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ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1番


P:ラフマニノフ オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1939年録音


忘れてしまいたかった作品

この作品はラフマニノフにとっては作品番号1番です。彼にとっては規模の大きな作品としてはこれが一番最初のに完成させたものであり、初演においてもそれなりの評価がなされて作曲家としての順調な船出を飾った作品でもあります。
通常このような作品は作曲家にとっては感慨深いものでありそれなりに大切にしたい作品だと思うのですが、なぜかラフマニノフは「できることなら忘れてしまいたい3つの作品」の中の一つにあげています。残る二つは交響曲第1番とジプシーの主題による奇想曲なのですが、「それらの作品を全て書き直したいと思っています。」と友人宛の手紙の中で述べています。
ただし、実際にラフマニノフが書き直したのはこの第1協奏曲だけで、ロシア革命の混乱を避けて亡命する直前の1917年のことです。とりわけ第1交響曲に関してはかなりつい意欲を持っていたようなのですが、革命の混乱の中で自筆スコアを失ってしまいその思いは果たすことができませんでした。

さてその改訂作業なのですが、部分的な手直しと言うよりは「改作」と言った方がいいようなものだったそうです。この辺はあまり詳しくもないし興味もないので他のウェブサイトからの受け売りなのですが、第3楽章などは全くの別物になってしまっているそうです。
こういうことを書くとラフマニノフファンには怒られそうなのですが、どうも彼の音楽はとりとめもなく茫漠とした雰囲気を持っています。その事は彼自身も気にしていたようで、例えば自作の第4協奏曲を評して「この作品は恐らく『指環』のように何晩かに分けて演奏しなければならないでしょう」などとぼやいているほどです。
ですから、改訂作業というのは基本的に整理とカットです。
その結果、改訂をすればするほどコンパクトで引き締まってくるのですが、そのダイエット作業の中で何か大切なものもそぎ落としているような気がしてなりません。これは、手つかずで発見された第1交響曲の何とも言えない異形のたたずまいと比べてみればその辺のニュアンスは了解していただけるのではないでしょうか?

結局はこの忘れてしまいたかった作品は、ラフマニノフ自身の手によって入念なダイエットと美容整形で美しくよみがえり、現在ではほとんどその形で演奏されるようになりました。
私としては原典版による演奏は私自身も聞いたことがないので、一度は整形前の姿も拝見したいものだと思います。
(追記:第1・4協奏曲の原典版の録音としては以下のものがあるようです。私は残念ながら未聴です。
Alexander Ghindin(Pf)
Vladimir Ashkenazy(Cond)
Helsinki Philharmonic Orchestra
録音:2001年3月、ヘルシンキ、フィンランディア・ホール)

自作自演


作曲家自身による演奏といえば、それだけで何か権威がありそうなのですが、ほとんどはあまり上手くいっていないことが多いようです。例えば指揮者としても活躍したR.シュトラウスでさえもあまり面白い演奏にはなっていません。もしも、マーラーがもう少し長生きしてくれて録音を残してくれていれば面白かったかもしれませんが、それは「無い物ねだり」というものです。

創作物というものは、創作者の手を放れた瞬間に一人歩きするものなのでしょう。また、一人歩きするからこそ「演奏」という行為に意味が生ずるのだとも言えます。
しかし、ラフマニノフだけは少し雰囲気が違います。
作曲家による自作自演の録音というのは資料的な面白さでカタログに残っている事が多いのですが、ラフマニノフに限って言えば、それは数ある同曲異演をおしのけて、21世紀の今日に至るまでその作品を代表する録音の一つであり続けてきました。
これは考えてみれば大変なことです。
某大手音楽雑誌が名曲名盤選びをすれば、その貧しい音質にも関わらずラフマニノフの録音は常に上位に位置するのです。
理由はピアニストとしての技量の高さにあることは言うまでもありません。彼は偉大な作曲家でありましたが、もしかしたらそれ以上に偉大なピアニストだったかもしれないのです。

音符を音にすることすらかなりの困難をともなう作品を、ラフマニノフは余裕を持って弾きこなして、そして作品の中にこめられたロシア的な郷愁を歌い上げていきます。
凡百のピアニストには真似のできるものではないのです。
さらに、第1や第4の協奏曲はそれほど演奏もされないし録音も少ないだけに、その価値は大きいと言えます。

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