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ハイドン:交響曲第92番 ト長調 Hob.I:92 「オックスフォード」


ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 ウィーン交響楽団 1962年4月録音

Haydn:Symphony No.92 in G major, Hob.I:92 "Oxford" [1.Adagio - Allegro spiritoso]

Haydn:Symphony No.92 in G major, Hob.I:92 "Oxford" [2.Adagio]

Haydn:Symphony No.92 in G major, Hob.I:92 "Oxford" [3.Menuet. Allegretto - Trio]

Haydn:Symphony No.92 in G major, Hob.I:92 "Oxford" [4.Presto]


ハイドンの「エロイカ」

この作品は、これに続くザロモンセットと比べても遜色のない内容を持っています。と言うよりも、ここでハイドンは明らかに飛躍しています。彼が今まで書き続けてきた交響曲の総決算として一つ高い次元に突き抜けた作品ということで、これをハイドンの「エロイカ」と呼ぶ人もいます。
この作品を聞いてまず感じることは響きの豊かさです。それはオーケストラの可能性を広げるものであり、交響曲という形式の可能性を押し広げるものです。そして、その可能性は一連のザロモンセットを突き抜けてベートーベンのエロイカにまで到達する歴史的価値を持っているように思います。

なお、この作品はパリ交響曲の依頼者であるドニー伯爵からの依頼で書かれたものですが、後にオックスフォード大学から博士号を授与されたときのお礼としてこの交響曲を自らの指揮で演奏したために、「オックスフォード」というニックネームがつけられました。巷間、この作品は博士号が授与された事への謝礼として作曲されたといわれることがありますが、それは誤りです。

交響曲の発展史を概観できる演奏


サヴァリッシュのアプローチを考えれば、ハイドンのシンフォニーとはとても相性が良いだろうと言うことは容易に想像がつきます。
そして、その事は実際その通りなのですが、あらためて聞き直してみると幾つかの新しい発見(と言うほど大したものではないのですが^^;)がありました。

まず一つめは、低声部をしっかりと鳴らすことで、ピラミッド形のどっしりとした響きで作品を構成していることです。もう少しすっきりとした細めの響きで音楽を形作っていると予想したのですが、思いの外に低声部が分厚かったので驚きました。
こういう響きの作り方はワルターなんかは徹底していて、小ぶりな編成と言われている最晩年のコロンビア響とのステレオ録音でも、かなりどっしりとした響きを保持していました。

音楽の根幹はまずは低声部であり、そこをどっしりと鳴らした上にそれ以外の響きを足し算していくというのはヨーロッパの伝統だと思うのですが、サヴァリッシュもまたその様な伝統の中で自らの音楽を作り上げてきたんだなと納得させられます。
その意味では、細身ですっきりとした響きで音楽を形作っていくピリオド演奏や、それに影響を受けた最近のモダン楽器による演奏に慣れた耳からすればいささか違和感を感じるかもしれません。
ただし、サヴァリッシュの棒は、その様な低声部の分厚めの響きが足手まといになることはなく、それなりに軽快に動き回っています。ウィーン響もそのようなサヴァリッシュの棒にしっかりとこたえているのは大したものです。

二つめに感じたのは、サヴァリッシュはこのハイドン最晩年の交響曲をベートーベンの交響曲にまっすぐに繋がっていく作品としてとらえていることがよく分かる演奏だと言うことです。サヴァリッシュは、この「軍隊」とか「時計」とあだ名が付いたハイドンの交響曲を、その様なあだ名に相応しい小柄で可愛いシンフォニーとしては構築していません。

今さら言うまでもないことですが、ベートーベンの最大の功績の一つは、それまでの人々が想像もしなかった領域にまでデュナーミクを拡大したことです。楽器を次々と積み重ねていくことで実現される圧倒的なフィナーレへの突進は、その時代の人にとっては時には暴力的と思えたらしいのですが、それでもその事を通して、音楽というものがかくも巨大な世界を表現しうることを誰の耳にも分かる形で提示したのでした。
彼は、ハイドンのスコアに書かれている音符は尊重しながら、それを可能な範囲の中でダイナミックレンジを拡大しようとしているのです。
そして、そうやって実現された世界は、疑いもなくベートーベンのファーストシンフォニーに直結していく世界です。

いつも思うことですが、こうやって一人の音楽家の演奏を集中的に聞くことでその人の姿が少しずつ明らかになっていくというのは、実にもって知的好奇心をかき立ててくれる経験だと言えます。

<追記>
ザロモンセットの第2期に当たる2曲(「軍隊」と「時計」)に関してはかなりダイナミックに鳴らしていたのですが、ここで紹介している第1期の94番「驚愕」やそれ以前の92番「オックスフォード」の場合はそのダイナミクスはかなり抑制的に扱われています。
ある意味では、こちらの方が、一般的に想像されるハイドンの交響曲の姿に近いのかもしれません。
そう考えれば、この2曲からザロモンセット第2期の2作品、そしてベートーベンのシンフォニーに至る道筋をサヴァリッシュの棒で聞けば、何となく交響曲という形式の発展史みたいなものがたどれるのかもしまれません。

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