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R.コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」 作品35

フェレンツ・フリッチャイ指揮 (Vn)Rudolf Schultz ベルリン放送交響楽団 1956年9月13日~17日録音

Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [1.The Sea and Sinbad's Ship]

Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [2.The Legend of the Kalendar Prince]

Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [3.The Young Prince and The Young Princess ]

Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [4.Festival at Baghdad. The Sea. Ship Breaks against a Cliff Surmounted by a Bronze Horseman]




管弦楽法の一つの頂点を示す作品です。

1887年からその翌年にかけて、R.コルサコフは幾つかの優れた管弦楽曲を生み出していますが、その中でももっとも有名なのがこの「シェエラザード」です。彼はこの後、ワーグナーの強い影響を受けて基本的にはオペラ作曲家として生涯を終えますから、ワーグナーの影響を受ける前の頂点を示すこれらの作品はある意味ではとても貴重です。

実際、作曲者自身も「ワーグナーの影響を受けることなく、通常のオーケストラ編成で輝かしい響きを獲得した」作品だと自賛しています。
実際、打楽器に関しては大太鼓、小太鼓、シンバル、タンバリン、タムタム等とたくさんでてきますが、ワーグナーの影響を受けて彼が用いはじめる強大な編成とは一線を画するものとなっています。

また、楽曲構成についても当初は
「サルタンは女性はすべて不誠実で不貞であると信じ、結婚した王妃 を初夜のあとで殺すことを誓っていた。しかし、シェエラザードは夜毎興味深い話をサルタンに聞かせ、そのた めサルタンは彼女の首をはねることを一夜また一夜とのばした。 彼女は千一夜にわたって生き長らえついにサルタンにその残酷な誓いをすてさせたの である。」
との解説をスコアに付けて、それぞれの楽章にも分かりやすい標題をつけていました。

しかし、後にはこの作品を交響的作品として聞いてもらうことを望むようになり、当初つけられていた標題も破棄されました。
今も各楽章には標題がつけられていることが一般的ですが、そう言う経過からも分かるように、それらの標題やそれに付属する解説は作曲者自身が付けたものではありません。

そんなわけで、とにかく原典尊重の時代ですから、こういうあやしげな(?)標題も原作者の意志にそって破棄されるのかと思いきや、私が知る限りでは全てのCDにこの標題がつけられています。それはポリシーの不徹底と言うよりは、やはり標題音楽の分かりやすさが優先されると言うことなのでしょう。
抽象的な絶対音楽として聞いても十分に面白い作品だと思いますが、アラビアン・ナイトの物語として聞けばさらに面白さ倍増です。

まあその辺は聞き手の自由で、あまりうるさいことは言わずに聞きたいように聞けばよい、と言うことなのでしょう。そんなわけで、参考のためにあやしげな標題(?)も付けておきました。参考にしたい方は参考にして下さい。


  1. 第1楽章 「海とシンドバットの冒険」

  2. 第2楽章 「カランダール王子の物語」

  3. 第3楽章 「若き王子と王女」

  4. 第4楽章 「バグダッドの祭り、海、船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」



オリエンタル情緒に溢れたこの作品をより濃厚な色合いで染め上げようとしている


この録音に関しては2つのことに驚かされます。
一つは、驚くほど録音のクオリティが高いことです。ただし、これには但し書きが幾つか尽きます。何しろ、1956年の録音であるにもかかわらずモノラル録音だからです。

ただし、これがモノラル録音であることにすぐに気がつく人はそれほど多くはないでしょう。ヴァイオリン独奏の艶やかな響き、管楽器のふくよかな響き、そしてそれらの楽器が見事に分離をしてサウンドステージを形成しているように聞こえるからです。
しかし、しばらく聞いていくうちにそれらの楽器が拗ねて中央付近に定位していることに気づいてきて、「これってもしかしたらモノラル録音?」って気がつくという次第です。

つまりは、録音のクオリティが高いというのは、モノラル録音としての完成形を示している事への評価なのです。
そして、さらに付け加えれば、オーディオ的にはあまり評価をされることのないドイツ・グラモフォンがこのレベルを実現していた事への驚きを込めた評価でもあります。

一般的に優秀録音と言えば「Decca」「RCA」「Mercury」が御三家で、これに「Columbia」や「EMI」の限られた時期の仕事が評価されてきました。それに対して、大陸のレーベルはどれも冴えないというのが通り相場だったからです。
しかしながら、モノラル録音の完成期に「ドイツ・グラモフォン」がこれだけの仕事をしていたとなれば、そう言う通り相場は一度は忘れて、もう少し視野を広くとった方がいいようです。

二つめの驚きは、病に倒れる前のフリッチャイが、既にその演奏スタイルを変え始めていたことがこの録音からははっきりとうかがい知ることが出来たことでした。

フリッチャイの若い頃と言えば弾むようなリズム感に裏打ちされた、精緻でありながらも強い推進力に満ちた音楽が持ち味でした。それを「即物主義」という言葉でまとめてしまうには躊躇いを感じるのですが、それでもトスカニーニ以降の大きな流れの中にあるスタイルであったことは間違いありません。
そして、白血病によって死線をさまようことで、音楽を精緻に構築することには変わりはないものの、エモーショナルなものを迸らせることに躊躇いがなくなっていきました。

しかし、そう言うスタイルの変化は病に倒れる前に録音されたこの「シェエラザード」からははっきりと感じ取れるのです。
確かに、独奏ヴァイオリンのこの上もなく艶やかで魅力的な響きはフリッチャイと言うよりは、ルドルフ・シュルツ(Rudolf Schultz)の手柄であることは事実です。しかしながら、シュルツはソリストではなくてオケのコンサート・マスターですから、そこには指揮者であるフリッチャイの意向が反映していることは疑いようがありません。

その事は、フリッチャイが音楽全体にわたって意外なほどに細かい表情付けを行っていることからも明らかです。彼は、オリエンタル情緒に溢れたこの作品をより濃厚な色合いで染め上げようとしているのです。
それは、彼の持ち味である強い推進力を殺ぐことにつながるのですが、それを犠牲にしてでもよりエモーショナルなものを前面に押し出しているのです。

そう言う意味では、晩年における演奏スタイルの変化を病にのみ帰するのは一面的にすぎることをこの録音は示しています。

ドイツのミニ・トスカニーニと言われたカラヤンもまたそこから脱却するために模索を続けていましたが、事情はフリッチャイも同じだったのかも知れません。
逆から見れば、それだけアメリカ発のトスカニーニ一派の影響力は絶大だったと言うことです。
そして、戦争の混乱から立ち直ってある程度の余裕が出来てくる中で、もう一度ヨーロッパでの伝統というものを考え始めた時期だったといえるのかもしれません。

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