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ジュリーニ(Carlo Maria Giulini)|ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団1966年5月17日-18日録音
Ravel:Pavane pour une infante defunte
悲しいかな!私にはこの曲の持つ至らなさが手に取るように見えてしまう。
![](../Jacket_record/Carlo_Maria_Giulini/Giulini_Falla_Ravel_66.jpg)
ラヴェルは後にこの作品について次のように述べています。
「悲しいかな!私にはこの曲の持つ至らなさが手に取るように見えてしまう。
シャブリエの顕著な影響と,貧弱な曲形式。
思うに,この不完全かつ冒険心のない曲が成功を収めたのは,演奏家の卓越した曲解釈が大きく寄与していたからではないか。」
ただし、いわゆる人格破綻者の群れとしか思えないような大作曲家の中では、珍しくも「いい人」だったラベルと言う人の特質は割り引いて考える必要があります。しかし、そう言う自己批判力の強さを割り引いたとしても、後のラヴェルのピアノ作品と比べればあまりにもサロン的な作品だとは言えます。
しかし、その「サロン的」な雰囲気と、思わせぶりなタイトルの効用もあって、発表当時も、そして今もなおボレロなどと並んでなかなかの人気を博しているという現実はなかなかに皮肉です。
ラヴェルは単なる語呂合わせで「亡き王女のためのパヴァーヌ」・・・「infante défunte」と付けたらしいのですが、この作品を発表してからは会う人ごとに「この王女とは誰なのか」と言う質問を挨拶代わりのようにぶつけられてすっかり閉口してしまったようです。確かに、この作品の甘く夢見るような雰囲気とこのタイトルは実にピッタリで、誰しもが作曲家はどの様な王女をイメージして今作品を書いたのだろうと思わせずにはおれない魅力を持っています。
ジュリーニはラヴェルの指示に従って精緻な織物を織り上げて見せた
フィルハーモニア管の時代のジュリーニは一筋縄ではいかないところがあります。
概ねはがっしりとした造形で見通しの良い音楽を形づくっているのですが、驚くほど遅いテンポでネッチリと歌い上げる(ブラームスの1番)ときもあります。
かと思えば、それとは真逆の、デモーニッシュ的なものの欠片もないほどにひたすら気持ちよく横へと流れていく(チャイコフスキーの6番)時もあります。
万華鏡というものは見るたびにその姿を変えているようでも、その底には変わらない何かが張り付いている、と書いていた人がいました。
確か、何かのミステリー小説だったと記憶しているのですが、「人もまた同じであり、彼の場合のそれは『卑屈』さだった」みたいに続くのではないかと記憶しています。
ところが、このジュリーニという万華鏡について言えば、どうにもその底にあるはずの「変わらない」ものが見えてこないのです。そして、それが見えてこないがゆえにそこに分裂症的なものを感じとってしまうのですが、かといってそこにドイツ語圏のイタリア人という出自を持ってきてもなかなか自分を納得させるのは難しいのです。
しかしながら、それがラヴェルのような音楽になるとそう言う分裂症的なところは影をひそめます。
「スイスの時計職人」と呼ばれることもあるラヴェルの精緻な音楽を、その名にふさわしいように精緻に織り上げていくことい全ての力が傾注されています。そこにあるのは、ラヴェルが目指したものをひたすら現実の音として織りあげようとする献身です。
ラヴェルの音楽は19世紀的なロマン主義的な音楽とは一線を画しています。
そこにあるのは、音符という糸を使って、どれほど精緻な織物を織り上げることが出来るのかということへの挑戦です。そして、ジュリーニはラヴェルの指示に従って精緻な織物を織り上げて見せたのでした。
言うまでもないことですが、そこに「精神性」などと言うものを感じとろうとするのは全くの間違いであって、見るべきはそこで織り上げられた織物の色合いであり、絵柄であり、そしてその手触りであったりするのです。
ですから、その見事なまでの手仕事に大きな功績を果たしているのがフィルハーモニア管であることは言うまでもありませんし、その録音会場で鳴り響いていたであろう音を録音という形で刻み込んだEMIの録音スタッフもいい仕事をしています。
ただし、いささか残念なのは56年、62年、66年と録音年代が下っていくにつれて、せっかくの精緻な織り目が録音によって滲み始めることです。
56年録音の「マ・メール・ロワ」は、EMIにしてみればステレオ録音の最初期のものなのですが、鮮やか織り目を見事に刻み込んでいます。
それと比べれば、66年の録音は良く言えばふっくらとした響きという褒め言葉を呈することも可能かも知れないのですが、それはジュリーニが求めるものではなかったでしょう。
ステレオ録音の波に乗り遅れたEMIが、その遅れを取り返そうと必死で頑張っていた50年代の後半から60年代の初頭まではいい仕事をしていたのですが、それ以後は世間でよく言われるEMIのクオリティになってしまったことが、この一連のラヴェル録音からも感じとることが出来ます。
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