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モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K364

ルドルフ・バルシャイ指揮&Viola (Vn)ダヴィッド・オイストラフ モスクワ室内管弦楽団 1959年3月22日録音



Mozart:Sinfonia concertante in E-flat major, K.364/320d [1.Allegro maestoso]

Mozart:Sinfonia concertante in E-flat major, K.364/320d [2.Andante]

Mozart:Sinfonia concertante in E-flat major, K.364/320d [3.Presto]


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痛切なる青春の音楽

私が初めてウィーンとザルツブルグを訪れたのは1992年のことで、ちょうどその前の年はモーツァルトの没後200年という事で大変な盛り上がりをみせた後でした。とはいっても、未だに町のあちこちにその「余熱」のようなものがくすぶっているようで、いまさらながらモーツァルトいう存在の大きさを実感させられました。

さて、その没後200年の行事の中で、非常に印象に残っているシーンがあります。
それは、ヨーロッパで制作されたモーツァルトの伝記ドラマだったと思うのですが、若きモーツァルトが失意の底で野良犬のように夜のウィーンをさまよい歩くシーンです。
そこにかぶさるように流れてきた協奏交響曲の第2楽章の冒頭のメロディがこのシーンに見事なまでにマッチングしていました。

ドラマのBGMというのは安直に選択されることが多くて邪魔にしかならないことの方が多いのですが、その時ばかりは若きモーツァルトの痛切なまでの悲しみを見事に表現していて深く心に刻み込まれるシーンでした。

ところが、一度聞けば絶対に忘れられないほどに魅力的なメロディなのに、そのメロディは楽章の冒頭に姿を現すだけで、その後は二度と姿を見せないことに恥ずかしながら最近になって気がつきました。
似たような形に変形されては何度も姿を現すのですが、あのメロディは完全な形では二度と姿を現さないのです。
もったいない話はありませんか!!

しかし、その「奥ゆかしさ」というか「もどかしさ」がこの作品にいいようのない陰影をあたえているようです。

冒頭の部分で愛しき人の面影をしっかりと刻み込んでおいて、あとはその面影を求めて聞き手をさまよい歩かせるような風情です。
そして、時々その面影に似た人を見かけるのですが、それは似てはいてもいつも別人なのです。そして、音楽はその面影に二度と巡り会えないままに終わりを迎えます。

いかにモーツァルトといえども、青春というものがもつ悲しみをこれほどまでに甘く、そして痛切にえがききった作品はそうあるものではありません。


オイストラフの美音が丁度いい中和剤になっています

「ルドルフ・バルシャイ」と言う名前は、私にとってはケルン放送交響楽団と録音したショスタコーヴィッチの交響曲全集と結びついて記憶されています。
サラッと一通り聞いたような記憶はあるのですが、どう考えてもショスタコーヴィッチの良い聞き手とは言えない私にとっては「そんなものか」程度にしか感じなかったようです。

どうも、こういうサイトをやっていると、著作権が未だ消失していない音楽にはどうしても関心が薄れる傾向があります。

バルシャイの経歴をざっと眺めてみると、それは大きく3つの時期に分かれることが分かります。
まず最初はソリスト、もしくは室内管弦楽団のヴィオラ奏者として活動した時期です。
ボロディン弦楽四重奏団のヴィオラ奏者として活動を開始し、その後は1956年までチャイコフスキー弦楽四重奏団のメンバーとして活動を行っています。

バルシャイは1924年生まれですから、概ね20代はその様な室内楽奏者としての活動していたようです。

これに続くのが、1955年にモスクワ室内管弦楽団を創設して指揮者としての活動をはじめた時期です。
この室内管弦楽団の指揮者としての活動は彼が1976年にイスラエルに亡命するまで続きます。

そして、最後となるのがその亡命後、世界各地のオーケストラへの客演活動を続けた時期です。
振り返ってみれば、この亡命後の時期はキャリア的にはそれほど恵まれたものではなかったようです。

ボーンマス交響楽団やフランス国立管弦楽団、ヴァンクーヴァー交響楽団などの音楽監督や常任指揮者にも就任しているのですが、いずこのオーケストラでも長く続きませんでした。
そして、その理由は彼がソ連時代に20年以上にわたってともに活動したモスクワ室内管弦楽団との録音を聞けばすぐに了解できます。

ある方が、バルシャイの録音とセルの録音を比較して、実に上手いこといっていました。
セルは管弦楽団を限りなく室内楽的に響かせたとするならば、バルシャイは室内管弦楽団を限りなく管弦楽的に響かせようとした、そしてその結果として両者はとても似通った音楽になっているというのです。

この数日、バルシャイとモスクワ室内管弦楽団との録音を聞いているのですが、編成の小さな室内管弦楽団ですから、その精緻にして鋭利なことはセル&クリーブランド管を凌ぎます。

そんなバルシャイが亡命して通常編成のオーケストラの指揮者を任されればどんな仕儀になるのかは容易に想像がつきます。
招いた側のオーケストラも覚悟はしていたのでしょうが、その厳しさはそのような想像をはるかに超えるものだったようです。結局はいずこのオケでも長く続くことはなく、1989年にヴァンクーヴァー交響楽団の音楽監督を退いてからは客演活動がメインとなってしまいました。

ところが、そう言うスタンスが客演だからといって変わるはずもないので、相手がいわゆる「名門オケ」だったりするとお互いのプライドがぶつかり合って、これまた諍いは絶えることはなかったようです。
そんなこんなで、結局最後は日本での客演活動が中心となっていきました。

N響をはじめ、東京都響や名古屋フィル、東京フィル、読売日響、水戸室内管弦楽団など実に数多くのオケの指揮台に立っています。なんと言っても日本のオケは行儀がいいですし、我慢強いですし、教えてもらうというスタンスも持っていますからね。
名古屋フィルの客演に来ていたバルシャイが、急病のデュトワに変わって急遽N響の定期演奏会を指揮したというのは有名な話です。

以上、きわめて雑駁ではあるのですが、バルシャイという人はその様な音楽家人生を送った人だったわけです。

ですから、そんなバルシャイを知ろうと思えば、まずはモスクワ室内管弦楽団との録音を聞き直す必要があるでしょう。
さらに、その前のヴィオラ奏者としての録音にも手を伸ばすことも重要かも知れません。

そして、残念なことに、亡命後の活動に関してはめぼしい録音はほとんど残っていません。30年以上もあった亡命後の時期に残しためぼしい録音はケルン放送交響楽団とのショスタコーヴィッチの交響曲全集だけと言うことになってしまっています。
話が脇にそれますが、ケルンのオケはほぼ同じ時期にヴァントと組んでブルックナーの交響曲全集も録音をしています。
この二人は、当時の指揮者の世界ではもしかしたら強面のツートップだったかも知れないのですから、ケルンのオケというのはよほど打たれ強かったのか我慢強かったのかと感心してしまいます。

と言うことで、まず最初に、室内管弦楽団を徹底的に鍛え上げた鬼のトレーナーとしての側面と、腕利きのヴィオラ奏者としての側面が一つの録音で確認できるモーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364」を選んでみました。
バルシャイはヴィオラを演奏しながら指揮をしていますし、ヴァイオリン独奏はオイストラフという豪華版です。

モーツァルトの音楽をそこまで厳しく描き出し必要があるのかと言われることも多いバルシャイ&モスクワ室内管弦楽団なのですが、ここではオイストラフの美音が丁度いい中和剤になっています。
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