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チャイコフスキー:白鳥の湖, Op.20

アナトゥール・フィストラーリ指揮 ロンドン交響楽団 (Violin Solo)アルフレード・カンポーリ 1952年録音



Tchaikovsky:The Swan Lake, Op.20 Act1

Tchaikovsky:The Swan Lake, Op.20 Act2

Tchaikovsky:The Swan Lake, Op.20 Act3

Tchaikovsky:The Swan Lake, Op.20 Act4


初演の大失敗から復活した作品

現在ではバレエの代名詞のようになっているこの作品は、初演の時にはとんでもない大失敗で、その後チャイコフスキーがこのジャンルの作品に取りかかるのに大きな躊躇いを感じさせるほどのトラウマを与えました。
今となっては、その原因に凡庸な指揮者と振り付け師、さらには全盛期を過ぎたプリマ、貧弱きわまる舞台装置などにその原因が求められていますが、作曲者は自らの才能の無さに原因を帰して完全に落ち込んでしまったのです。

今から見れば「なぜに?」と思うのですが、当時のバレエというものはそういうものだったらしいのです。
とにかく大切なのはプリマであり、そのプリマに振り付ける振り付け師が一番偉くて、音楽は「伴奏」の域を出るものではなかったのです。ですから、伴奏音楽の作曲家風情が失敗の原因を踊り手や振り付け師に押しつけるなどと言うことは想像もできなかったのでしょう。

初演の大失敗の後にも、プリマや振り付け師を変更して何度か公演されたようなのですが、結果は芳しくなくて、さらには舞台装置も破損したことがきっかけになって完全にお蔵入りとなってしまいました。

ところが、作曲者の死によって作品の封印が解かれた事によってそんな状況が一変したのは皮肉としかいいようがありません。
「白鳥の湖」を再発見したのは、「眠れる森の美女」や「くるみ割り人形」の振り付けを行ったプティパでした。(くるみ割り人形では稽古に入る直前に倒れてしまいましたが)

おそらく彼は、「眠れる森の美女」や「くるみ割り人形」ですばらしい音楽を書いたチャイコフスキーなのだから、その第1作とも言うべき「白鳥の湖」も悪かろうはずがないと確信していたのでしょう。しかし、作曲自身が思い出したくもない作品だっただけに生前は話題にすることも憚られたのではないでしょうか。
ですから、プティパはチャイコフスキーが亡くなると、すぐにモスクワからほこりにまみれた総譜を取り寄せて子細に検討を始めます。そして、当然のことながら、その素晴らしさを確信したプティパはチャイコフスキーの追悼公演でこの作品を取り上げることを決心します。
追悼公演では台本を一部変更したり、曲順の変更や一部削除も行った上で第2幕のみが上演されました。結果は大好評で、さらに全幕をとおしての公演も熱狂的な喝采でむかえられて、ついに20年近い年月を経て「白鳥の湖」が復活することとなりました。

この後のことは言うまでもありません。
この作品は19世紀のロシア・バレエを代表する大傑作と言うにとどまらず、バレエ芸術というもののあり方根底から覆すような作品になった・・・らしいのです。(バレエにはクライのであまり知ったかぶりはやめておきます。)
ただ、踊りのみが主役で、音楽はその踊りに対する伴奏にしかすぎなかった従来のバレエのあり方を変えたことだけは間違いありません。

<お話のあらすじ>
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

序奏
オデットが花畑で花を摘んでいると悪魔ロッドバルトが現れ白鳥に変えてしまう。

第1幕 :王宮の前庭
今日はジークフリート王子の21歳の誕生日。お城の前庭には王子の友人が集まり祝福の踊りを踊っている。そこへ王子の母が現われ、明日の王宮の舞踏会で花嫁を選ぶように言われる。まだ結婚したくない王子は物思いにふけり友人達と共に白鳥が住む湖へ狩りに向かう。

第2幕 :静かな湖のほとり
白鳥たちが泳いでいるところへ月の光が出ると、たちまち娘たちの姿に変わっていった。その中でひときわ美しいオデット姫に王子は惹きつけられる。彼女は夜だけ人間の姿に戻ることができ、この呪いを解くただ一つの方法は、まだ誰も愛したことのない男性に愛を誓ってもらうこと。それを知った王子は明日の舞踏会に来るようオデットに言う。

第3幕 :王宮の舞踏会
世界各国の踊りが繰り広げられているところへ、悪魔の娘オディールが現われる。王子は彼女を花嫁として選ぶが、それは悪魔が魔法を使ってオデットのように似せていた者であり、その様子を見ていたオデットの仲間の白鳥は、王子の偽りをオデットに伝えるため湖へ走り去る。悪魔に騙されたことに気づいた王子は嘆き、急いでオデットのもとへ向かう。

