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カーゾン(Clifford Curzon)|シューベルト:さすらい人幻想曲, D760
シューベルト:さすらい人幻想曲, D760
(P)クリフォード・カーゾ:1949年7月19日~20日録音
Schubert:さすらい人幻想曲
シューベルトのピアノ曲の中では異彩をはなつ存在
この作品はシューベルト自身によって「幻想曲」と名付けられており、さらに歌曲「さすらい人」のメロディが用いられれている事で、一般的には「さすらい人幻想曲」と呼ばれています。このネーミングが実にロマンティックであり、愛好者の多い作品です。
さらに、他のシューベルト作品と比べると華やかな技巧がちりばめられていて聴き応えのある作品となっていることも多くの人に好まれる一因かもしれません。決してピアノが上手でなかったシューベルトは最後までこの自作が弾きこなせずに「こんな作品は悪魔にでも弾かせろ」と言ったエピソードは有名です。
この作品は全曲が切れ目なしに演奏されるので単一楽章のピースのように聞こえますが、よく聞いてみると調性やテンポがハッキリと途中で変化しますから、形式的には4楽章構成を持ったソナタ形式だとも言えます。
しかし、その様にとらえると、いわゆる第1楽章に当たる部分では明らかに再現部が欠落していますし、全ての楽章が一つの主題によって強力に統一されているという点で、後の循環形式を思わせるような側面も持っています。
そう言う意味で、数あるシューベルトのピアノ作品の中でも異彩をはなつ存在だと言わねばなりません。
そのために、研究者の中にはあえてソナタ形式という枠の中にこの作品を押し込めるのではなく、歌曲「さすらい人」の旋律をもとにした自由な即興を古典的なソナタ形式の方法論を駆使しながら追求した作品だととらえる人もいます。つまり、シューベルトのこの天才的な創造物を既存の形式に無理矢理押し込めるのではなく、シューベルト自身が名付けたように、「幻想曲」としてあるがまにとらえようと言う意見です。
一概には言えませんが、昔のピアニストはソナタ形式ととらえて演奏する人が多かったようですが、昨今は自由な幻想曲ととらえて手練手管を弄する人が多いように思うのですがいかがなものでしょうか。
きちんとした端正な演奏
カーゾンと言えばセルが認めた数少ないピアニストとして有名です。録音嫌いで有名で、若い時代に残した録音の多くも破棄してしまったというエピソードは有名です。
演奏の途中で指が滑って隣の鍵盤に触れてしまうことを防ぐために、鍵盤をヤスリで削っていたという話も残っています。
つまり神経質なほどに完璧主義者だったようで、その様な姿勢が同じく完璧主義者のセルには好ましく思えたのでしょう。
とにかく、名人芸をひけらかせてバリバリ弾き倒すタイプとは対極にあります。壊れそうなほどの繊細なタッチと、何よりも弱音部の美しさが持ち味の人でした。コンサートホールを名人芸で圧倒するのではなく、分かる人だけ分かってもらえばいいと言うタイプです。
その様なスタンスは、シューベルトのピアノ作品とはとても相性がいいように思います。昨今のピアニストは、シューベルトをネッチリト演奏する人が多いようで辟易することが多いのですが、ここでのカーゾンは実に端正であっさりと演奏しています。しかし、カーゾンならではの繊細なガラス細工のような音色で歌いつがれていくと、そこからシューベルトならではなのはかない悲しみが浮かび上がってきます。
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よせられたコメント
2008-10-18:カーゾンが一番!!
- ポリーニ、リヒテル、ブレンデル、キーシンを聴いてみたが、やはりカーゾンが一番いいと思う。
私の耳には最近のピアニストの演奏が、どうも「低俗で下品な」しかも「聴衆を意識し過ぎた不自然なもの」に聴こえる。
カーゾンの演奏は曲そのものの良さを引き出すために、過度に誇張した表現を排し演奏に徹底しているところが、逆にモダンなセンスと奥ゆかしさを感じさせる。
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