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ボロディン:歌劇「イーゴリ公」より「ダッタン人の踊り」

アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 1959年9月8日~11日録音



Borodine:Polovetsian Dances from "Prince Igor"


今や超有名曲ですね。

10年ほど前の話になるのですが、何人もの方から、「ダッタン人の踊り」をアップしないのかとプッシュされました。
私の感覚としてはボロディンのこの作品はどちらかと言えば辺境のマイナー曲というイメージがあったので、なぜにこんなにもたくさんリクエストが来るんだ?と不思議に感じたものでした。

しかし、調べてみるとコマーシャルなんかにもよく使われているみたいで(JR東海の「うまし うるわし 奈良」)、さらにあの有名なメロディをカバーしたポップス曲なんかも出ていたのでした。
ですから、クラシック音楽に興味は無くても、あのメロディは知っているという人が意外と多いようで少しばかり驚いたものでした。

ご存知のように、この作品は、ボロディンがその生涯をかけて作曲に勤しんだ歌劇「イーゴリ公」の中の1曲です。残念ながら、本職が「化学者」で、趣味として作曲活動を続けていたボロディンはリムスキー・コルサコフの助力を得ながらも、最終的には自らの手でその作品を完成させることは出来ませんでした。
よく知られているように、未完成のまま放置されたロシア五人組の作品を丹念に仕上げていったのはリムスキー・コルサコフだったのですが、この「イーゴリ公」もリムスキー・コルサコフによって仕上げられて、1890年11月4日、サンクト・ペテルブルクのマリンスキー劇場で初演が行われました。

「ダッタン人の踊り」はこのオペラの中の第2幕に登場するのですが、その分かりやすく異国情緒に満ちた音楽は単独で取り上げられるようになり、今では本体の歌劇よりもポピュラリティを得ています。
そして、「ダッタン人の行進」は第3幕の冒頭に流れる音楽で、オペラではこの音楽で幕が上がります。

多くのロシア人の捕虜を連れて凱旋してくる場面であり、伝えられる話によると、ボロディンは日本の大名行列を描いたものをもとにこの音楽をイメージしたそうです。

なお、「ダッタン人」という表記は、原題が「ポロヴェツ人」になっているため、明らかに翻訳ミスによるものと思われます。一時は、ともに中央アジアで活躍する遊牧民族なので似たようなものだろう、と言われていましたが、今では明らかにミスだとされています。
それから、大阪人である私などは、「ダッタン人」という言葉を見ると、大阪の詩人、安西冬衛の「てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた。」という一行詩を思い出してしまいます。
もちろん、両者の間には何の関係もありませんが・・・。


腹に響くバスドラ(グランカッサ)の響き!!

追記
ラフマニノフの協奏曲を紹介したときに、「Musique Russe / Cluytens」とういうアルバムについても言及しました。そして、そちらの方は取り上げずに放置していることに気づきました。
この管弦楽曲集について言いたいことは、すでに協奏曲の項で自分としては十分に伝えています。それに、今さら付け加える必要のないので、協奏曲に関する部分を削除して文章を仕立て直すのも面倒ですしその必要も感じませんので、そのままの文章を載せておきます。
使い回しの手抜きとは思わないでいただければ幸いです。
追記終わり

クリュイタンスによるラフマニノフの協奏曲って話題になったことがあるでしょうか。さらに、ガブリエル・タッキーノというピアニストに関してもほとんど名前を聞いたこともなかったので、恥ずかしながら「これ!」と言ったイメージを描くことが出来ませんでした。
ですから、この録音を聞くときの興味も「クリュタンスにしては珍しいレパートリーだな」程度のものだったのですが、聞いてみてびっくり、これは大当たりの素晴らしい演奏と録音でした。

まず、冒頭の音が出た瞬間に感じたのは「軽い!」でした。
だいたい、この出始めというのはピアノにしてもオケにしても出来る限り重々しく開始するものです。ところが、ガブリエル・タッキーノのピアノも、クリュイタンスが指揮するコンセルヴァトワールのオケも、実に肩の力の抜けた響きで開始するのです。
つまりは、ここには「ロシアの憂愁」等というものは全くないのです。ですから、この第2番の協奏曲にその様なものを求める人にとっては甚だ不向きな演奏だと言うことになるのです。

しかしながらこの演奏がいいと思うのは、そう言う「ロシアの憂愁」とは手を切りながらも、アメリカ風の都会的に洗練され漂白されたような演奏とも異なることです。
知的で明晰な演奏であることは言うまでもないのですが、「ロシアの憂愁」というものに含まれている余分な雑味のようなものが取り出されて、実にスタイリッシュな「憂愁」だけが蒸留されたような音楽に仕上がっているのです。

そして、そう言う方向性はソリストと指揮者がきちんと共有しているようで、ピアニストは分厚いオケの響きを突き抜けていくような苦労はほとんど背負っていないので、実に美しい響きで全曲を弾ききっています。調べてみると、ガブリエル・タッキーノというピアニストはプーランクの演奏で有名らしいのですが(わたしは未聴ですが・・・。)、なかなかどうして大したピアニストです。
また、録音の方も、そう言う知的にして明晰、さらには「スタイリッシュな憂愁」を描き出すのに十分な優秀さで貢献しています。おそらく、ステレオ録音初期のものとしてはかなりの優秀盤に数えられるのではないでしょうか。

また、クリュイタンスは、ほぼ同じ時期にコンセルヴァトワールのオケとの共演で「Musique Russe / Cluytens」というアルバムも録音しています。
これは、ボロディン(だったん人の踊り)やリムスキー=コルサコフ(ロシアの復活祭 序曲/熊蜂の飛行)の管弦楽曲を集めたものなのですが、それらにもこの協奏曲で用いた解釈が貫かれていて、重くもなく、漂白もされていない、そしてこういう言い方は実にいい加減で曖昧な表現であることは分かっているのですが、「フランス的な粋」にあふれた音楽に仕上がっています。

さらに、感心したのは、クリュイタンスとコンセルヴァトワールのオケとのとの相性の良さです。
あのオケは実力がありながら、何故か手抜きが出来るならば手抜きをしようといつも考えている様なところがあって、指揮者にとっは実に困った存在なのですが、何故かクリュイタンスが指揮者の時には全力を出し切るのです。
ここでも、知的で明晰に音楽を造形しようというクリュイタンスの意志に全力で応えています。やろうと思えばこれほどのアンサンブルが実現できるのならば、いつも「頑張れよ!」と言いたくなってしまうほどの出来なのです。
実に不思議な話です。

そう言えば、クリュイタンスは「オケというのは練習させすぎてはいけない」みたい事を言ってたような記憶があります。
おそらくは、そう言うスタンスがこのオケには必要なのかもしれません。

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