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バッハ:ブランデンブルク協奏曲第2番 ヘ長調 BWV1047

(Vn & Con)パブロ・カザルス マールボロ音楽祭管弦楽団 (P)ルドルフ・ゼルキン (vn)アレクサンダー・シュナイダー 他 1965年7月15日録音

Bach:Brandenburg Concerto No.2 in F major, BWV 1047 [1.(no tempo indication)]

Bach:Brandenburg Concerto No.2 in F major, BWV 1047 [2.Andante]

Bach:Brandenburg Concerto No.2 in F major, BWV 1047 [3.Allegro assai]


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就職活動?

順調に見えたケーテン宮廷でのバッハでしたが、次第に暗雲が立ちこめてきます。楽団の規模縮小とそれに伴う楽団員のリストラです。

バッハは友人に宛てた書簡の中で、主君であるレオポルド候の新しい妻となったフリーデリカ候妃が「音楽嫌い」のためだと述べていますが、果たしてどうでしょうか?
当時のケーテン宮廷の楽団は小国にしては分不相応な規模であったことは間違いありませんし、小国ゆえに軍備の拡張も迫られていた事を考えると、さすがのレオポルドも自分の趣味に現を抜かしている場合ではなかったと考える方が妥当でしょう。

バッハという人はこういう風の流れを読むには聡い人物ですから、あれこれと次の就職活動に奔走することになります。

今回取り上げたブランデンブルグ協奏曲は、表向きはブランデンブルグ辺境伯からの注文を受けて作曲されたようになっていますが、その様な文脈においてみると、これは明らかに次のステップへの就職活動と捉えられます。
まず何よりも、注文があったのは2年も前のことであり、「何を今さら?」という感じですし、おまけに献呈された6曲は全てケーテン宮廷のために作曲した過去の作品を寄せ集めた事も明らかだからです。
これは、規模の小さな楽団しか持たないブランデンブルグの宮廷では演奏不可能なものばかりであり、逆にケーテン宮廷の事情にあわせたとしか思えないような変則的な楽器編成を持つ作品(第6番)も含まれているからです。

ただし、そういう事情であるからこそ、選りすぐりの作品を6曲選んでワンセットで献呈したということも事実です。


  1. 第1番:大規模な楽器編成で堂々たる楽想と論理的な構成が魅力的です。

  2. 第2番:惑星探査機ボイジャーに人類を代表する音楽としてこの第1楽章が選ばれました。1番とは対照的に独奏楽器が合奏楽器をバックにノビノビと華やかに演奏します。

  3. 第3番:ヴァイオリンとヴィオラ、チェロという弦楽器だけで演奏されますが、それぞれが楽器群を構成してお互いの掛け合いによって音楽が展開させていくという実にユニークな作品。

  4. 第4番:独奏楽器はヴァイオリンとリコーダーで、主役はもちろんヴァイオリン。ですから、ヴァイオリン協奏曲のよう雰囲気を持っている、明るくて華やかな作品です。

  5. 第5番:チェンバロが独奏楽器として活躍するという、当時としては驚天動地の作品。明るく華やかな第1楽章、どこか物悲しい第2楽章、そして美しいメロディが心に残る3楽章と、魅力満載の作品です。

  6. 第6番:ヴァイオリンを欠いた弦楽合奏という実に変則な楽器編成ですが、低音楽器だけで演奏される渋くて、どこかふくよかさがただよう作品です。




どうです。
どれ一つとして同じ音楽はありません。
ヴィヴァルディは山ほど協奏曲を書き、バッハにも多大な影響を及ぼしましたが、彼にはこのような多様性はありません。
まさに、己の持てる技術の粋を結集した曲集であり、就職活動にはこれほど相応しい物はありません。

しかし、現実は厳しく残念ながら辺境伯からはバッハが期待したような反応はかえってきませんでした。バッハにとってはガッカリだったでしょうが、おかげで私たちはこのような素晴らしい作品が散逸することなく享受できるわけです。

