クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~



AmazonでCDをさがすAmazonでバーンスタイン(Leonard Bernstein)のCDをさがす
Home|バーンスタイン(Leonard Bernstein)|ハイドン:交響曲第84番 変ホ長調, Hob.I:84

ハイドン:交響曲第84番 変ホ長調, Hob.I:84

レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1966年5月20日録音



Haydn:Symphony No.84 in E-flat major, Hob.I:84 [1.Largo - Allegro]

Haydn:Symphony No.84 in E-flat major, Hob.I:84 [2.Andante]

Haydn:Symphony No.84 in E-flat major, Hob.I:84 [3.Minuet - Trio]

Haydn:Symphony No.84 in E-flat major, Hob.I:84 [4.Finale. Vivace]


交響曲第84番 変ホ長調, Hob.I:84

こういう交響曲を聞くと、もう対位法の時代は終わったのだと痛感させられます。
特に、面白いのは第2楽章の「Andante」で、それは主題と4つの変奏から出来ているのですが、その変奏は言ってみればオーケストラの装飾の違いによって実現しています。特に最後の第4変奏は管楽器による合奏という形で提示されます。

こういう変奏曲というのは時代が下がれば下がるほど手が込んできて、よほど注意して聞いていないと元の主題を変奏の中に聞き取ることが困難になるのですが、こういう変奏曲だと誰の耳にも「変奏」という仕掛けの面白さが分かります。そして、そう言う「分かりやすさ」は決してクオリティの低さにはつながっていないのです。

この交響曲で聞くことのできるハイドンのオーケストレーションの巧みさは見事と言うしかありません。
特に、長きにわたって弦楽合奏の添え物にしかすぎなかった管楽器が、ここでは主役級の役割を果たす場面があちこちに存在します。そして、管楽器の活躍によって、ともすればモノトーンだったオーケストラの響きに豊かな色彩が加えられていくようになります。

もちろん、その試みが結実するには、そのバトンを何人もの作曲家が受け継いでいかなければいけなかったのですが、その第一走者がハイドンであったことは明らかです。

さらにもう一つ付け加えれば、「Vivace」と記されたファイナル楽章の疾走感と響きの充実ぶりには驚かされます。

おそらく、交響曲という形式における「終楽章」の重要性に関しては、ハイドンはモーツァルトよりもよく分かっていたはずです。
もちろん、その背景にはハイドンは基本的に管弦楽の人であり、モーツァルトはオペラの人であったという気質の違いがあったことは見ておく必要はあります。
しかし、ハイドンは何から何までモーツァルトに凌駕されて過去の人になったわけではなかったと言うことも見ておく必要があるのです。


  1. 第1楽章:Largo - Allegro

  2. 第2楽章:Andante

  3. 第3楽章:Minuet - Trio

  4. 第4楽章:Finale. Vivace




ニューヨーク時代のバーンスタインにとってはマーラー全集に肩を並べるほどの素晴らしい業績

バーンスタインのハイドン演奏というのは話題になることは少ないのですが、彼の録音のキャリアを振り返ってみれば、それはとても大きな地位を占めていることに気付かされます。
そして、その「大きさ」の背景として、ベートーベンやブラームスにつながっていくドイツ古典派の源流としてハイドンを位置づけ、その上でハイドンの交響曲を通して「ドイツ古典派」の「本質」をつかみ取ろうとする思いがあったのではないかと思われます。

