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ガーシュイン:ラプソディー・イン・ブルー

(P)ガーシュイン ポール・ホワイントマン指揮 ポール・ホワイトマン楽団 1927年録音



Getshwin:ラプソディ・イン・ブルー


ガーシュインの”クラシック音楽”デビュー作

初演はガーシュイン自身のピアノとポール・ホワイトマン楽団によって行われました。(1924年)
 ガーシュイン自身が作曲したのは2台のピアノによる、それも草稿程度のものだったようです。それをオーケストラ版に仕上げたのは楽団付属のアレンジャーだった、ファーディ・グローフェです。(そうです、あの「グランド・キャニオン」で有名なグローフェです。)
 
 彼は、その後もこの作品の改訂と編曲に尽力をして、最終的には1942年に大編成のオーケストラ版を完成させます。そんなわけで、この作品の実体はガーシュインとグローフェの合作みたいなものだといえます。

 実際、クラシックのコンサートで演奏されるのはこの42年のオーケストラ版です。
 しかし、ユング君はあまり詳しくないのですが、シンフォニック・ジャズとしてこの作品を捉えるジャズ・オケなどでは、小編成のオリジナル版で演奏することが多いようです。プレヴィンなんかもこのスタイルで録音をしていますが、全く音楽の雰囲気が違います。
 それから、ピアノソロに即興的なアドリブを入れたものも多いですから、ますます雰囲気が変わってしまいます。いったいどれが本当の「ラプソディー・イン・ブルー」なんだ?と聞かれてもとまどってしまうと言うのがこの作品の特徴だともいえます。

 でも、そんなややこしい話は脇においておくとして、とにかく「粋」な音楽です。冒頭のクラネリットのメロディを聴くだけで嬉しくなってしまいます。20世紀に入って行き詰まりを見せ始めたクラシック音楽の世界にとって、このような響きがとても新鮮に聞こえたことだけは事実です。


あのマングースは、なかなかに凄い

クラシック音楽の世界を舞台としたマンガ「のだめカンタービレ」の中で、主人公の「のだめ」がマングースのぬいぐるみを着てピアニカで演奏したのですっかり有名になったのがガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」でした。
ドラマのエンディングテーマ曲としても使われましたので、ベートーベンの7番と並んで一躍認知度が上がった音楽です。

「のだめカンタービレ」第5巻で、シュトレーゼマンの次なる「たくらみ」によって千秋はAオケのソリスト(ピアニスト)として引き抜かれてしまうので、残されたSオケが独自企画として取り組んだのがガーシュインでした。
このSオケ版の「ラプソディー・イン・ブルー」では、駄目ヴァイオリニストと言われてきた峰が、その隠されたプロデュース能力の一端を垣間見せます。

それはひとことで言えば「魅せる」。
そして、千秋にもっとも欠けていると思われるのがこの「魅せる」意識でした。

第5巻は、このクラシック音楽における「魅せる」ということをテーマに、「ラプソディー・イン・ブルー」と「ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番」が絡んでいきます。

それにしても、このピアニカ版の「ラプソディー・イン・ブルー」をドラマで見たときは「やられた・・・」と思いましたね。
そして、その「やられた!」という思いが、心のどこかで「のだめ」をバカにしなければいけなかったクラシックオタクの歪んだ心を正常な状態に戻してくれたのです。

千秋も素直に感嘆します。

「おいおい・・・カッコイイじゃねーか!!」
「曲のアレンジがいい」
「ピアニカなんかもちゃんとパートを分けたりして」
「芸が細かい!!」

それにしても、この楽譜誰が用意したのでしょうか。
原作では第5巻23ページで、さらりと「みなさんオケでやる曲の楽譜が用意できましたよー」と描かれているだけです。

しかし、このビッグバンド風の「ラプソディー・イン・ブルー」は際物のように見えるのですが、実は、これこそが原曲に近い姿だったのです。

「ラプソディー・イン・ブルー」は「ジャズの王様」と呼ばれていた(その実、本人は全くジャズ演奏ができなかった)ポール・ホワイトマンの依頼によって作曲されました。
ところが、時間的な猶予はわずか2週間しかなかったので、ガーシュインは2台のピアノよる作品として作曲し、そのスコアを元に管弦楽曲として編曲したのが座付きのアレンジャーだったグローフェでした。

言うまでもないことですが、ホワイトマンが率いていたのはオーケストラではなくてビッグ・バンドでした。
ですから、最初の管弦楽版のスコアはホワイトマン楽団の構成を前提として編曲されているので、かなり変わった編曲がなされています。

楽器構成は以下の通りです。


  1. 木管楽器(奏者3):サクソフォーン、クラリネット、オーボエ、ファゴットを持ち替え

  2. 金管楽器:ホルン2、トランペット2、トロンボーン2、チューバ1

  3. 打楽器・その他:チェレスタ、ピアノ(独奏とは別)、独奏ピアノ

  4. 弦楽器:ヴァイオリン(奏者8)、バンジョー



おそらく、木管奏者が3人しかいなかったのでしょう。
そのため、3人で頻繁に楽器を持ち替えて演奏するというとても「不便」なアレンジになっています。
弦楽器もヴァイオリンだけです。

峰のプロデュースしたのは「和風ビッグ・バンド」でしたから、当然のことながらこの「原典版」とも言うべきビッグ・バンド用のスコアが念頭にあったはずですが、それをそのまま踏襲しているわけではないようです。

