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ブラームス:ハンガリー舞曲集より

ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮 北ドイツ放送交響楽団 1954年5月18日~20日録音



Brahms:Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.1

Brahms:Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.2

Brahms:Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.3

Brahms:Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.5

Brahms:Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.6

Brahms:Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.7

Brahms:Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.10


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ジプシー音楽を下敷きにした作品

ブラームスのハンガリー舞曲と言えば、第5番だけが突出して有名です。それはきっと、チャップリンが「独裁者」の中で見事に使って見せたことが大きく寄与しているのでしょう。
しかし、ハンガー舞曲は第5番だけではありません。それ以外にも素敵なメロディがあふれていて、ある意味、その手の才能に恵まれなかったブラームスにしては「愛想」のよい作品に仕上がっています。

この作品が書かれることになるきっかけは、若きブラームスがエドゥアルト・レメーニというヴァイオリニストの伴奏ピアニストとしてどさ回りをしていた頃にさかのぼります。
レメーニはジプシー・スタイルの演奏が持ち味で、暇があればジプシー音楽を演奏していました。ブラームスはその音楽が気に入ったようで、暇があればレメーニが演奏するジプシー音楽をメモしていました。そして、そのメモをもとに少しずつ作品として仕上げていったものがハンガリー舞曲集となったわけです。
ですから、後にブラームスがハンガリー舞曲集を発表したときも、「作曲」とはせずに「編曲」とし、さらに作品番号も与えませんでした。

しかし、このブラームスらしい「謙虚」な姿勢があとから彼を救うことになります。
この作品は当初は出版を断られるのですが、後にブラームスの重要なパートナーとなるジムロックが出版を引き受けます。そして、一般家庭にピアノが普及しはじめた社会情勢も追い風となって、この楽譜は飛ぶように売れます。それは、ジムロックだけでなくブラームスにも大きな経済的成功をもたらすことになります。
この成功を見て頭にきたのがレメーニでした。自分が教えてやったジプシーの音楽を勝手に使って、ブラームス一人だけ大もうけしていたのが許せなかったのでしょう。彼はことあるごとに、ブラームスを自分の作品を盗んだ男だと攻撃しました。
ブラームスはこの攻撃に対して静観を決めつけていたようですが、黙っていられなかったのはジムロックの方だったようで、ついにレメーニとジムロックは裁判で白黒をつけることになります。結果は、ブラームスが「作曲」とはせずに「編曲」とした事、そもそも原作者そのもの特定が難しいことなどから、レメーニの敗訴で決着します。

しかし、この裁判によって、ブラームスは続く第3集・第4集においては出来るかぎり自作の旋律を使うようになり、さらにジプシーの音楽を使うときも徹底的に編曲を施して「盗作攻撃」を受けないように配慮するようになりました。
結果として、前半の10曲と後半の10曲ではずいぶんテイストが変わってしまいました。明らかに、後半の作品の方がブラームス的な洗練を感じますが、前半の作品に見られた奔放なジプシーらしさは失われています。
よって、当然のことながら今も昔も人気が高い作品は前半10曲に集中することになります。

ブラームスは間違いなく偉大な作曲家ですが、この事実の中に彼の唯一とも言えるウィークポイントが浮かび上がってきます。

<第1集>
1. ト短調 (Allegro molto)
2. ニ短調 (Allegro non assai)
3. ヘ長調 (Allegretto)
4. ヘ短調 (Poco sostenutto)
5. 嬰ヘ短調 (Allegro)

<第2集>
6. 変ニ長調 (Vivace)
7. イ長調 (Allegretto)
8. イ短調 (Presto)
9. ホ短調 (Allegro non troppo)
10. ホ長調 (Presto)

<第3集>
11. ニ短調 (Poco andante)
12. ニ短調 (Presto)
13. ニ長調 (Andantino grazioso)
14. ニ短調 (Un poco andante)
15. 変ロ長調 (Allegretto grazioso)
16. ヘ短調 (Con moto)

<第4集>
17. 嬰ヘ短調 (Andantino)
18. ニ長調 (Molto vivace)
19. ロ短調 (Allegretto)
20. ホ短調 (Poco allegretto)
21. ホ短調 (Vivace)


