そして、選ばれた勇士達は天上(ヴァルハラ)で再び生命を与えられて、その地を守る任務に就くとされているのです。
楽劇では、この岩山に集まった8人のヴァルキューレ達がフル編成のオーケストラの響きをつきぬけるように叫び声が絡むところは、ワーグナーが書いた音楽の中でもとびきりの迫力に満ちた場面だといえます。
なお、この管弦楽版の「ヴァルキューレの騎行」はワーグナー自身の手になる編曲版です。
ついでながら、この音楽がとりわけ有名になったのはフランシス・コッポラ監督による「地獄の黙示録」でアメリカ軍がヘリコプターでベトナムの村を襲撃するシーンで使われたことです。
それはワーグナーの狂気と侵略戦争の狂気が見事にクロスしたシーンであり、逆説的に言えばワーグナーの凄みを最も的確に映像化したシーンだったように思えます。
ベルリン・フィルの余裕にマルケヴィッチの狂気に満ちた野蛮さのようなものが包摂されてしまっている
フルトヴェングラーが亡くなったのが1954年の11月30日ですから、これはまさにその直後に行われた録音と言うことになります。
つまりは、フルトヴェングラーの突然の死という現実を前にして、ある意味ではよりフルトヴェングラー色が色濃くにじみ出るような時期にマルケヴィッチはベルリンフィルの前に立ったのです。しかし、彼がベルリン・フィルに要求したのはフルトヴェングラーが要求した音楽とはほとんど真逆とも言うべきベクトルを持ったものでした。
そして、この録音を聞けば、マルケヴィッチはその自らの音楽をこの時期のベルリンフィルにやりきらせているのです。
マルケヴィッチはコンサートでも録音でも良くワーグナーの管弦楽曲を取り上げていて、その解釈に関しては確固たるものを持っていました。その解釈このベルリン・フィルと録音した演奏を聞いても、一点の揺るぎもないことが分かります。
彼はワーグナーの音楽を重厚な響きによってうねるような巨大さを実現しようなどと言う気持ちは欠片も持っていません。彼が注目するのは、その楽曲の内部構造であって、その仕組みが誰の耳にも届くように知的に、そして明晰に表現することだけを求めていました。
その意味では、私が深く敬愛しているジョージ・セルとクリーブランド管によるワーグナー録音と方向性はほぼ同じです。
40歳をこえたばかりのマルケヴィッチにしてみればまさに油がのってこようかという時期であり、例え相手が全盛期のベルリンフィルであっても容赦なしという感じです。
彼が求めるワーグナーの姿は、後年手兵となったラムルー管と録音したときも要求するものはこのベルリンフィルの時と寸分の違いもありませんでした。
しかし、ラムルー管とベルリン・フィルで異なるのはその機能性です。ラムルー管はマルケヴィッチの地獄のしごきに耐えて必死でその棒に食らいついています。
しかし、ベルリンフィルの場合はさすがと言うべきか、その要求に対してもかなりの余裕を持って対応しています。
結果として、フルトヴェングラー時代の素晴らしい響きを保持しながら、実に堂々たる立派な音楽を聞かせてくれています。
しかし、聞き手というのは贅沢なもので、その余裕に包摂されるようにマルケヴィッチの狂気に満ちた野蛮さのようなものが封印されてしまっているように聞こえてしまうのです。そして、野蛮さこそがマルケヴィッチのマルケヴィッチたるところであるならば、それがあからさま表に出てくるラムルー管との演奏の方にエキサイティングな魅力を感じてしまうのです。
まあ、そんなおかしな聴き方をするのは私だけかもしれないのですが、音楽というのは上手ければいいという話ではないこともまた事実なのです。
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