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ドビュッシー:3つの交響的スケッチ「海」

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1964年3月9日~10日録音



Debussy:La Mer, trois esquisses symphoniques [1.De l'aube a midi sur la mer]

Debussy:La Mer, trois esquisses symphoniques [2.Jeux de Vagues]

Debussy:La Mer, trois esquisses symphoniques [3.Dialogue du Vent et de la Mer]




ドビュッシーの管弦楽作品を代表する作品

「牧神の午後への前奏曲」と並んで、ドビュッシーの管弦楽作品を代表するものだと言われます。
そう言う世間の評価に異議を唱えるつもりはありませんが、率直な感想としては、この二つの作品はたたずまいがずいぶん違います。

いわゆる「印象派」と呼ばれる作品ですが、この「海」の方は音楽に力があります。
そして曖昧模糊とした響きよりは、随分と輪郭線のくっきりとした作品のように思えます。

正直申し上げて、あのドビュッシー特有の茫漠たる響きが好きではありません。
眠たくなってしまいます。(^^;

そんな中でも聞く機会が多いのががこの「海」です。

作曲は1903年から1905年と言われていますが、完成後も改訂が続けられたために、版の問題がブルックナー以上にややこしくなっているそうです。

一般的には「交響詩」と呼ばれますが、本人は「3つの交響的スケッチ」と呼んでいました。
作品の雰囲気はそちらの方がピッタリかもしれません。

描写音楽ではありませんが、一応以下のような標題がつけられています。


  1. 「海の夜明けから真昼まで」

  2. 「波の戯れ」

  3. 「風と海との対話」




後期ロマン派の音楽であるかのような濃厚さをまとわせている


このあたりからのカラヤンの録音について何かを語ろうとすれば、結局は同じ事を何度も繰り返すことになります。
ベルリンフィルの機能美を最大限に生かして、この上もなく美しい音楽に仕上がっていることは認めざるを得ません。その音楽がベートーベンであれ、ドビュッシーであれ、新しい時代を切り開くために傾注されたであろう「あれこれの蘊蓄」よりも、まずは音楽は美しくなければいけないという美学が見事なまでに貫かれています。

ですから、以下述べることは、そう言う美学に対する批判とはなり得ないものなのですが、「あとは聞いてもらえばいいかと思います」と放り出すわわけにもいかないので(^^;、簡単に触れておきます。

言うまでもないことですが、ドビュッシーの新しさは膨張の果てに行き詰まりをみせた機能和声の限界を打ち破ろうとしたことにあります。
ただし、こういう言い方は何も言っていないのと同じで、おそらくはこの言葉からイメージされる音楽の姿は受け取る人によってかなりの違いがあるはずです。
ですから、蛇足だとは思うのですが、もう少し私なりの言葉で具体的に説明します。

後期ロマン派の行き止まりに位置するのはワーグナーであり、マーラーであり、さらには無調に転ずる前のシェーンベルクでしょう。
彼らの音楽がつくり出す響きの美しさは、疑いもなく形而下的な美しさであり、それはどこまで行っても地上の世界に引き留められています。そして、地上の世界での美とは結局は足し算の論理とならざるを得ず、結果として装飾はより過剰にり、その美はますますグロテスクなものになっていきます。

つまりは「厚化粧」と言うことです。
おそらく、後期ロマン派の行き詰まりというのは、これ以上に塗りたくることが出来ないまでに化粧が厚くなったと言うことです。

ならば、そんな厚化粧をやめればいいと言うことになるのですが、そうやって化粧をはがしてしまうと、そこに出てくる顔はどれもこれも昔に流行った化粧ばかりです。
そして、そんな昔流行った化粧には戻れないとなれば、結局はつなぎ止められた地上との絆を断ち切るしかないなのです。

そして、それを断ちきってみせたのがシェーンベルクであり、ドビュッシーだったわけです。
ただし、その断ちきり方は随分違いました。

シェーンベルクはしがらみを断ちきって、化粧などとは無縁な「無調」という非情の世界の中に音楽の響きを閉じこめました。

それに対して、ドビュッシーは、おそらく形而下的な美しさを断ちきったかわりに、形而上的な美しさで音楽を彩ることも可能なことを示したのです。つまりは、厚化粧ではない別の化粧の仕方があることを示してみせたのです。
それはグロテスクな厚化粧の響きではなくて、今まで誰も耳にしたことがなかったような、ありふれた言い方を許してもらえるならば「天国的な響き」で音楽を彩ってみせたのです。

しかし、その響きを本当に実現できている演奏家は殆どいないのではないかという気がします。

私は長い間ドビュッシーの音楽が苦手でした。
しかし、それは、もしかしたら(^^;、ほんとどの演奏家がドビュッシーの望んだ響きを実現できていなかったためではないかと勘ぐるようになってきました。

結局、彼らの大部分が提供してくれる響きの大部分は、形而上的に見えながら、その実態は地上に引き留められた形而下的な響きに水を混ぜて薄めただけと言うことが多いのです。
さらにもっと恐いことを書けば、ドビュッシーの天国的な美しさは「録音」という媒体を通してではなかなか実現できないのではないかという気もしています。
とある演奏会で、見事な「牧神の午後の前奏曲」を聞かせてもらったときに、ふとそんな考えがよぎったりもしました。

それに対してカラヤンのドビュッシーはそう言う機能和声に関する蘊蓄などと言う些末なことは脇において、後期ロマン派の音楽であるかのような濃厚さをまとわせています。
しかしながら、ドビュッシー風を気取ったまがい物の演奏を聞かされるよりは、このカラヤンのように、たとえドビュッシーであれ、それを形而下的な美しい響きで、つまりはこってりとした厚化粧で「美しく」仕上げて何の不都合があるんだという開き直りの方がかえって気持ちがいいのかもしれません。

ですから、これはドビュッシーの音楽ではないと批判するのはいとも容易いのですが、カラヤンは最初からその様な音楽を提供しようとも考えていないのは明らかですから、最初に述べたようにそれはカラヤン美学への批判にはならないのです。
この「美しい」響きによってドビュッシーの音楽がこの上もなく「美しく」実現している時点で、カラヤンの狙いは十全に実現しているのです。

ですから、聞き手になし得ることは、「これが好きか嫌いか」の二択だけなのです。
そして、いつも言っていることですが、その二択に対して聞き手の大部分が「好きだ」と答えることで、いわゆる専門家筋のその様な批判はただの言いがかりに転じてしまうのです。

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