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Home|ネヴィル・マリナー(Neville Marriner)|ロッシーニ:弦楽のためのソナタ 第1番 ト長調

ロッシーニ:弦楽のためのソナタ 第1番 ト長調

ネヴィル・マリナー指揮 アカデミー室内管弦楽団 1966年9月録音

Rossin:String Sonata No.1 in G major [1.Moderato]

Rossin:String Sonata No.1 in G major [2.Andante]

Rossin:String Sonata No.1 in G major [3.Allegro]


12才ではなくて、16才の時の作品だったようです

この作品は長きにわたってロッシーニの「神童」ぶりをあらわす作品だと考えられていました。
なぜならば、1930年代に発見された筆写譜のタイトルとして「12歳のジョアキーノ・ロッシーニ氏が1804年にラヴェンナで作曲した六つのソナタ作品」と記されていたからです。さらに、そのファースト・ヴァイオリンのパート譜の余白にロッシーニの自筆で次のように記されてもいました。
この六つのひどいソナタは、私がまだ通奏低音のレッスンすら受けていない少年時代に、パトロンでもあった友人アゴスティーノ・トリオッシの別荘で作曲したものである。すべては3日間で作曲・写譜され、コントラバッソのトリオッシ、第一ヴィオリーノのモリーニ、その弟のヴィオロンチェッロ、そして私自身の第二ヴィオリーノによって実にへたくそに演奏されたが、実を言えばその中で私が一番まともであった。G.ロッシーニ


この二つの書き込みによって、この6つのソナタはロッシーニが12才の時に僅か3日間で書いたものだと信じられてきました。
音楽史上、これに匹敵する早熟の天才といえばモーツァルトくらいしか思い浮かばないのですが、その作品の完成度と、その恵まれない生育環境を考えれば、それをも上回る部分もあるのです。

しかし、最近の研究によって、この「12才説」は、ロッシーニ自身が自らの「神童」ぶりを宣伝するための「捏造」であったことが明らかになってきました。
それは、この筆写譜のタイトルにつけられている「1804」という数字は、ロッシーニ自身によって入念に書き換えられていることが分かってきたからです。さらに、このパート譜の用紙の透かしを詳しく調べてみると、彼が1808年から1812年にかけて使っていたものと一致することも明らかになりました。

つまりは、ロッシーニがこのパート譜のタイトルに記されていた「1808」という数字を入念に「1804」に書き換え、さらにはご丁寧に「この六つのひどいソナタは、私がまだ通奏低音のレッスンすら受けていない少年時代に・・・」という書き込みを追加したようなのです。
さらに、この書き換えの時に、筆写譜を作成した人がつけた「Quartetto/i(四重奏曲)」を「Sonata/e(ソナタ)」に書き換えていることも明らかになっています。
おそらく、これも「偽装」をよりばれにくくするためだったと思われますから、実に念の入った話です。

ただし、これが16才の作品になったとしても、さすがにモーツァルトに肩を並べることは出来ませんが、それでも圧倒的に早熟な天才であったことには変わりがありません。
そして、モーツァルトが真に偉大であったのは、早熟の「神童」であったからではなくて、その後の人生において誰もが想像できないほどに遠くへ歩いていったからでした。
ロッシーニもまた、二十歳過ぎれば只の人になることはなく、オペラ・ブッファの世界において、あのベートーベンでさえ羨むほどの大きな成功を収めたのです。

そして、そう言うオペラの世界で成功をおさめる才能はすでにこの6つのソナタの中にあらわれていることは誰の耳にも明らかです。
確かに構成的に薄くなる場面は多々あるのですが、それでもオペラのアリアを思わせるような劇的な展開と美しい旋律にあふれていることは疑いようがありません。

ロッシーニは「四重奏曲」という筆写者のタイトルが気に入らなかったので「ソナタ」と書き換えているのですが、この作品はいわゆるソナタ形式という堅苦しいスタイルではなくて、一つの主題を提示してそれを自由に展開させるというスタイルをとっています。ですから、どちらかといえば気楽なディヴェルティメント的な雰囲気にあふれています。
専門的にみれば、サンマルティーニやボッケリーニなどのイタリア室内楽の系譜に連なる作品なんだそうですが、どちらにしても若きロッシーニの中にあふれていた瑞々しい叙情性が聞くものを引きつけます。

そう言えば、誰かが言っていました。
日曜日の朝に焼きたてのクロワッサンと濃いめの珈琲で朝食をとるとき、そこに流れる音楽としてこれほど相応しいものはありません。

「素敵な音楽ね、なんて言う曲なの?」
「ロッシーニの弦楽のためのソナタ、第5番かな」
「素敵な音楽って、いつもつまらない名前がついているのね」

そう言えば、オペラの世界から引退したロッシーニは、その最晩年に再び器楽の世界に戻ってくるのですが、その最後に書いた作品のタイトルが「老いの過ち」でした。
もしかしたら、その作品を書きながら、若き日の愚かな行いを思い出していたのかもしれません。