「Decca」での初期の録音を聞き直してみれば、その演奏スタイルの「古さ」に気づかざるを得ません


イッセルシュテットの録音を調べてみると、それが実に様々なレーベルからリリースされていることに驚かされます。ざっと数え上げるだけで「Telefunken」「Decca」「Capitol」「Melodiya」「Mercury」等々です。
言うまでもないことですが、昔は演奏家とレコード会社の「契約」は絶対的なものでしたから、気楽にその「契約」の枠を超えて録音を行うことは出来ませんでした。

例えば、カラヤンとウィーンフィルの関係などはその好例と言えるでしょう。

カラヤンはEMIと契約を結んでいて、ウィーンフィルはDeccaと契約を結んでいました。
ですから、カラヤンがウィーンの国立歌劇場の音楽監督に就任してもウィーンフィルと録音を行うことは出来なかったのです。カラヤンがウィーンフィルと録音を行うためにはDeccaとも契約をかわす必要があったのです。

ですから、いろいろなレーベルで録音を行っているというのは、あちこちから引っ張りだこというわけではなくて、腰を据えて録音活動を行えるような契約が結べていなかったことを意味しているのです。
たとえば、50年代初期の「Decca」との録音を振り返ってみても扱いの悪さは明らかです。
少なくとも、ブラームスやドヴォルザークの舞曲を抜粋したレコードというのはレーベルのレパートリーを確立していく上で重要な役割を果たすものとは言えません。

そう言う意味では、「Capitol」がヨーロッパでのクラシック音楽の録音に取り組み始めた矢先に「EMI」に吸収されたのは、イッセルシュテットにしては不幸な出来事でした。
何故ならば、「Capitol」はレーベルのレパートリーを作りあげていく上での軸となる指揮者としてイッセルシュテットを起用するつもりだったからです。

この「レーベルのレパートリーを作りあげていく上での軸となる指揮者」と言うのは、具体的に言えばEMIの50年代におけカラヤン、60年代におけるクレンペラーを思い出してもらえればいいかと思います。
そう言う意味では1955年の4月と12月に集中的に行われた「Capitol」との録音には強い意気込みをもって臨んだものと思われます。そして、そう言うレベルの録音がこの後も継続的に続けられていれば、イッセルシュテットという人の評価も大きく変わっていたかもしれません。
しかし、その「Capitol」が「EMI」に吸収合併されることで、両者の関係はその2度で終わってしまいました。

その後の録音歴を見てみると、様々なマイナーレーベルでも録音を行っているのですが、50年代の後半にバックハウスの伴奏(ベートーベンのピアノ協奏曲全集)という形で「Decca」と録音し、60年代の後半には同じく「Decca」でべー十ーベンの交響曲全集を録音しています。
ですから、彼の録音歴の背骨らしきものは「Decca」が担っていると言えるのでしょうが、「Decca」の側の彼に対する評価はなかなか定まらなかったようです。

そして、イッセルシュテットにしてみれば「Decca」と継続的な関係を結ぶ事には何の不都合もなかったでしょうから、その曖昧さの原因は「Decca」の側にあったと思わざるを得ないのです。
そう思って、改めてこの「Decca」での初期の録音を聞き直してみて気づくのは、その演奏スタイルの「古さ」です。

おかしな話ですが、今という時代からこういう演奏を聞けばその「古さ」が逆に好ましく思えたりするのですが、これを50年代の初め頃においてみれば、それはひたすら「古かった」はずです。
そう言えば、この時代の北ドイツ放送交響楽団のコンサート・マスターはエーリヒ・レーンで、チェロのトップはアルトゥール・トレースターだったはずです。この二人は戦前のベルリンフィルでも同じポジションにいたプレーヤーです。
戦後、フルトヴェングラーがこのオケにたびたび客演指揮をしたのはそういう事情もあった為だと言われています。

この、良く言えば馥郁とした、悪く言えばボッテリとした響きは、同じ時代に日の出の勢いで登場してきたカラヤン&フィルハーモニア管の響きと較べてみれば明らかに過去のものであり、「Decca」にしても彼らの核を成すアンセルメ&アウイス・ロマンド管の響きとは異質なものでした。
しかし、そう言うスタイルをイッセルシュテットは最後まで変えることはなかったようです。そこには、ドイツ音楽の復興を託されたという自負があったからでしょう。

そんなイッセルシュテットがこの世を去ってから40年以上の時が経て、その時の流れの中でクラシック音楽も様々なムーブメントに翻弄されてもみくちゃにされてきました。
そして、そのもみくちゃにされた果てから過去を振り返ってみれば、こういう古さに懐かしさと大いなる価値を見いだす人もいるのかもしれません。

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