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ベートーベン:交響曲第1番 ハ長調 作品21

マルケヴィッチ指揮 ラムルー管弦楽団 1960年10月録音

Beethoven:Symphony No.1 in C major, Op.21 [1.Adagio molto - Allegro con brio]

Beethoven:Symphony No.1 in C major, Op.21 [2.Andante cantabile con moto]

Beethoven:Symphony No.1 in C major, Op.21 [3.Menuetto. Allegro molto e vivace]

Beethoven:Symphony No.1 in C major, Op.21 [4.Finale. Adagio - Allegro molto e vivace]


栴檀は双葉より芳し・・・?

ベートーベンの不滅の9曲と言われ交響曲の中では最も影の薄い存在です。その証拠に、このサイトにおいても2番から9番まではとっくの昔にいろいろな音源がアップされているのに、何故か1番だけはこの時期まで放置されていました。今回ようやくアップされたのも、ユング君の自発的意志ではなくて、リクエストを受けたためにようやくに重い腰を上げたという体たらくです。

でも、影は薄いとは言っても「不滅の9曲」の一曲です。もしその他の凡百の作曲家がその生涯に一つでもこれだけの作品を残すことができれば、疑いもなく彼の代表作となったはずです。問題は、彼のあとに続いた弟や妹があまりにも出来が良すぎたために長兄の影がすっかり薄くなってしまったと言うことです。

この作品は第1番という事なので若書きの作品のように思われますが、時期的には彼の前期を代表する6曲の弦楽四重奏曲やピアノ協奏曲の3番などが書かれた時期に重なります。つまり、ウィーンに出てきた若き無名の作曲家ではなくて、それなりに名前も売れて有名になってきた男の筆になるものです。モーツァルトが幼い頃から交響曲を書き始めたのとは対照的に、まさに満を持して世に送り出した作品だといえます。それは同時に、ウィーンにおける自らの地位をより確固としたものにしようと言う野心もあったはずです。

その意気込みは第1楽章の冒頭における和音の扱いにもあらわれていますし、、最終楽章の主題を探るように彷徨う序奏部などは聞き手の期待をいやがうえにも高めるような効果を持っていてけれん味満点です。第3楽章のメヌエット楽章なども優雅さよりは躍動感が前面にでてきて、より奔放なスケルツォ的な性格を持っています。
基本的な音楽の作りはハイドンやモーツァルトが到達した地点にしっかりと足はすえられていますが、至る所にそこから突き抜けようとするベートーベンの姿が垣間見られる作品だといえます。 。


マルケヴィッチ版に込められた執念の結実

マルケヴィッチのベートーベンと言えば基本的には以下のラムルー管との録音がメインとなります。第3番「英雄」はシンフォニー・オブ・ジ・エアとの録音(MONO)が残っていて、それはそれで素晴らしい演奏なのですが、彼が己のベートーベンを問うという意気込みで取り組んだのラムルー管との録音であったことは間違いありません。


  1. 交響曲 第1番 ハ長調 作品21 1960年10月録音

  2. 交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」 1959年10月録音

  3. 交響曲 第6番 ヘ長調 作品68 「田園」 1957年10月~11月録音(MONO)

  4. 交響曲 第8番 ヘ長調 作品93 1959年10月録音

  5. 交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱」 1961年1月録音



当然の事ながらマルケヴィッチにしてみれば全集として完成させる意気込みだったと思いますが、そのあまりにも厳しい訓練に音を上げたラムルー管が反旗を翻して録音は頓挫してしまいました。
聞いてみればすぐに分かることですが、あの緩いことで有名だったラムルー管が別人のように引き締まっています。
それでいながら、例えば8番の第3楽章のトリオでのフレンチホルンの響きなどは、まさにフランスのオケならではの美しさにが溢れていのですから、ここまで鍛え上げたマルケヴィッチの手腕はたいしたものです。

そう言えば、フランスのオケによるベートーベンのシンフォニーというのは意外と録音が少ないです。
全集としてまとまっているものとなるとシューリヒト&パリ音楽院管弦楽団による録音くらいしか思い浮かびません。そして、あの録音もまたドイツのオケの重厚な響きによるベートーベンではなく、まるで「ステンドグラスのようなベートーヴェン」と評されたものでした。(録音は悪いですが・・・)
それだけに、この録音が頓挫してしまったことは、返す返すも残念なことでした。