まずは、ニューヨークフィルの音楽監督時代に以下の交響曲を録音しています。
この時期の特徴は、パリ交響曲と呼ばれる作品をメインに取り上げていることです。


  1. Symphony No. 104 in D Major, "London":January 27, 1958

  2. Symphony No. 83 in G Minor, "The Hen":April 09, 1962

  3. Symphony No. 82 in C Major, "The Bear":May 07, 1962

  4. Symphony No. 102 in B-flat Major:October 31, 1962

  5. Symphony No. 88 in G Major:January 07, 1963

  6. Symphony No. 85 in B-flat Major, "La Reine de France":May 20, 1966

  7. Symphony No. 84 in E-flat Major:May 20, 1966

  8. Symphony No. 86 in D Major:March 07, 1967

  9. Symphony No. 87 in A Major:March 21, 1967



しかし、注目すべきなのは、ニューヨークフィルの音楽監督を辞してフリーになった1969年以降も、引き続きニューヨークフィルとハイドンの録音を続けている事です。


  1. Symphony No. 103 in E-flat Major, "Drum Roll":February 10, 1970

  2. Symphony No. 101 in D Major, "Clock":February 12, 1970

  3. Symphony No. 100 in G Major, "Military":October 20, 1970

  4. Symphony No. 99 in E-flat Major:October 20, 1970

  5. Symphony No. 93 in D Major:December 07, 1971

  6. Symphony No. 94 in G Major, "Surprise":December 16, 1971

  7. Symphony No. 95 in C Minor:February 12, 1973

  8. Symphony No. 96 in D Major, "Miracle":March 05, 1973

  9. Symphony No. 97 in C Major:April 10, 1975

  10. Symphony No. 98 in F-flat:Major April 10, 1975



音楽監督の時代に既に録音していた104番と102番を除くザロモンセットの交響曲を全て録音するという意図がはっきり読み取れます。

これはハイドンへの執着としてはかなり際だっています。
ザロモンセットをコンプリートしている指揮者は結構いるのですが、それ以外にパリ交響曲もコンプリートした指揮者となると、ドラティやフィッシャーのように全交響曲を録音した指揮者を除けが殆どいないのではないでしょうか。

さらに、フリーになったバーンスタインが活動の軸足をウィーンに移すようになっても、ウィーンフィルとのコンビで以下の交響曲を録音しているのですから、その執着のほどがうかがえます。


  1. Symphony No. 102 in B-flat Major:February 21, 1971

  2. Symphony No. 88 in G Major:November 27, 1983

  3. Symphony No. 92 in G Major, "Oxford":February 06, 1984

  4. Symphony No. 94 in G Major, "Surprise":October 28, 1985



ハイドンの交響曲というのは指揮者にとっては容易い仕事ではありません。
譜面だけを見れば簡単そうに見えても、そこには職人ハイドンならでは仕掛けがたくさん盛り込まれていますから、それを見過ごしてしまうと「阿保」みたいな演奏になってしまいます。
ですから、ハイドンの交響曲は「指揮者とオーケストラの性能試験」などと言われたりするのです。

バーンスタインという指揮者は指揮台の上で飛び跳ねたりするので「ショーマンシップにあふれた音楽家」と見られることも多い人でした。
しかし、長年にわたってこのような「骨の折れる仕事」に取り組んでいたことは、聞き手としてはしっかりと見ておく必要があります。

ハイドンのシンフォニーというのは小ぶりなものが多いので、ともすればコンサートではメインの前の前菜のような扱いで演奏されることが多いように見受けられます。しかし、そう言う取り上げ方をされたときのハイドンというのは、どれもこれもが実につまらない演奏になってしまっていることが多いのです。
それは録音においても同様で、指揮者がそれなりのポリシーを持ってある程度の覚悟を持って取り上げたときでないと、それもまた往々にしてつまらない演奏になっていることが多いような気がします。

そのポリシーと言えば、いささか雑駁な言い方になるのですが、例えばビーチャムのようにハイドンのユーモアやウィットに焦点をあててみたり、クレンペラーのように堂々たる古典派シンフォニーとして仕立て直してみたりと、色々なやり方があったわけです。
そして、ここでのバーンスタインの行き方というのは、ハイドンが古典派シンフォニーのあるべき姿を模索する中で様々に試してみた仕掛けを明晰に再現してみせることでした。