原作の絵を見てみると、クラリネットのソロはピアニカに変更して、マングースののだめが演奏しています。
弦楽パートはコントラバスが後ろに並んでいるように見えるのですが、キッチリと弦楽5部が揃っているわけではないようです。内声部のヴィオラなんかはピアニカ軍団に置き換えているように見えます。

ですから、峰たちが使った楽譜はビッグ・バンドとオーケストラの中間みたいなアレンジだったようです。
しかし、結果としては、行儀の良いクラシック音楽としての「ラプソディー・イン・ブルー」ではなくて、灰汁の強いビッグ・バンド風の「ラプソディー・イン・ブルー」よりもさらに灰汁の強い「ラプソディー・イン・ブルー」になっていて、それが結果として実に魅力的な音楽に仕上がることになるのです。

そして、身もだえる峰のソロを聴きながら千秋の中に何か悟るものがあったりするのです。

そして、そう言う「のだめ」の中で演じられたた魅力的なラプソディー・イン・ブルーのお里がこの作曲家ガーシュイン自身のピアノによる録音にあります。
1927年という超絶的に古い録音ですが音質はそれほど悪くはありませんし、何よりも、面白さという点では出色です。

あまりのアクの強さに驚かされ、同時に作曲者がイメージした「ラプソディー・イン・ブルー」がこんなものなら、いわゆるクラシック音楽として演奏される大部分の「ラプソディー・イン・ブルー」はあまりにもお行儀がよすぎるのではないかという思いがしますよね。
そして、ラプソディー・イン・ブルーという作品は、ジャスのようにその時々の雰囲気に合わせてもっと自由に楽しくやる事こそが作曲者の意図に忠実なのではないかと考えれば、この峰がプロデュースした「ラプソディー・イン・ブルー」こそが、もっともガーシュインの意図に忠実なのかもしれない・・・とも思ったりするのです。

ちなみに、正しいクラシック音楽としての定番と言えば、バーンスタインによる59年盤が真っ先に思い浮かびます。

(P)バーンスタイン バーンスタイン指揮 コロンビア交響楽団 1959年録音

ガーシュインによる27年盤を聞き、そしてマングースを一度聞いてしまうと、この作品のスタンダードと言われ続けてきたバーンスタイン盤は本当にガーシュインが思い描いていたような音楽だったのかという「恐れ多い」疑問がわき上がってきます。

もちろん、音楽というものは原作者の表現が絶対でないことは確認しておきましょう。
おかしな話ですが、クラシック音楽というのはそれほど底の浅い物ではありません。
しかし、クラシック音楽としての「ラプソディ・イン・ブルー」の中では最もジャズ的だと言われ続けてきたこの録音でも、あまりにもお上品にすぎるような気がしてしまうは確かです。

そう言う意味では、あのマングースは、なかなかに凄かった言わざる得ないのです。

では、最後に、その後のガーシュインのエピソードを一つ紹介していきます。

「ラプソディ・イン・ブルー」の大成功で、ガーシュインは一躍アメリカ楽団の寵児となります。
しかし、「耳あたりのいい音楽を書くだけの音楽家」という陰口は専門的に音楽を学ぶ機会がなかったガーシュインには心に突き刺さる棘となったようです。

そこで、彼は一念発起してヨーロッパに渡り専門的な知識を身につけようとします。そんな専門的知識の事を彼は「アイデアはたいしたことはないが、それを見栄え良くする方法」と言うのですが、その物言いの中に突き刺さったコンプレックスの大きさを感じざるを得ません。
しかし、そんな心に突き刺さったコンプレックスを和らげてくれたのがモーリス・ラヴェルでした。

彼は、教えを請いにきたガーシュインに次のように語るのです。
「あなたは既に一流のガーシュウィンなのだから、二流のラヴェルになる必要はないでしょう」

面倒くさかっただけではないのか?という噂もあるのですが、それはラヴェルという人を知らなさすぎる言葉です。奇人・変人があふれるクラシック音楽の世界の中ではまれに見るほどの「いい人」だったのがラヴェルなのです。彼は素直にガーシュインのことを高く評価していました。
その証拠に、彼自身がジャズの影響を強く受けた作品を書くようになるのです。(ピアノ協奏曲ト長調)
それは、下手をすればラヴェルが「二流のガーシュイン」になってしまう危険性があったにも関わらず、それでも、書かずにおれないほどの影響をガーシュインはラヴェルに与えたのです。

さらに、意外な感がするのは、ガーシュインとは真逆なところにいると思われるシェーンベルグもまた、次のように言って彼を擁護したのです。
ガーシュインを軽蔑する、いわゆる本格的作曲家はたくさんいるがと前置きをして、でも、そんな奴は「音符の足し算を学んできたやつらだ。やつらが本格的というのは、ユーモアと心が完全に欠如していると言う意味だ」と述べているのです。

ナチスに追われてアメリカに渡ったシェーンベルグはガーシュインと親しくなり、一緒にテニスをやる間柄になったそうです。

そうして、そんなコンプレックスから解放されたガーシュインは、その後も基本的には独学でオーケストレーションを学び、ついに黒人だけによる画期的なオペラ「ボギーとベス」を書きあげます。
このオペラの第1幕冒頭で、生まれたばかりの赤ん坊に歌いかけるブルース調の子守唄「サマータイム」は、今もガーシュイン代表するもう一つの音楽になっています。

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