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パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調 作品6

(Vn)ユーディ・メニューイン:アナトール・フィストゥラーリ指揮 ロンドン交響楽団 1955年録音

Paganini:Violin Concerto No.1 in D major, Op.6 [1.Allegro maestoso - Tempo giusto]

Paganini:Violin Concerto No.1 in D major, Op.6 [2.Adagio espressivo]

Paganini:Violin Concerto No.1 in D major, Op.6 [3.Rondo Allegro spiritoso - Un poco piu presto]


ヴァイオリンの技巧の見本市

さて、パガニーニのコンチェルトをどう見るか?
いわゆるクラシック音楽の通たちからは一段も二段も低く見られてきたことは間違いありません。そして、その事は決して現在だけでの話ではなく、パガニーニが活躍した19世紀においても事情はそれほど変わりません。

例えば、シューマン。

彼は、「私はヴィルトゥオーソのための協奏曲は書けない。」なんて言って、さらに「何か別のものを変えなければならない」などと呟くのです。
古典派の時代でも、モーツァルトやベートーベンはソリストの名人芸を披露するだけの協奏曲には飽きたらず様々なトライを繰り返していました。

ですから、そう言う時代背景の中にこのパガニーニの作品を置いてみると、あまりにも問題意識がなさ過ぎるように見えるのです。

しかし、音楽というのはまずはエンターテイメントだという現実に開き直ってみれば、これは実に「楽しい」作品であることは間違いありません。
ありとあらゆる「美食」を食いつくした果てに、お茶漬けと漬け物に行き着くのは決して否定しませんが、その価値観を全ての人に押しつけるはいかがなものでしょうか?

たまには難しい理屈は脇に置いて、極上の美食に舌鼓をうつのも悪くはないでしょう。

ちなみに、パガニーニには自筆楽譜というモノはほとんど残っていません。
それは、彼が病的なまでに疑り深い人間であり、他人に自分の作品が盗用されることをおそれて、演奏会が終わるとパート譜などを全て回収した上に、パガニーニの死後も遺族がそれらの保存に全く無関心であったためにその大部分が散逸してしまったためです。

現在では、そう言う楽譜の存在が確認されているのは6曲のコンチェルトとカプリースだけだと言われています。


メニューヒンが18歳の時に録音した34年盤と比較すると、あれこれ複雑な感情がわき上がってきます。

メニューヒンはパガニーニの協奏曲(第1番)を3回録音しています。


  1. モントゥー指揮 パリ交響楽団 1934年5月録音

  2. フィストゥラーリ指揮 ロンドン交響楽団 1955年録音

  3. エレーデ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1960年10月録音



このうち34年盤と比較の対象になるのはフィストラーリ指揮による55年盤でしょう。
55年盤は残念ながらモノラル録音なのですが、モノラルとしてはかなりの優秀録音であり、メニューヒンのテクニックもそれほどの衰えはみせていません。

しかし、それでも、メニューヒンが18歳の時に録音したモントゥーのサポートによる34年盤と比較すると、あれこれ複雑な感情がわき上がってきます。

これを聞き比べていて、頭をよぎったのがフィギュアスケートの浅田真央です。
10代半ばの頃は何の躊躇いもなく、いとも容易く跳べていたジャンプが、20才を超える頃になると跳べなくなって苦闘していた彼女の姿です。

フィグアスケートのことは全く分かりませんし、ヴァイオリンの演奏法についても専門家でもありませんから、いい加減な感想の域は出るものではないのですが、この両者に共通しているように思うのは「躊躇い」のような気がします。
フィギュアスケートをテレビなどで見ていると、難しいジャンプを前にして躊躇いを感じながらジャンプするタイミングを計っている選手がよくいます。

その「躊躇い」のような心の動きは私のような素人でも感じ取れるもので、そう言うときは、十中八九、そのジャンプを失敗をしています。

それは浅田真央ほどの選手でも同じで、子どもの頃は何の躊躇いもなくジャンプを踏み切り何の問題もなく見事に着氷していたのが、年を重ねるごとに「さあ跳ぶぞ!」みたいな心の構えが明らかに見て取れたもので、そう言う「心の動き」が見て取れるときは余りよい結果にならないことが多かったです。
さらに言えば、たとえ何とか上手く跳べて着氷できても、そこからは子供の頃のような軽やかさは失われていました。

メニューヒンのこの演奏を聞き比べても、それと全く同じようなことを感じてしまったのです。
ヴァイオリニストにとってパガニーニの協奏曲を演奏するというのは大変なチャレンジです。そして、そのチャレンジを克服するために18才のメニューヒンもまた大変な練習を積み重ねたでしょうが、いざ本番では、失敗する自分のイメージなどは微塵もわかなかったのでしょう、驚くほどの思い切りの良さで次々と難場をクリアしていきます。

しかし、55年盤でのメニューヒンにはその思い切りの良さはありません。
第1楽章のカデンツァなどを聞いていると、その腕の冴えには惚れ惚れしますから、こういう部分を聞く限りでは、多くの人が悪く言うようなテクニックの衰えなどは全く感じません。

しかし、音楽全体を聞いていて、メニューヒンが失ってしまったと強く感じるのは、失敗するイメージなどは全く湧かない思い切りの良さです。
浅田真央が何の迷いもなく踏み切っていたあのジャンプの切れ味が年を重ねるにつれて失ってしまったように、メニューヒンもまたあの眩しいほどの輝きを失ってしまっているのです。

それにしても、この34年盤のメニューヒンは心底凄いです。

モントゥー指揮 パリ交響楽団 1934年5月録音


Paganini:Violin Concerto No.1 in AE-flat major, Op.6 [1.Allegro maestoso. Kadenz(Sauret). Allegro maestoso]



Paganini:Violin Concerto No.1 in AE-flat major, Op.6 [2.Adagio espressivo]



Paganini:Violin Concerto No.1 in AE-flat major, Op.6 [3.Rond: Allegro spirituoso]




SP原盤の時代ですから、おそらく録音してからの編集などと言うことは全く不可能ですし、もしかしたらこれは完全一発録りの可能性もあります。もしもそうだとすれば、そしてそうである可能性は限りなく高いのですが、これは本当に恐ろしい録音です。
あのアイザック・スターンが自伝の中でいまだ持って忘れることのできない録音だとして絶賛していた理由がよく分かります。

特に最終楽章での何の躊躇いもなく突っ込んでいく切れ味の鋭さは特筆ものです。さらには楽章の後半ではピッチカートもまじえて見事に盛りあげていくのですが、55年盤ではそれは回避されて全て弓だけ演奏されています。
そこに、最後はトリプル・アクセルを回避せざるを得なくなっていった浅田真央の姿がだぶってきたりもします。

しかし、それでもなお失敗することの怖さを知って、躊躇いの気持ちを振り捨てることが出来なくなってもなお、より高みを目指そうとした心の有り様には拍手を送るべきです。

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