そう言う意味で言えば、作品の構造を実にバランスよく、そして明晰に表現してみせたセル&クリーブランド管の行き方と似通っているのかも知れません。
ただし、セルの音楽は基本的にスタティックなものでしたが、バーンスタインの音楽は明らかにアクティブです。
しかし、驚くほどの明晰さと切れ味を備えたアクティブなハイドンというのはバーンスタイン以外では聞いたことがないような気がします。

率直に言って、聞き始めるまではバーンスタインのハイドンなんてものにはあまり期待していませんでした。
それは50年代に一つだけポツンと録音されたロンドン交響曲を聞いてみることで補強されてしまう見方でもありました。
しかし、この一連のパリ交響曲に関しては、50年代のロンドン交響曲を指揮した同一人物による録音とは信じがたいほどの変身ぶりです。

思い切った言い方を許してもらえるならば、これはニューヨーク時代のバーンスタインにとってはマーラー全集に肩を並べるほどの素晴らしい業績だったのかもしれません。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



3529 Rating: 4.4/10 (63 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント




【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-04-18]

エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調, Op.85(Elgar:Cello Concerto in E minor, Op.38)
(Cello)アンドレ・ナヴァラ:サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1957年録音(Andre Navarra:(Con)Sir John Barbirolli:Halle Orchestra Recorded on 1957)

[2024-04-16]

フランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッティ 1947年5月7日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Recorded on May 7, 1947)

[2024-04-14]

ベートーヴェン:序曲「コリオラン」, Op.62(Beethoven:Coriolan, Op.62)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1945年6月1日録音(Arturo Toscanini:NBC Symphony Orchestra Recorded on June 1, 1945)

[2024-04-12]

モーツァルト:弦楽四重奏曲 第3番 ト長調 K.156/134b(Mozart:String Quartet No. 3 in G Major, K. 156)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-04-10]

ハイドン:弦楽四重奏曲第1番 変ロ長調「狩」,Op. 1, No. 1, Hob.III:1(Haydn:String Quartet No.1 in B-Flat Major, Op. 1, No.1, Hob.3:1, "La chasse" )
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1938年6月5日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on June 5, 1938)

[2024-04-08]

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18(Rachmaninov:Piano Concerto No.2 in C minor, Op.18)
(P)ジェルジ・シャーンドル:アルトゥール・ロジンスキ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック 1946年1月2日録音(Gyorgy Sandor:(Con)Artur Rodzinski New York Philharmonic Recorded on January 2, 1946)

[2024-04-06]

シベリウス:交響的幻想曲「ポヒョラの娘」(Sibelius:Pohjola's Daughter - Symphonic Fantasy Op.49)
カレル・アンチェル指揮:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1962年6月7日~8日録音(Karel Ancerl:The Czech Philharmonic Orchestra Recorded on June 7-8, 1962)

[2024-04-04]

ベートーヴェン:ロマンス 第2番 ヘ長調, Op.50(Beethoven:Romance for Violin and Orchestra No.2 in F major, Op.50)
(Vn)ジノ・フランチェスカッティ:ジャン・モレル指揮 コロンビア交響楽団 1952年4月23日録音(Zino Francescatti:(Con)Jean Morel Columbia Symphony Orchestra Recorded on April 23, 1952)

[2024-04-02]

バルトーク:弦楽四重奏曲第6番, Sz.114(Bartok:String Quartet No.6, Sz.114)
ヴェーグ弦楽四重奏団:1954年7月録音(Quatuor Vegh:Recorded on July, 1954)

[2024-03-31]

ベートーヴェン:ロマンス 第1番 ト長調, Op.40(Beethoven:Romance for Violin and Orchestra No.1 in G major, Op.40)
(Vn)ジノ・フランチェスカッティ:ジャン・モレル指揮 コロンビア交響楽団 1952年4月23日録音(Zino Francescatti:(Con)Jean Morel Columbia Symphony Orchestra Recorded on April 23, 1952)