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シューリヒト(Carl Schuricht)|メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」 作品21&61 より(抜粋)
メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」 作品21&61 より(抜粋)
カール・シューリヒト指揮 バイエルン放送交響楽団 1960年録音
Mendelssohn:A Midsummer Night's Dream, Op.21[Overture]
Mendelssohn:A Midsummer Night's Dream, Op.61[No.1 Scherzo]
Mendelssohn:A Midsummer Night's Dream, Op.61[March of the Fairies]
Mendelssohn:A Midsummer Night's Dream, Op.61[No.5 Intermezzo]
Mendelssohn:A Midsummer Night's Dream, Op.61[No.7 Notturno]
Mendelssohn:A Midsummer Night's Dream, Op.61[No.9 Wedding March]
Mendelssohn:A Midsummer Night's Dream, Op.61[No.10 (b) Funeral March]
Mendelssohn:A Midsummer Night's Dream, Op.61[No.11 Dance of the Clowns]
メンデルスゾーンの天才性が発露した作品
まず初めにどうでもいいことですが、この作品は長く「真夏の夜の夢」と訳されてきました。それは、シェークスピアの原題の「A Midsummer Night's Dream」の「Midsummer」を「真夏」と翻訳したためです。
しかし、これは明らかに誤訳で、この戯曲における「Midsummer」とは、「midsummer day(夏至)」を指し示していることは明らかです。この日は「夏のクリスマス」とも呼ばれる聖ヨハネ祭が祝われる日であり、それは同時に、キリスト教が広くヨーロッパを覆うようになる以前の太陽神の時代の祭事が色濃く反映している行事です。ですから、この聖ヨハネ祭の前夜には妖精や魔女,死霊や生霊などが乱舞すると信じられていました。シェークスピアの「A Midsummer Night's Dream」もこのような伝説を背景として成りたっている戯曲ですから、この「Midsummer」は明らかに「夏至」と解すべきです。
そのため、最近は「真夏の夜の夢」ではなくて、「夏の夜の夢」とされることが多くなってきました。
まあ、どうでもいいような話ですが・・・。
さらに、どうでもいいような話をもう一つすると、この作品は組曲「夏の夜の夢」として、序曲に続けて「スケルツォ」「間奏曲」「夜想曲」「結婚行進曲」が演奏されるのが一般的ですが、実はこの序曲と、それに続く4曲はもともとは別の作品です。
まず、序曲の方が先に作曲されました。これまた、元曲はピアノ連弾用の作品で、家族で演奏を楽しむために作曲されました。しかし、作品のできばえがあまりにもすばらしかったので、すぐにオーケストラ用に編曲され、今ではこの管弦楽用のバージョンが広く世間に流布しています。
これが、「夏の夜の夢 序曲 ホ長調 作品21」です。
驚くべきは、この時メンデルスゾーンはわずか17歳だったことです。
天才と言えばモーツァルトが持ち出されますが、彼の子ども時代の作品はやはり子どものものです。たとえば、交響曲の分野で大きな飛躍を示したK183とK201を作曲したのは、彼もまた1773年の17歳の時なのです。
しかし、楽器の音色を効果的に用いる(クラリネットを使ったロバのいななきが特に有名)独創性と、それらを緊密に結びつけて妖精の世界を描き出していく完成度の高さは、17歳のモーツァルトを上回っているかもしれません。
ただ、モーツァルトはその後、とんでもなく遠いところまで歩いていってしまいましたが・・・。
ついで、この序曲を聴いたプロイセンの王様(ヴィルヘルム4世)が、「これはすばらしい!!序曲だけではもったいないから続くも書いてみよ!」と言うことになって、およそ20年後に「劇付随音楽 夏の夜の夢 作品61」が作曲されます。
このヴィルヘルム4世は中世的な王権にあこがれていた時代錯誤の王様だったようですが、これはバイエルンのルートヴィヒ2世も同じで、こういう時代錯誤的な金持ちでもいないと芸術は栄えないようです。(^^;
ただし、ヴィルヘルム4世の方は「狂王」と呼ばれるほどの「器の大きさ」はなかったので、音楽史に名をとどめるのはこれくらいで終わったようです。
作品61とナンバリングされた劇付随音楽は以下の12曲でできていました。
1. スケルツォ
2. 情景(メロドラマ)と妖精の行進
3. 歌と合唱「舌先裂けたまだら蛇」(ソプラノ、メゾソプラノ独唱と女声合唱が加わる)
4. 情景(メロドラマ)
5. 間奏曲
6. 情景(メロドラマ)
7. 夜想曲
8. 情景(メロドラマ)
9. 結婚行進曲 - ハ長調、ロンド形式
10. 情景(メロドラマ)と葬送行進曲
11. ベルガマスク舞曲
12. 情景(メロドラマ)と終曲(ソプラノ、メゾソプラノ独唱と女声合唱が加わる)
ただし、先にも述べたように、現在では、作品21の序曲と、劇付随音楽から「スケルツォ」「間奏曲」「夜想曲」「結婚行進曲」の4曲がセレクトされて、組曲「夏の夜の夢」として演奏されることが一般的となっています。
バイエルンのオケの献身によって実現した美しい響きの中で、淡々とした時の流れに身を浸すがごとき演奏
メンデルスゾーンはこの処女作とも言うべき「真夏の夜の夢」を越える作品は書かなかったと主張する人は今もいます。
それは、この作品の素晴らしさを言いたいこともあったのでしょうが、やはりナチスに貶められた彼への評価をそのまま鵜呑みにしてしまった物言いと言わざるを得ません。特に、そう言う「作られた評価」によって最晩年のオラトリオ作品に接する機会が少なかったこともその様な物言いにつながったのでしょう。
とは言え、けだるい昼下がりに妖精たちが飛び交う情景はこの上もなく素晴らしい瞬間であることは事実です。
メンデルスゾーンが「底の浅いただの金持ちの凡」と貶められているときでもこの作品だけはよく取り上げられていました。
ですから、既に優れた録音を数多く持ってるわけですから、そこにこのシューリヒトの録音を持ってきても、それら多くの録音を押しのけて特別な地位を与えることは出来ません。
ただし、シューリヒトとバイエルンのオケがつくり出す響きの美しさだけは指摘しておく必要があるでしょう。
夏の夜に妖精たちが飛び交う場面でのくすんだ響きは、最初は録音が悪いのか?(^^;・・・と思うほどなのですが、その後の木管楽器の美しい響きに出会うことで、その響きはシューリヒトの指示であり、さらにはバイエルンのオケの献身によって実現したものであることを確信できます。
あの有名な結婚行進曲も同様のくすんだ響きで描かれるのですが、それは華やか結婚氏ではなく、質素ではあるけれども心のこもった田舎の親密な宴として立ちあらわれます。
確かに、大袈裟な身振りもなく淡々と進んでいく音楽は物足りないと言えば物足りなさも感じるのですが、この人肌の暖かさに満ちた響きで淡々とした時の流れに身を浸すのも悪くない経験です。
[収録曲]
- 序曲 作品21
- スケルツォ 作品61の1
- 妖精たちの行進 作品61の2
- 間奏曲 作品61の5
- 夜想曲 作品61の7
- 結婚行進曲 作品61の9
- 葬送行進曲 作品61の10
- 道化師たちの踊り 作品61の11
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