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パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調 Op.6


(Vn)エリック・フリードマン ワルター・ヘンドル指揮 シカゴ交響楽団 1962年2月3日録音


ヴァイオリンの技巧の見本市

さて、これらパガニーニのコンチェルトをどう見るか?いわゆるクラシック音楽の通たちからは一段も二段も低く見られてきたことは間違いありません。そして、その事は決して現在だけでの話ではなく、パガニーニが活躍した19世紀においても事情はそれほど変わりません。
例えば、シューマン。
彼は、「私はヴィルトゥオーソのための協奏曲は書けない。」なんて言って、さらに「何か別のものを変えなければならない」などと呟くのです。古典派の時代でも、モーツァルトやベートーベンはソリストの名人芸を披露するだけの協奏曲には飽きたらず、彼らもまた様々なトライを繰り返していました。
ですから、そう言う時代背景の中にこのパガニーニの作品を置いてみると、あまりにも問題意識がなさ過ぎるように見えるのです。

しかし、音楽というのはまずはエンターテイメントだという現実に開き直ってみれば、これは実に「楽しい」作品であることは間違いありません。
ありとあらゆる「美食」を食いつくした果てに、お茶漬けと漬け物に行き着くのは決して否定しませんが、その価値観を全ての人に押しつけるはいかがなものでしょうか?

たまには難しい理屈は脇に置いて、極上の美食に舌鼓をうつのも悪くはないでしょう。

ちなみに、パガニーニには自筆楽譜というモノはほとんど残っていません。それは、彼が病的なまでに疑り深い人間であり、他人に自分の作品が盗用されることをおそれて、演奏会が終わるとパート譜などを全て回収した上に、パガニーニの死後も遺族がそれらの保存に全く無関心であったためにその大部分が散逸してしまったためです。
現在では、そう言う楽譜の存在が確認されているのはこれら6曲のコンチェルトとカプリースだけだと言われています。

ハイフェッツの後継者


「エリック・フリードマン」というヴァイオリニストも今となっては記憶の彼方に消えつつあります。
一通りプロフィールを紹介すれば以下のようになります。

「1939年にアメリカのニュージャージー州ニューアークに生まれる。6歳よりヴァイオリンを学び始め、10歳からジュリアード音楽院でイヴァン・ガラミアンに師事する。その後、個人的にヤッシャ・ハイフェッツやナタン・ミルシテインのレッスンを受け、1959年からは南カリフォルニア大学でハイフェッツのクラスで学ぶ。
1961年にロンドンでバッハの2台のヴァイオリンのための協奏曲でハイフェッツと共演し録音を行う。ハイフェッツにとって他のヴァイオリニストと二重奏を録音した唯一のものとなった。
RCAに録音を続ける傍ら、1966年のチャイコフスキー国際コンクールでは6位入賞。(なんか中途半端^^;)
1980年に自動車事故で左手と腕を負傷してからはイェール大学での教育活動に専念し、2004年にニューヘイブンで癌のためになくなる。」

いつも思うことですが、こうやって「公式」のプロフィールというものは、いくらそれを眺めても「ただの知識」でしかなく、彼の「音楽」とは全く無縁だと言うことです。
ただ、バイロン・ジャニスとホロヴィッツとの関係と同じように、フリードマンにとってもハイフェッツとの関係は有り難くもあり、悩ましいものだったことでしょう。レコード会社(RCA)はフリードマンを「ハイフェッツの後継者」として売り出したのですが、それも彼にとっては自らのキャリアを築いていく上では有り難くもあったでしょうが、それ以上に悩ましいものだったはずです。

ただし、彼は自分の本名である「Eric」を「Erick」に改名しています。
それは、「Jascha Heifetz」や「Fritz Kreisler」がともに13文字だったので、自らもそうなりたいという思いをこめて「k」を付け加え「Erick Friedman」としたのです。
それだけハイフェッツへの尊敬の念が強かったと言うことです。

そして、結果として不幸な事故で演奏家としての活動は断念して教育活動に専念することになるのですが、それでもその重圧に押しつぶされることなく、見事に晩年を全うしたことでアメリカでは今もって多くの熱烈なファンが存在します。

このパガニーニとサン・サーンスの2曲は1962年2月3日にまとめて録音しているのですが、「ヴァイオリンというのはやはりこうでなくっちゃイカンよ!!」と思わず言いたくなるほどの素晴らしい出来です。
本当に唖然とするほどの腕の冴えであり、さらに驚くのはそれを見事なまでに捉えきった録音エンジニア、ルイス・レイトンの腕の冴えです。
そこには、衰えの翳りが見えつつある看板演奏家「ハイフェッツ」に変わりうる「スター」を生み出したいという「RCA」の強い思いが読み取れます。

誰とは言いませんが、深い精神性をこめてギーコ、ギコギコ弾いてくれるのが好きな人もいるでしょうが、それでもこういうどこか異次元空間に突き抜けていってしまうようなカタルシスを感じさせてくれるのはヴァイオリンならではの世界です。
そして、それを支えるオケも、どう考えても楽しい仕事とは思えないのですが、さすがに未だライナー統治下のシカゴ響、一点の緩みもなくフリードマンをサポートしています。

なるほど、恥ずかしながらフリードマンの演奏は始めて聞いたのですが、アメリカがうんだ20世紀最高のヴァイオリニストと固く信じる人が今も多くいることを納得させてくれる演奏です。

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