ロッシーニ:弦楽のためのソナタ 第1番 ト長調


  1. 第1楽章:Moderato

  2. 第2楽章:Andante

  3. 第3楽章:Allegro




一歩身を引いて客観視することによって、この作品の持っている端正な美しさを明らかにしている

この録音は長きにわたって私のお気に入りの一枚でした。しかし、今となっては「時代遅れ」の演奏と見られているようす。
それでも、私にとってこれは今もなお「大切」な録音であり、その「録音」がパブリック・ドメインとなって広く世に紹介できるというのは嬉しい限りです。

それにしてもマリナーという人は、随分と低く見積もられてきたものです。
それだけに、私にとって、彼の名前が一番最初にインプットされたのはロッシーニの「弦楽のためのソナタ(全6曲)」だったのは幸せでした。

作品そのものがとびきり美しいのですから、下手なことをしなければ間違いの起こるはずのない作品だとは思うのですが、それでも彼らの音楽は飛びきり美しかったので、すっかりお気に入りの一枚になったのです。

確かに、マリナーの演奏というものは、その美しさと凄さによって感動にうちふるえるという類のものではありません。
しかし、彼らの演奏を聞いてみて、心底がっかりしたという記憶もほぼ皆無なのです。
その後、モーツァルトの交響曲全集やブレンデルをソリストにむかえた協奏曲なども手元に集まってくるようになり、確かに感動にうちふるえることはないけれども、外れのない指揮者というイメージが私の中にも出来上がっていきました。

しかし、あのロッシーのソナタでとびきり美しい演奏をしていた人というイメージが常に根っこの部分にありました。
そして、年を重ねるにつれて、本当に美しい音楽をやる人へと変わっていって、その変貌ぶりに多くの人が驚いたのですが、私の中では少しばかり偉そうな言い方になるのですが、今頃やっと気づいたのかい、と言う感じでした。

おそらく、こういう作品は、指揮者の手綱などなくてもそれなりに演奏できてしまう作品です。
さらに言えば、指揮者が手綱を締めようと思っても、演奏者の方が「快楽地獄」に引きずり込まれてしまうと、指揮者の棒なんか知った事じゃないとなりがちでもあります。おそらく、弦楽器奏者にとって、こういう美しい旋律を自分の思うがままに演奏できれば、それはそれは気持ちのいいことでしょう。

しかし、演奏する人間が気持ちよく演奏してるんだから、音楽も気持ちよくなると言うほど単純なものではないのです。
おそらく、このマリナーとアカデミック室内管弦楽団による演奏の最大の美点は、そう言う「快楽地獄」からマリナーは一歩も二歩も身を引いて対峙していることであり、さらにはオケの方も少なくとも一歩は身を引いて作品と対峙してることでしょう。
身を引いて客観視することによって、はじめてこの作品の持っている端正な美しさが明らかになるのです。

とりわけ、楽器編成的に言えば弦楽合奏でありながらヴィオラを欠くという不思議な編成です。
おそらくは、ヴァイオリンとチェロ・コントラバスの高音、低音の対比が作品の骨格になっているのでしょうが、そのバランスを保持するのはそれほど容易くはありません。

また、コントラバスがチェロとは独立して動く場面が多いので、チェロがかなりの高音域、ともすればヴィオラの音域あたりまで担当しています。そう言う意味では、チェロにもコントラバスにもそれなりのテクニックが求められます。
昨今の演奏家のスキルの向上から見ればコントラバスはいささか鈍重な感は否めないのですが、それでもマリナーの統率のもとに見事なまで引き締まった演奏を聞かせてくれています。

なお、少し自慢をさせてもらえば、この録音があまりにも好きだったので、アナログ時代の最後を飾るように企画された「スーパー・アナログ・ディスク」しリーズの一枚としてリリースされた「弦楽のためのソナタ(1番・3番・5番・6番)」のレコードを購入してしまいました。
そして、そのレコードは今もとびきり大切な一枚であり、年に何回かか、回数を限って大切に聞いています。

アナログレコードはデジタルよりも音がいいなどと阿呆なことを言うつもりは毛頭ありませんが、それでもアナログにはデジタルにはない不思議な魅力があることは事実です。
特に、こういう弦楽合奏のような音源だと、特にその魅力が引き立つように思われます。

今回もこの音源をアップするために久しぶりに聞き直してみて、惚れ惚れと聞き惚れしまいました。ちなみに、録音を担当したのは「Kenneth Wilkinson」です。
(注:公開している音源はアナログ音源をファイル化したものではありません)

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