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ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.83

(P)ジュリアス・カッチェン ヤーノシュ・フェレンチク指揮 ロンドン交響楽団 1960年4月12日~13日録音

Brahms:Piano Concerto No.2 in B-flat major, Op.83 [1.Allegro non troppo ]

Brahms:Piano Concerto No.2 in B-flat major, Op.83 [2.Allegro appassionato]

Brahms:Piano Concerto No.2 in B-flat major, Op.83 [3.Andante]

Brahms:Piano Concerto No.2 in B-flat major, Op.83 [4.Allegretto grazioso]




まったく可愛らしいきゃしゃなスケルツォをもった小さなピアノ協奏曲・・・

逆説好みというか、へそ曲がりと言うべきか、そう言う傾向を持っていたブラームスはこの作品のことそのように表現していました。しかし、そのような諧謔的な表現こそが、この作品に対する自信の表明であったといえます。

ブラームスは第1番の協奏曲を完成させた後に友人たちに新しい協奏曲についてのアイデアを語っています。しかし、そのアイデアは実現されることはなく、この第2番に着手されるまでに20年の時間が経過することになります。

ブラームスという人は常に慎重な人物でした。自らの力量と課題を天秤に掛けて、実に慎重にステップアップしていった人でした。ブラームスにとってピアノ協奏曲というのは、ピアノの名人芸を披露するためのエンターテイメントではなく、ピアノと管弦楽とが互角に渡り合うべきものだととらえていたようです。そう言うブラームスにとって第1番での経験は、管弦楽を扱う上での未熟さを痛感させたようです。
おそらく20年の空白は、そのような未熟さを克服するために必要だった年月なのでしょう。
その20年の間に、二つの交響曲と一つのヴァイオリン協奏曲、そしていくつかの管弦楽曲を完成させています。

そして、まさに満を持して、1881年の夏の休暇を使って一気にこの作品を書き上げました。
5月の末にブレスハウムという避暑地に到着したブラームスはこの作品を一気に書き上げたようで、友人に宛てた7月7日付の手紙に「まったく可愛らしいきゃしゃなスケルツォをもった小さなピアノ協奏曲」が完成したと伝えています。
決して筆のはやいタイプではないだけにこのスピードは大変なものです。まさに、気力・体力ともに充実しきった絶頂期の作品の一つだといえます。

さて、その完成した協奏曲ですが、小さな協奏曲どころか、4楽章制をとった非常に規模の大きな作品ででした。
また、ピアノの技巧的にも古今の数ある協奏曲の中でも最も難しいものの一つと言えます。ただし、その難しさというのが、ピアノの名人芸を披露するための難しさではなくて、交響曲かと思うほどの堂々たる管弦楽と五分に渡り合っていかなければならない点に難しさがあります。いわゆる名人芸的なテクニックだけではなくて、何よりもパワーとスタミナを要求される作品です。

そのためか、女性のピアニストでこの作品を取り上げる人はほとんどいないようです。また、ブラームスの作品にはどちらかと言えば冷淡だったリストがこの作品に関してだけは楽譜を丁重に所望したと伝えられていますが、さもありなん!です。

それから、この作品で興味深いのは最終楽章にジプシー風の音楽が採用されている点です。
何故かブラームスはジプシーの音楽がお好みだったようで、「カルメン」の楽譜も入手して研究をしていたそうです。この最終楽章にはジプシー音楽とカルメンの大きな影響があると言われています。

安全運転に徹したフェレンチクに引っ張られてカッチェンもまたいささかおとなしめの演奏になっています


ここではカッチェンにふれる前に、指揮者のヤーノシュ・フェレンチクについて少しばかり言及しておきます。
もしかしたら、このサイトでは彼は初出かも知れません。

私がクラシック音楽などと言うものを聞き始めた80年代の初め頃は未だ存命だったので、レコード芸術などと言う雑誌でも時々は名前を見ることがありました。しかし、84年にこの世を去ってしまうと、その存在は急速に忘れ去られてしまいました。

その一番の理由は、若い頃はウィーンで活躍したこともあるものの、その後は頑なにハンガリーでの活動にこだわったからです。
特に、1953年にハンガリー国立交響楽団の音楽監督に就任してからはそこを活動の本拠地と思い定めたのか、1984年に亡くなるまでこのオーケストラを手放しませんでした。まさに、「ヤーノシュ・フェレンチク=ハンガリー国立交響楽団」と言う数式が成り立つほどの関係を築いたのです。
それ以外ではハンガリー国立歌劇場(コンサート活動を行う時ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団)の音楽監督も長く務めました。

ですから、この録音のように、カッチェンというアメリカの若手のピアニストとロンドンのオケを相手に録音を行うというのはかなり珍しい事だったのです。
そして、そのためか、ここでの指揮ぶりはかなり安全運転に徹しているように聞こえます。
結果として、ピアノ独奏付きの交響曲と言われることもある音楽なのですが、いささかこぢんまりとした佇まいになっています。

この前の年にカッチェンはモントゥーの指揮で1番の協奏曲を録音しているのですが、そこでのモントゥーは80才を超えた年齢などは微塵も感じさせないほどの気宇壮大な音楽を聞かせてくれていました。そして、カッチェンのピアノもそう言うモントゥーの棒に触発されて実に素晴らしいイマジネーションを広げていました。

よく、勝負の世界では相手に会わせてしまうと言う言葉があります。
対戦相手との力の差があると、実際の勝負でもその相手の力量にあわせてしまって、本来の力量が発揮できない事を指摘した言葉です。

フェレンチクとカッチェンとの間にそれほど力量の差があるとは思わないのですが、結果として、いささか勝手の違うフェレンチクに引っ張られたのか、カッチェンもまたいささかおとなしめの演奏になってしまっています。
もちろん、硬質でクリアなカッチェンの響きは健在で、冒頭のホルンのソロに導かれて静かにピアノが入ってくるところなどは実に見事なものです。
第3楽章アンダンテでの繊細な表情付けなども心にしみるような美しさはあります。

しかし、カッチェンならではの燃えるようなパッションは不発のまま終わってしまっているように聞こえます。

それだけに、何故にDeccaがこの作品の指揮者としてわざわざハンガリーからフェレンチクを呼び出したのかは不思議と言うしかありません。
もちろん、カッチェンのピアノに寄り添って丁寧に伴奏をつけてはいるのですが、ブラームスのピアノ協奏曲というのはそれだけでは駄目だと言うことは最初から分かっていたはずです。

フェレンチクにしても、せっかく本拠地のハンガリーから出てきてたのに、力が十分に発揮できない「録音」が残ったことは残念と言うしかなかったでしょう。

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