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レオニード・コーガン(Leonid Kogan)|チャイコフスキー:瞑想曲 ニ短調 Op.42 No.1
チャイコフスキー:瞑想曲 ニ短調 Op.42 No.1
(Vn)レオニード・コーガン:コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 パリ音楽院管弦楽団 1959年録音
Tchaikovsky Meditation in D minor, op.42 No.1
もとは「ヴァイオリン協奏曲」の第2楽章として書かれたものでした
チャイコフスキーは不幸な結婚とその果ての自殺未遂によって、スイスの湖畔の村クラランの別荘に逃亡します。それが可能だったのは、彼の終生のパトロンとなったフォン・メック夫人の援助があったからです。
彼はその別荘に腰を落ち着け作曲活動に専念することになります。そして、そこで「交響曲第4番」や「エフゲニー・オネーギン」、さらには当地をたずねてきた友人のヴァイオリニストの助けを受けて「ヴァイオリン協奏曲」などを完成させることになるのです。
この「瞑想曲(Meditation)」は、その「ヴァイオリン協奏曲」の第2楽章として書かれたものでした。
しかしながら、全体のバランスを考えればこの音楽は短すぎると判断して、チャイコフスキーは別の音楽「Canzonetta」に差し替えます。
しかし、この短い音楽はとても美しく、それ故に捨てるのに忍びがたかったようで、ロシア帰国後に「なつかしい土地の思い出」と題したピアノとヴァイオリンのための作品の第1曲として採用します。
この「なつかしい土地の思い出」の「なつかしい土地」とは言うまでもなくメック夫人の援助によって過ごしたスイスのことであり、この作品はその事への感謝の気持ちを表したものでした。
なお、管弦楽版はチャイコフスキー本人ではなくてグラズノフの手になるものであり、今日ではそちらの方が有名になっています。
「秘すれば花」という言葉のもっとも素晴らしい実例がここにある
「ヴァイオリンの鬼神」と言えば一般的にはパガニーニに奉られた言葉なのですが、このコーガンにもその言葉は良く呈されました。または「魔神と契約したヴァイオリニスト」などとも言われました。
そう言われる背景には、彼がとんでもない早熟の天才だったこと、さらにその早熟が早熟で終わることなく、完璧なイントネーションとボーイング・テクニックによって、ロシア=アウアー楽派の頂点を極めたことによるものでした。
確かに、パガニーニの奇想曲全24曲を一夜で演奏するなどという演奏会は今も一つの伝説であり、そんな事は魔神とでも契約しなければ不可能なことだと誰もが思ったはずです。そして、その驚くべきテクニックに裏打ちされることで、ベートーベンやブラームス、メンデルスゾーン、チャイコフスキー、ラロ、パガニーニなどの協奏曲を驚くべき集中力と安定感を持ってねじ伏せていったのでした。
その凄みは、ある面ではハイフェッツをも凌いでいたかもしれません。
しかし、こういう小品の録音を聞いていると、コーガンのもう一つの顔が見てくるような気がします。
そして、こういう小品の方がコーガンの素顔がのぞいているような気がするのです。
そう言えば、ハイフェッツも協奏曲のような大曲よりも、小品を取り上げたときの方が魅力的でした。
しかし、コーガンと較べれば、小品と向き合うスタンスには大きな違いがあることに気づかされます。
誤解を恐れずに言い切れば、ハイフェッツの持ち味はまずはエンターテイメントでした。そして、そのエンターテイナーとしての資質は堅苦しい大曲よりは小品の方が向いていたのです。
それに対して、コーガンの場合は、彼が本来持っていたであろう繊細で清潔な心情のようなものが、こういう小品を向き合ったときには素直に吐露できているように思えるのです。
コーガンという人はオイストラフのように、滴るような美音で歌い回すというタイプではありません。しかし、オイストラフの「美音」が時には「微温」になるような世界とは一番遠いところにいました。
何よりも驚かされるのは、「美音」ではないけれども実に多彩な音色を持っていたことです。そして、その多彩な音色を駆使して、この上もなく繊細に旋律のラインを描き分けていくのです。
その特徴はピアノの部分ではより際だちます。
そして、その清潔にして楚々とした佇まいの中から、時々ゾクッとするような艶めかしい官能の影がよぎるのです。しかし、それもまた一瞬のことであって再び楚々とした佇まいに戻るのですが、その一瞬の妖しさがもたらす効果は絶大です。
まさに「秘すれば花」という言葉のもっとも素晴らしい実例がここにはあります。
コーガンと言えば、その圧倒的なテクニックでバリバリとヴァイオリンを弾き倒した人だと思っている人には是非とも聞いてほしい録音です。
この演奏を評価してください。
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