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アンソニー・コリンズ(Anthony Collins) |ヴォーン・ウィリアムス:トマス・タリスの主題による幻想曲
ヴォーン・ウィリアムス:トマス・タリスの主題による幻想曲
アンソニー・コリンズ指揮 Members of the New Symphony Orchestra of London 1952年3月31日~4月1日録音 Vaughan Williams:Fantasia on a Theme_by Thomas Tallis
交響曲は知らなくても・・・
ヴォーン・ウィリアムスについては既に
ボールト指揮による「交響曲全集」 をアップしてあります。交響曲という形式が終焉を迎えた20世紀という時代に9曲もの交響曲を残したと言うことで「隠れたシンフォニスト」などと言われたりします。
しかし、そう言う彼の本線である交響曲を聞いたことがなくても、この弦楽合奏を主体とした二つの幻想曲なら聴いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。
ヴォーン・ウィリアムズは20世紀の作曲家としては珍しく穏やかで美しい旋律ラインを持った音楽を書いた人というイメージがあります。そう言うイメージにピッタリなのがこの二つの幻想曲であり、とりわけ「トマス・タリスの主題による幻想曲」は彼に作曲家としての成功をもたらした作品です。
トマス・タリスの主題による幻想曲
トマス・タリスとは16世紀のイングランドで活躍した作曲家でありオルガン奏者でした。ロンドンの小さな教会のオルガン奏者からたたき上げて最後は王室礼拝堂のオルガン奏者にまで上りつめた人で、テューダー朝のヘンリー8世、エドワード6世、メアリー1世とエリザベス1世という歴代の王に仕えました。
ヴォーン・ウィリアムスがこの幻想曲のもとにした「トマス・タリスの主題」とは、彼が1567年に書いた「大主教パーカーのための詩編曲」の第3曲の旋律です。
ヴォーン・ウィリアムスはこの偉大なオルガン奏者に敬意を表したのか、単純な弦楽合奏としてこの作品を仕上げるのではなく、二組の弦楽合奏(一組は通常の弦楽合奏、もう一つは少し離れた場所に各パート二人からな小規模の弦楽合奏と指定)と、一組の弦楽四重奏によってオルガン的な響きを実現しています。
グリーンスリーヴスによる幻想曲
おそらく、ヴォーン・ウィリアムスにとっては不満でしょうが、彼の作品の中ではもっとも有名な作品です。何故ならば、その「有名」さの大部分がイングランドの古い歌「グリーンスリーヴス」に依存しているからです。
この作品はもともとはオペラ「恋するサー・ジョン(Sir John in Love)」の第3幕の間奏曲としてかかれたものであり、さらにその間奏曲をラルフ・グリーヴズ(Ralph Greaves)が編曲して独立させたのが「グリーンスリーヴスによる幻想曲」です。楽器編成は弦楽合奏を主体としながらそこにハープとフルートが追加されています。
とは言え、その編曲はヴォーン・ウィリアムス自身も気に入ったようで、1934年に本人の指揮で初演されています。
と言うことで、この作品の著作権関係が心配になったのですが、調べてみると編曲者である「ラルフ・グリーヴズ」の権利も既に消滅していました。
弦楽合奏の甘さよりは引き締まった造形が前に出ています
アンソニー・コリンズのプロフィールはザッとこんな感じらしいです。
1893年にイギリスのサセックス州ヘイスティングスに生まれる。
17歳でヘイスティングス市立管弦楽団に入団してヴィオラ奏者を務める。
第一次世界大戦が始まると、英国陸軍兵士として4年間従軍する。
戦争が終わると王立音楽大学でリヴァードにヴァイオリンを、ホルストに作曲を学ぶ。
ロンドン交響楽団でヴィオラの首席奏者をつとめる。あわせて、コヴェント・ガーデン王立歌劇場でもヴィオラを演奏。
1936年(43歳)でオーケストラの職を辞任して、作曲と指揮活動に専念する。
1937年に映画「ヴィクトリア女王」の音楽が大成功を収めて一躍有名になる。
1938年にロンドン交響楽団でエルガーの交響曲を指揮してコンサート指揮者としてデビューを果たす。
第二次世界大戦が始まるとアメリカに渡り、映画音楽の作曲家兼指揮者として活躍する。
戦争が終わると英国に戻るが、1953年には再びロサンジェルスに渡り、以後は同地を拠点に亡くなるまでの10年間を英米往復しながら過ごす。
1963年にアメリカのロサンジェルスで亡くなる。
映画音楽などで活躍するとクラシック音楽の世界では一段低く見られる風潮があったことが、結果として彼をアメリカに追いやったのかもしれません。
私の中のコリンズは、シベリウスの交響曲全集を完成させた指揮者というイメージで、その快速テンポと豪快なダイナミズムを基調とした男性的なシベリウス像はライト・クラシックや映画音楽の作曲家というイメージはなかなか上手く結びつきません。
そして、このヴォーン・ウィリアムスやエルガーの作品を集めた「English music for strings」というアルバムでも、弦楽合奏の甘さよりは引き締まった造形が前に出ています。
どこか、「映画音楽家とか言ってなめんなよ!」みたいなプライドが感じられるといえば深読みにすぎるでしょうか。
なお、この録音のプロデューサーは「DECCA SOUND」の基礎を築いた立役者の一人である「Victor Olof(ヴィクター・オロフ)」がつとめています。そして、伝説の録音エンジニアと言われるようになる「Kenneth Wilkinson(ケネス・ウィルキンソン)」はエルガーの「ファルスタッフ - 交響的習作」でバランス・エンジニアとして参加しています。
そう言えば、彼のシベリウス交響曲全集も「Kenneth Wilkinson」が担当していました。そう言う意味では録音に恵まれた人だったと言えそうです。
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