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グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 作品16

(P)ゲザ・アンダ:ラファエル・クーベリック指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1963年9月23日録音

Grieg:Piano Concerto in B minor, EG 120 [1.Allegro molto moderato]

Grieg:Piano Concerto in B minor, EG 120 [2.Adagio]

Grieg:Piano Concerto in B minor, EG 120 [3.Allegro moderato molto e marcato]


G! GisでなくG!

この作品はグリーグが初めて作曲した、北欧的特徴を持った大作です。
1867年にソプラノ歌手のニーナと結婚して、翌年には女児アレキサンドラに恵まれるのですが、そのようなグリーグにとってもっとも幸せな時期に生み出された作品でもあります。

今日においても、もっともよく演奏されるピアノ協奏曲の一つですが、初演当時からも熱狂的な成功をおさめるとともに、1870年にはグリーグが持参した手稿を初見で演奏したリストによって激賞される(「G! GisでなくG! これが本当の北欧だ!」)という幸せな軌跡をたどった作品でもあります。

グリーグは晩年にもう一曲、ロ短調の協奏曲を計画しますが、健康状態がその完成を許さなかったために、その代わりのようにこの作品の大幅改訂を行っています。
この改訂で楽器編成そのものも変更され、スコアそのものもピアノのパートで100カ所、オーケストレーションで300前後の変更が加えられました。(管野浩和氏の解説の受け売りです・・・^^;)

現在一般的に演奏される出版譜はこの改訂稿に基づいていますから、私たちがよく耳にする協奏曲と、グリーグを一躍世界的作曲家に押し上げた初稿の協奏曲とではかなり雰囲気が異なるようです。


アンダの粒立ちのよい透明感あふれる響きは「極上」という形容詞を与えても間違いとは言われないでしょう

まず最初に誰もが感じるのは、ピアノというのはかくも美しい響きのする楽器だったのかという驚きでしょう。それほどまでに、ここでのアンダのピアノは粒立ちがよく透明感にあふれています。その響きに対して「極上」という形容詞を与えても間違いとは言われないでしょう。
そこに、何とも言えない繊細で微妙なニュアンスが加味される第2楽章などは、聞いていて「涙もの」です。さらに、第3楽章では、そこまでいささか抑え気味だった感情が一気にあふれ出したようなロマンティックな音楽を紡ぎ出してくれます。

それにしてもアンダというのは不思議なピアニストです。
「ザルツブルク・モーツァルテウム・アカデミカ」という極めて親密な関係で結ばれたオーケストラを弾き振りで演奏している時は、何とも言えずほっこりとした田舎くささあふれる響きでモーツァルトを構築していました。
ここで聞くことのできるアンダの響きは、それとはかなり方向性の異なった響きです。

しかし、さらに振り返ってみれば、彼のもう一つの名刺代わりとも言うべきバルトークのコンチェルトでは、ここで聞くことのできる響きに通ずる透明感があふれていました。
おそらく、気合いを入れて勝負に出ればこういう響きを繰り出し、肩の力を抜いて楽しみながらピアノに向かえばモーツァルトの時のような響きが出るのかもしれません。そして、モーツァルトにはその様な響きの方が相応しいと判断したのでしょう。
その意味では、アンダというピアニストは抽斗の数の多い人だったのかもしれません。

それから、この演奏を聴いてもう一つ指摘しておかなければならないのは、ベルリンフィルの優秀さであり、それは同時にオーケストラトレーナーとしてのカラヤンの手腕が並々ならぬものだったことです。
聞けば分かるように、クーベリックの指揮はかなり曲線を多用した音楽作りであり、美しいところは徹底的に美しく表現したい意図が明らかです。ですから、かなり細かい表情付けを要求しているので、その細かい指示に鋭敏に反応していくのは簡単とは思えないのですが、ベルリンフィルは極上の響きで持って余裕綽々で反応しています。
とりわけ管楽器群のふっくらとした響きは見事で、この美しい音楽をより美しく描き出しています。

もちろん、その功績の大きな部分は指揮者のクーベリックに与えられるべきものなのでしょうが、それでもオケがヘボではこうはいかないわけです。
ですから、ベルリンフィルという、優秀ではあってもヨーロッパの田舎オケだった集団をここまで引き上げたカラヤンの功績は無視できないのです。

グリーグのコンチェルトと言えば、セルとフライシャーのコンビによる録音が思い出されるのですが、あれは本当にスッキリとした上品な仕上がりでした。
それと比べれば、「音楽をそこまで漂白されちゃ困るよ」とでも言いたげなクーベリックの呟きが聞こえてきそうな録音です。

おそらく、この「漂白されちゃ困る」というのがヨーロッパ的な本能なのでしょう。
こういう録音を聞くと、セルなどに代表されるアメリカに軸足を置いた音楽家と、ヨーロッパに軸足を置いた音楽家の違いが見事なまでにあぶり出されていることにも気づかされます。

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