第4幕 :もとの湖のほとり
破られた愛の誓いを嘆くオデットに王子は許しを請う。そこへ現われた悪魔に王子はかなわぬまでもと跳びかかった。激しい戦いの末、王子は悪魔を討ち破るが、白鳥たちの呪いは解けない。絶望した王子とオデットは湖に身を投げて来世で結ばれる。

『ウィキペディア(Wikipedia)』よりの引用終わり

私などは問題を感じないのですが、どうも世の女性達にはこの「エンディング」がいたって評判が悪いようです。
実は、妻と「白鳥の湖」を見に行ったときに、彼女はこのエンディングをはじめて知って「激怒」されました。「男というのはいつもこんな身勝手な奴ばかりだ!」とその怒りはなかなか静まりませんでした。
私などはこれで身勝手だと言われれば、ワーグナーの楽劇などを見た日にはライフルでも撃ち込みたくなるのではないかと懸念してしまいます。
ただし、ポピュラリティが全く違いますし、「白鳥の湖」の公演ともなれば女性が圧倒的に多いのです。

と言うことで、劇場側もこのストーリーは営業上まずいと思ったのでしょう。エンディングで悪魔の呪いがとけて二人は結ばれて永遠の愛を誓ってハッピーエンドで終わる演出もメッセレル版(1937年)以降よく用いられるようになっているそうです。

この変更は物語の基本構造に関わることなので、そんなに安易に変更していいものかと思うのですが、女性達の怒りにはさからえないと言うことなのでしょう。(当然のことながら、原典版のエンディングが許せないと怒っている男性には未だ私は出会ったことがありません。)


ロシア国民楽派の血を色濃く受け継いだ音楽

フィストラーリという指揮者は十分な才能を持ちながら、キャリアとしてはバレエ音楽や伴奏指揮者という位置づけに甘んじた人でした。
不思議と言えば不思議な人でした。

しかし、彼の音楽家としての育ち方を振り返ってみると、なるほどと思わされるものがあります。

フィストラーリの父親は作曲家でもあり、指揮者としても活躍した人だったようです。
驚かされるのは、フィストラーリが音楽を学んだのはその父親からだけだったと言うことです。

フィストラーリは音楽学校で学んだり、高名な音楽家の弟子入りをするようなことは一切行わず、音楽家として必要なことは全て父親から学んだのです。
そして、その父親はリムスキー=コルサコフやアントン・ルービンシュテインの弟子だったのです。

音楽家というのは好むと好まざるとに関わらず「競争」の世界です。そして、その「競争」は「教育」という営みの中からスタートするものです。
ところが、フィストラーリという人は、スタートの地点から、その手の「競争」とは無縁なところで育ったのです。

その様な彼の音楽家としての「特異な育ち方」がその後の「特異な立ち位置」を何の疑問もなく受け容れる資質を育てのかもしれません。

彼は7歳にして、暗譜でチャイコフスキーの「悲愴」を指揮した神童でした。
そして、そう言う無垢な「神童」であったところから本質的な部分は殆ど変わることなく、いわゆる「俗」な争いからは一歩も二歩も身を引いた地点で音楽をやり続けたように思えるのです。

そして、その音楽とは疑いもなくロシア国民楽派の血を色濃く受け継いだ音楽だったことは間違いありません。
フィストラーリと言えばそのリズム感の良さと気品あふれるほのかなロマン性が讃えられるのですが、それを辿っていけばきっとリムスキー=コルサコフあたりにたどり着くのかも知れません。

なお、このロンドン交響楽団との録音も、コンセルトヘボウとの録音もともに「抜粋盤」です。
ただし、コンセルトヘボウ盤の方から全曲版から何曲かを抜粋した「抜粋盤」なのですが、ロンドン響盤の方は全曲版から何曲かだけをカットした「抜粋盤」です。ですから、同じ「抜粋盤」といっても、このロンドン響盤の方はほぼ「全曲版」と言っていい内容になっています。

音楽だけでバレエ音楽を聞くと冗長に感じる部分があるので、幾つか配列を変更したり一部をカットすることでそれを防いだという側面もあるようです。
もっとも、原典尊重が錦の御旗となっている今では考えられない仕儀ではあるのですが、50年代の初め頃だと、それも言うほどには怪しまれなかったと言うことなのでしょう。

この演奏を評価してください。

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