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バルトーク:5つのハンガリー・スケッチ Sz.97

フリッツ・ライナー指揮 シカゴ交響楽団 1958年12月28日~29日録音



Bartok:Hungarian Sketches, for orchestra, Sz. 97, BB 103 [1.An Evening in the Village]

Bartok:Hungarian Sketches, for orchestra, Sz. 97, BB 103 [2. Bear Dance]

Bartok:Hungarian Sketches, for orchestra, Sz. 97, BB 103 [3.Melody]

Bartok:Hungarian Sketches, for orchestra, Sz. 97, BB 103 [4.Slightly Tipsy]

Bartok:Hungarian Sketches, for orchestra, Sz. 97, BB 103 [5.Swineherd's Dance]


お気に入りのピアノ曲から5曲を選び出し管弦楽曲に編曲した作品

バルトークが親友のコダーイと母国の民謡を採取し、それを自らの創作活動にいかした話は今さら繰り返すまでもないことです。
きっかけは、1904年にトランシルヴァニア地方の女性の子守唄を聞いた事だったと伝えられています。

そして、その成果を最初はピアノ曲という形で発表していくのですが、1930年代にはいるとそれらを管弦楽曲に編曲していきます。
「トランシルヴァニア舞曲」や「ハンガリー農民の歌」はその様にして生まれた作品なのですが、この「ハンガリーの5つのスケッチ」もその様な編曲版の一つです。

バルトークは自作のピアノ作品からお気に入りの5曲を選び出し管弦楽曲に編曲したのが「ハンガリーの5つのスケッチ(風景)」です。


  1. 第1曲:トランシルヴァニアの夕べ→「10のやさしい小品」の第5曲

  2. 第2曲:熊踊り→「10のやさしい小品」の第10曲

  3. 第3曲:メロディ→「4つの挽歌」の第2曲

  4. 第4曲:ほろ酔い→「3つのブルレスク」の第2曲

  5. 第5曲:豚飼いの踊り→「子供のために」第2集の最終曲



この中でも、最初の2曲「トランシルヴァニアの夕べ」と「熊踊り」はお気に入りだったようで、自分でも良くピアノで演奏してたそうです。
あのバルトークが日本人にも郷愁を引き起こすような5音音階の音楽を好んで演奏していたというのはいささか驚きなのですが、意外とそれが彼の本質的な部分の一つだったのかもしれません。


同じ民族性を持った人にしか表現できないようなものを音楽の奥底に沈めている

1955年に録音された「管弦楽のための協奏曲」と1958年に録音された「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」はバルトーク作品中でも屈指の名録音であると同時に、ライナーの数ある録音の中でも最上級の優れものです。

録音のクレジットを確認すると、1958年12月の28日から29日にかけて「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」ともう一曲「5つのハンガリー・スケッチ」も録音しています。

「5つのハンガリー・スケッチ」は「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」と較べればはるかにマイナーな作品です。しかし、「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」だけではレコードの両面は埋まらないのでカップリング曲として「5つのハンガリー・スケッチ」を選んだのでしょうが、そうであってもこの「ハンガリー・スケッチ」を選んだと言うことに意味を感じるのです。
それは、もしかしたらライナーがこれらの作品に臨んだときの姿勢を暗示していたのかもしれません。

「5つのハンガリー・スケッチ」は聞いてもらえば分かるように、日本人にとっては何処か懐かしさを感じる音楽になっています。
なぜならば、これはハンガリー民謡の特徴である5音音階が登場するからであって、それは日本人とっても懐かしさを喚起するからです。

確かに、このライナーの演奏はそう言う「民族性」のようなものとは遠く離れたところで成り立っているように聞こえます。とりわけ「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」の精緻な表現はこの時代における一つの到達点と言ってもいいほどの優れものです。

しかしながら、オケの技術は80年代以降に大幅に進歩しましたから、それと同じスタンスで比較すれば、これと肩を並べることが可能な演奏は存在します。最近はその様なスタンスで過去の業績を低く見積もる向きもあります。
しかし、その様な比較だけで「昔はたいしたことないよね」というのは歴史を「阿保の画廊」と見なすスタンスです。
それは結果として50年代においてこのレベルを実現していたことの意味を見落としてしまうのです。

ベイヌムとコンセルトヘボウ、ライナーとシカゴ響、セルとクリーブランド管、カラヤンとベルリンフィル、そしてムラヴィンスキーとレニングラード管などの組み合わせが成し遂げた業績は、同時代の中においてみなければその凄みは分からないのです。
ライナーは理詰めで構築されたバルトークの音楽の綾のようなものを精緻に再現しながら、同時に「5つのハンガリー・スケッチ」で聞かせてくれたような「民族の魂」のようなものを取りこぼしていないのです。

それは言葉をかえれば、表現の精緻さだけを追求するあまり、結果として音楽そのものが淡泊で蒸留水のようなものになってしまう愚に陥っていないと言うことです。
ライナーはバルトークと同郷の音楽家であり、それ故に「お国もの」などと言う安易な決めつけはしたくはないのですが、それでも同じ民族性を持った人にしか表現できないようなものを音楽の奥底に沈めているような気がするのです。

もしかしたら、ライナーは「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」では奥底に沈めたものを鈍な聞き手にも気づいてほしいが為に、カップリング曲として「5つのハンガリー・スケッチ」を選んで、それを表に浮き上がらせたのかもしれません。
そう考えれば、一枚のレコードにこの二つの曲をカップリングさせたのは見事な見識だったと言えます。
そして、そう言う芸当は、スコアをどれだけ精緻に音に変化して見せても実現は不可能なのです。

機能というものは表現すべき音楽があってこそ意味を持つのであり、音楽が枯渇していく中で機能だけが一人歩きすればそれはひたすら虚しいだけなのです。
それは逆から見れば表現すべき音楽があって、そこに高い機能が奉仕するときにどれほど凄いことが実現できるかの見本がここにはあると言うことです。

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