さらに、この録音を紹介知るならば絶対に触れておかなければいけないのは、いわゆる「マルケヴィッチ版」と呼ばれる楽譜に関わる話です。この手の話は詳しくないので本当は避けたいのですが(^^;、この録音を紹介する上では避けて通れない話題なので簡潔にまとめておきます。

今さら確認するまでありませんが、ベートーベンの楽譜と言えば、長きにわたって19世紀半ばに編纂された旧全集版(ブライトコプフ版)が使われていました。しかし、この旧全集版にはいろいろな問題が含まれていることは周知の事実であり、それ故に多くの指揮者は自分なりに手を加えた私家版をもっているのが普通でした。

そして、マルケヴィッチもまた、そのような旧全集に含まれる様々な問題点の見直しを行った「マルケヴィッチ版」と呼ばれる楽譜を使っていたのです。しかしながら、この「マルケヴィッチ版」は、その他の指揮者が行っていたような演奏上の習慣として劇場的に継承されてきた手直しという領域をはるかに超えるもので、最終的には全3巻からなる「マルケヴィッチ版」がペータース社から出版されるに至るほどのものだったのです。

ちなみに、旧全集版に対する批判的研究をまとめる形で数多くの校訂版が出版されるようになるのは1970年代に入ってからで、その嚆矢となったのが、ペータース版と呼ばれるものでした。このペータース版は当時の東ドイツがベートーベンの「新全集」を目指す事業としてスタートさせたものでした。
そして、そのペータース社は自社の名前が付いた校訂版を出版しながら、同じような時期にマルケヴィッチによる校訂版もあわせて出版したのです。
この事実は、マルケヴィッチの仕事が、演奏上の習慣として引き継がれてきたスコアの改変などとは全くレベルの違う本格的な研究に基づくものであることを示しています。

ただし、90年代にはいるとベーレンライター版が出版されます。(^^v
この「ベーレンライター版」の影響力はよく知られてるように絶大なもので、あっという間にベートーベンと言えばベーレンライター版という流れが定着してしまいました。

そうなると、このマルケヴィッチ版に注目するような指揮者はほとんどいなくなってしまいました。
結果としてマルケヴィッチ版を使った録音というのはきわめてレアなものとなり、これからもこの版を使った演奏や録音は滅多に現れそうにもないのです。

それだけに、残りの4曲(2?4番と7番)もラムルー管との録音が残ってほしかったと、(そして、マルケヴィッチ自身もそれを強く望んでいたと思うだけに)切に思わずにはおれないのですが、それもまた死んだこの年を数えるような仕儀です。

それでは、このマルケヴィッチ版の特徴が何処にあるのでしょうか?
残念ながら、と言うべきか、当然と言うべきか(^^;、そう言うことを専門的に紹介できる資料も能力も持ち合わせていません。

ただ、このラムルー管との録音を聞いた上での感想として述べさせてもらえれば、明晰さへの強い指向です。
ただし、この指向は、マルケヴィッチという指揮者の本能でもありますから、それがマルケヴィッチ版のスコアに依存する問題なのか、指揮者マルケヴィッチの手柄なのかは区別はつきません。
しかし、このラムルー管との録音は、その様な私家版を生み出すほどの執念が結実したものであったことは疑いがありませんし、逆に言えば、そこまでの執念を込めたからこそ、ラムルー管も音を上げたと言えるのでしょう。

交響曲第1番 ハ長調 作品21

この第1番の録音は先に紹介した8番と較べるとそれほど苛烈さは前面に出ていません。しかし、同じくマルケヴィッチが録音したハイドンの 交響曲第104番 ニ長調「ロンドン」と続けて聞いてみれば、この二つのシンフォニーがきわめて近い兄弟関係にあることがよく分かります。
マルケヴィッチのハイドンは、ハイドンのシンフォニーにしてはあまりにも堂々たるシンフォニーに仕上がっています。そして、こちらの1番の方はこの上もなく古典的な均衡に満ちたシンフォニーとして立ち現れています。
古典派職人とも言うべきハイドンと、異形の巨人ベートーベンがその接点において歩み寄ったような風情がこの二つの録音には漂っています。

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