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ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18

(P)ジュリアス・カッチェン アナトール・フィストゥラーリ指揮 ロンドン新交響楽団 1951年4月11日~12日録音

Rachmanino:Piano Concerto No.2 in C minor, Op.18 [1.Moderato]

Rachmanino:Piano Concerto No.2 in C minor, Op.18 [2.Adagio sostenuto]

Rachmanino:Piano Concerto No.2 in C minor, Op.18 [3.Allegro scherzando]


芸人ラフマニノフ

第3楽章で流れてくる不滅のメロディは映画「逢い引き」で使われたことによって万人に知られるようになり、そのために、現在のピアニストたちにとってなくてはならない飯の種となっています。
まあ、ラフマニノフ自身にとっても第1交響曲の歴史的大失敗によって陥ったどん底状態からすくい上げてくれたという意味で大きな意味を持っている作品です。(この第1交響曲の大失敗に関してはこちらでふれていますのでお暇なときにでもご覧下さい。)

さて、このあまりにも有名なコンチェルトに関してはすでに語り尽くされていますから、今さらそれにつけ加えるようなことは何もないのですが、一点だけつけ加えておきたいと思います。
それは、大失敗をこうむった第1交響曲と、その失敗から彼を立ち直らせたこのピアノコンチェルトとの比較です。

このピアノコンチェルトは重々しいピアノの和音で始められ、それに続いて弦楽器がユニゾンで主題を奏し始めます。おそらくつかみとしては最高なのではないでしょうか。ラフマニノフ自身はこの第1主題は第1主題としての性格に欠けていてただの導入部になっていると自戒していたそうですが、なかなかどうして、彼の数ある作品の中ではまとまりの良さではトップクラスであるように思います。

また、ラフマニノフはシンコペーションが大好きで、和声的にもずいぶん凝った進行を多用する音楽家でした。
第1交響曲ではその様な「本能」をなんの躊躇いもなくさらけ出していたのですが、ここでは随分と控えめに、常に聞き手を意識しての使用に留めているように聞こえます。
第2楽章の冒頭でもハ短調で始められた音楽が突然にホ長調に転調されるのですが、不思議な浮遊感を生み出す範囲で留められています。その後に続くピアノの導入部でもシンコペで三連音の分散和音が使われているのですが、えぐみはほとんど感じられません。
つまり、ここでは常に聞き手が意識されて作曲がなされているのです。
聞き手などは眼中になく自分のやりたいことをやりたいようにするのが「芸術家」だとすれば、常に聞き手を意識してうけないと話は始まらないと言うスタンスをとるのが「芸人」だと言っていいでしょう。そして、疑いもなく彼はここで「芸術家」から「芸人」に転向したのです。ただし、誤解のないように申し添えておきますが、芸人は決して芸術家に劣るものではありません。むしろ、自称「芸術家」ほど始末に悪い存在であることは戦後のクラシック音楽界を席巻した「前衛音楽」という愚かな営みを瞥見すれば誰でも理解できることです。
本当の芸術家というのはまずもってすぐれた「芸人」でなければなりません。
その意味では、ラフマニノフ自身はここで大きな転換点を迎えたと言えるのではないでしょうか。

ラフマニノフは音楽院でピアノの試験を抜群の成績で通過したそうですが、それでも周囲の人は彼がピアニストではなくて作曲家として大成するであろうと見ていたそうです。つまりは、彼は芸人ではなくて芸術家を目指していたからでしょう。ですから、この転換は大きな意味を持っていたと言えるでしょうし、20世紀を代表する偉大なコンサートピアニストとしてのラフマニノフの原点もここにこそあったのではないでしょうか。

そして、歴史は偉大な芸人の中からごく限られた人々を真の芸術家として選び出していきます。
問題は、この偉大な芸人ラフマニノフが、その後芸術家として選び出されていくのか?ということです。
これに関しては私は確たる回答を持ち得ていませんし、おそらく歴史も未だ審判の最中なのです。あなたは、いかが思われるでしょうか?


覆い被さってくるオーケストラに対して、その響きを突き破って縦横無尽に駆けめぐるカッチェンのピアノの凄さ!!

カッチェンのラフマニノフは、すでに同じ2番のコンチェルトをショルティとの組み合わせによるステレオ録音をアップしてあります。
カッチェンのピアノは最初から最後まで見事なまでに冴え冴えとした響きを聞かせてくれていましたし、オーケストラの聞かせどころではショルティも実に美しく歌い上げていて、悪くない演奏でした。さらに、録音に関しても「優秀」という評価を与えても問題がないレベルの優れものでした。

ですから、そこへ51年のモノラル録音をさらに追加する必要があるのだろうかと思わぬわけでもなかったのですが、実際に聞いてみると、これがまた実に凄い演奏だったので、躊躇わずに追加した次第なのです。
1951年8月の録音ですから、この時カッチェンは24才です。おそらく、恐いものなど何もなかったのでしょう。

相方を務めるのは指揮者がフィストラーリ、オケはロンドン新交響楽団です。ここで注意が必要なのは、「ロンドン交響楽団」ではなくて「ロンドン交響楽団」だと言うことです。この二つは全く別の団体であり、その実態に関しては色々と解説されている人もいるのですが、よく分かりません。
創立自体は1905年という事でそれなりの歴史があるらしいのですが、現在は「演奏会」などは行わずに「録音活動」だけを行う団体となっているようです。しかし、聴衆を入れた「演奏会」を行わないオーケストラというのは「実態」がないのと同じですから、おそらくはその時々の録音にあわせて臨時編成される団体と考えた方がいいのかも知れません。

こういう団体は、それなりに腕のあるプレーヤーを集めることが出来るのでアンサンブル的にはそれなりのクオリティは達成するのですが、常設の団体のように音楽が熟成すると言うことがありません。しかし、このラフマニノフのような「会わせもの」だとそう言うことも大きなマイナスにはならないので、若手のピアニストを相手に結構ガツンと言っています。
カッチェンの方も出だしからやる気満々で、冒頭の和音からして戦闘モード全開です。それに対して、フィストラーリの方も「何だこの若造!」と言ったかどうかは分かりませんが、やる気満々のオケと相まって勝負に出ています。

そこには、「女王陛下の Swan Lake」を指揮したノーブルな佇まいは全く存在しません。
しかしながら、そんな中で一番凄いのは、そうやって覆い被さってくるオーケストラに対して、その響きを突き破って縦横無尽に駆けめぐるカッチェンのピアノです。カッチェンと言えば「知性のあるブルドーザー」と称されることもあったのですが、ここではその「ブルドーザー」の側面が彼の他のどの録音よりも剥き出しになっています。

そして、こういう「勝負」は気力と体力が横溢した若い時代でないと不可能だと言うことを思い知らせてくれる録音です。

58年のショルティとの録音でも大したものだと思ったのですが、これを聞くとあれでも随分大人しくなったのだと気づかされます。
ただし、いささか荒っぽいこ面があることは否定できず、スタジオ録音と言うよりはライブでの録音のように聞こえるほどです。

Deccaにしてみれば、フィストラーリ指揮の「ロンドン交響楽団」に24才の若手ピアニストですから、それほど大きな期待もしないで好き勝手にやらしたのかも知れません。
しかし、その「好き勝手」が時に大きな収穫をもたらしてくれるのが音楽の持つ不思議です。

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