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ヘンデル:オンブラ・マイ・フ

(Cello)モーリス・ジャンドロン (P)ピーター・ガリオン 1960年11月録音



Handel:Largo(Ombra mai fu)


美しいメロディ

ずいぶん前の話ですが、ガスパール・カサドのチェロによる「オン・ブラ・マイフ」を紹介したときに次のように書いていました。

「さて、ヘンデルといえばメサイアですが、このラルゴ(オン・ブラ・マイフ)によってオペラ作曲家というもう一つの顔に出会うことができました。今では劇場で彼のオペラが上演されることはほとんど無くなってしまいましたが、実に多くのオペラを書いた人でした。(そのへんがオペラを1曲も書かなかったバッハと好対照です。)
実は私もヘンデルのオペラを全曲通して聞いたことは一度もありません。オペラ作曲家としてのヘンデルの「認知されない度」は大変なものがあります。(^^;」

古楽器による演奏が隆盛を極めたおかげで、「今では劇場で彼のオペラが上演されることはほとんど無くなってしまいました」という部分は少しは訂正が必要なようです。古楽器演奏というムーブメントがそう言う埋もれていた作品にも日の光を当てたという事実は認めざるを得ません。
とは言え、ヘンデルのオペラは依然としてマイナーな作品であり続けるでしょうから、今後も「オン・ブラ・マイフ」や「忠実な羊飼い」のメヌエット、さらには「リナルド」の中のアリア「私を泣かせてください」あたりでオペラ作曲家としてのヘンデルが認知されるという現状に大きな変わりはないでしょう。

そして、いつも思うことですが、バッハにしてもヘンデルにしても、そしてヴィヴァルディあたりもそうなのですが、バロック時代の音楽は本当にメロディラインがきれいです。もしかしたら、人間が考え出せる美しいメロディというのは、その大部分がこの時代までに出尽くしているのかもしれません。
ショパンの詩的閃きは別格としても、ロマン派のメロディーメーカーと言われたドヴォルザークにしてもチャイコフスキーにしても、そのメロディラインにはどこか「重さ」みたいなものを感じてしまいます。それと比べれば、バロックの時代のメロディはどれもこれも自然で軽やかです。
そして、そう言う素敵なメロディラインを聞くたびに、ロマン派という時代は作曲家にとってはしんどい時代だったんだなと思いますし、それ以後の時代がある意味で「メロディ」と決別していった理由も何となく分かるような気がします。


チェロを歌わせることに関しては特別な才能を持っていたようです。

SP盤の時代を振り返ってみれば、巨匠と呼ばれたような演奏家も「小品」と呼ばれる作品を一生懸命演奏して録音をしていたものです。
なんといっても収録時間が5分程度のSP盤にとっては、その様な小品は一番相性がよかったからです。

しかしながら、録音媒体がLPレコードからCDへと移り変わっていく中でその様な小品は次第に埋め草のような扱いを受けるようになっていきました。
そうなると、名の通った演奏家ともなるとそう言う「小品」には目もくれなくなり、たまにレーベルからの要望で録音をすることがあっても、それは「埋め草」的な扱いをでるものではありませんでした。

色々な意見はあるかと思うのですが、交響曲やソナタのような規模の大きな作品を仕上げるノウハウと、5分程度の小品を面白く聞かせるノウハウは異なるように思われるのです。
意外かもしれませんが、「笑わん殿下」の典型みたいなジョージ・セルもまた、その様な「小品」の扱いは実に巧みでした。おそらく、そのあたりノウハウが身に染み込んでいたのはカラヤンあたりの世代が最後だったのかもしれません。

そして、現在の演奏家の多くは演奏技術という点では昔と較べると格段に上手くなっているのですが、そう言う「小品」を楽しく聞かせるノウハウに関してはかなり劣っていると言わざるを得ないのです。

とは言いながらも、あまり偉そうなことは言えないのであって、私もまたそのような「小品」に関しては「小品集」という形でアップすることが多かったのです。
考えてみれば、そういう扱いというのは「小品」を埋め草のように扱うスタンスと共通するのです。

と言うことで、たまには「小品」を単独で取り上げる事も大切かなと思う次第です。
さらに言えば、クラシック音楽に馴染みがうすい人にとっては演奏時間が30分とか1時間というような作品は、それだけで選択肢から外れるようです。明日は東京出張なので新幹線の中でマーラーの交響曲が2曲聴けるなどと思う人はやはりレアなのです。(^^;
そう言う意味でも、5分程度で気楽に聞ける「小品」がもつ意味は大きいのかもしれません。

モーリス・ジャンドロン

「フランス・チェロ界の至宝」などと言われるわりには、そのディスコ・グラフィを眺めてみると録音には恵まれていないことに気づかざるを得ません。それは、彼よりは一世代前になるピエール・フルニエなどと比較してみればその違いは一目瞭然です。
そして、そこには第2次大戦の影が色濃く落ちていることに気づかされます。

1920年生まれのジャンドロンにしてみれば、まさに演奏家としてデビューしようかという時期にヨーロッパは戦雲に包まれてしまったのです。そして、ドイツ占領下のフランスでレジスタンス運動に参加しながら20代前半の貴重な時代を過ごしてしまい、チェリストとしてのデビューを果たしたのは戦後のことでした。
戦前においてすでにチェリストとしての地位を確立していて、戦争下においてもパリを中心に演奏活動を続けることが出来たフルニエと較べればその違いは大きかったと言わざるを得ないのです。

さらに言えば、同じフランス人チェリストとして二人の芸風にはかぶるところが大きかったこともジャンドロンにとっては不幸だったのかもしれません。
何しろ、フルニエはその優雅で洗練された演奏によって「チェロの貴公子」と呼ばれていたのです。
そして、ジャンドロンもまた明るく豊かな音色としなやかなフレージングによって「チェロの貴公子」と呼ばれるのですが、やはり分が悪いことは否めませんでした。

しかし、チェロを歌わせることに関しては特別な才能を持っていたようで、それがこういう小品になるとフルニエにはない強みとなっているように思われるのです。
音を途切れさせることなく、美しい旋律を何処までも流麗に歌い上げていくスタイルはジャンドロンならではの音楽だと言えます。

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