その後もバッハは就職活動に力を注ぎ、1723年にはライプツィヒの音楽監督してケーテンを去ることになります。そして、バッハはそのライプツィヒにおいて膨大な教会カンタータや受難曲を生み出して、創作活動の頂点を迎えることになるのです。


生きる事への肯定

この録音を「ステレオ録音ではあるものの古色蒼然たる音質であり、歴史的録音を聞く風情がある」と評しているページがあって驚いてしまいました。いったい、どんなシステムで聞けばこの録音が「古色蒼然たる歴史的録音の風情」で鳴るのかと、逆に興味がそそられる指摘です。(^^;
聞けば分かるように、ピリオド楽器を使った演奏とは全く世界観が違います。分厚くてどっしりとした低声部が音楽全体を支えていて、独奏楽器の響きの艶やかな響きも見事にすくい取られています。古色蒼然たるどころか、この時代の水準を大きく上回っていますし、今でもこれを上回ることのできない薄っぺらい録音がざらに存在します。

また、この演奏をただのお祭り気分の音楽として、それほど深いものを求めないのであるならばそれなりに楽しめるという指摘もあります。。
なるほど、多くの人にとって「精神性」というのは眉間にしわを寄せて世界の苦悩を引き受けることと同義なのかもしれません。

確かに「この世は涙に谷であり、流す涙だけが清らかである」というのは一つの真実です。その涙の美しさに心を寄せて芸術として昇華するところに「精神性」のよりどころがあることは否定しません。

しかし、それはフランス革命以降の近代社会が持ち得たものであり、バッハやモーツァルトが生きた時代の精神とは相容れないものです。彼らの時代にあって生きると言うことは苦悩と向き合うことではなくて、それは疑いもなく喜ばしいこととして素直に向き合っていたのです。
ですから、生きることは喜びであり、その喜びに心を寄せて芸術として昇華することもまた「精神性」のよりどころとなるのです。
かつて、モーツァルトに関してこんな風に書いたことがあります。

「モーツァルトは本質的に18世紀の人(近世)でした。
彼がお疾呼やウンコを連発して騒々しく大騒ぎするのも、ト短調のシンフォニーやクインテットを創作するのも、喜ばしい人生を構成する等しく価値のある要素でした。下品なものは偉大なるものへと止揚されなければならないと考えるのは近代の精神であって、近世の人にとってそれらが同じ人物の中に共存していても何の不思議でもありませんでした。
確かにモーツァルト音楽の中に「かなしさ」を見出したのは近代の精神が持つ慧眼でした。しかし、それ一色でモーツァルトを塗りつぶすならば、大きな過ちを犯すことになります。
モーツァルトの音楽の根底には何よりも喜ばしい人生を肯定する屈託のなさが腰を据えています。
そして、その屈託のなさにときおり影が差したとしても、それは「近代的自我の苦悩」などとは全く異なるものでした。」

そして、生きることの素晴らしさをモーツァルト以上に歌い上げたのがバッハでした。

彼の音楽の根底に流れているのは「生きる事への肯定」でした。

そうとらえるならば、このカザルスの音楽を貫いているものもまた「生きる事への肯定」です。
2つの大戦を経験し、母国スペインのフランコ政権に命をかけて抗議し続けた男がその晩年に到達した世界がここには刻み込まれています。その事を思えば、いかにゼルキンといえどもチェンバロに変えてピアノが使用されていることに違和感を感じるなどと言うのは小さな話です。

なお、この録音は初出年がなかなか確定できなかったのですが、漸くにして1965年にアメリカで全曲のリハーサル場面も収録した豪華ボックス盤としてリリースされていることが確認できました。(Columbia Masterworks ?? M2S 731)
また、録音年に関しても全曲が1964年7月6日?6日に録音されたというデータが出回っているのですが、Sonyが「カザルス不滅の記念碑」としてリリースしたシリーズでは第2番だけが1965年7月15日に録音されたとなっていますので、それを採用しました。
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2018-07-12:藤原正樹




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