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ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」


カレル・アンチェル指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1961年12月6日録音


望郷の歌

ドヴォルザークが、ニューヨーク国民音楽院院長としてアメリカ滞在中に作曲した作品で、「新世界より」の副題がドヴォルザーク自身によって添えられています。

この作品はその副題が示すように、新世界、つまりアメリカから彼のふるさとであるボヘミアにあてて書かれた「望郷の歌」です。

この作品についてドヴォルザークは次のように語っています。
「もしアメリカを訪ねなかったとしたら、こうした作品は書けなかっただろう。」
「この曲はボヘミヤの郷愁を歌った音楽であると同時にアメリカの息吹に触れることによってのみ生まれた作品である」

その言葉に通りに、ボヘミヤ国民楽派としてのドヴォルザークとアメリカ的な語法が結びついて一体化したところにこの作品の一番の魅力があるといえます。
さらに、過去の2作がかなりロマン派的な傾向を強めていたのに対して、この9番は古典的できっちりとしたたたずまいを見せていることも、分かりやすさと親しみやすさを増しているようです。

初演は1883年、ドヴォルザークのアメリカでの第一作として広範な注目を集め、アントン・ザイドル指揮のニューヨーク・フィルの演奏で空前の大成功を収めました。

民族性をきわめて端正な形で造形し、表出させた演奏


チェコフィルと「新世界より」となれば、これは鉄板の組み合わせで、指揮者が誰であろうと悪くなりようがありません。ヴァーツラフ・ターリヒ、ラファエル・クーベリック(彼だけは常任時代ではなくベルリンの壁が崩れてからの客演でのライブ)、カレル・アンチェル、ヴァーツラフ・ノイマン、イルジー・ビエロフラーヴェクと並べてみても、どれもこれもが素晴らしい録音です。
それ以後のゲルト・アルブレヒト、ウラディーミル・アシュケナージ (いろいろあったみたいですが・・・)、ズデニェク・マーカルらの「新世界より」は聞いたことはないので何とも言えませんが、それでもしっかりと録音は残しています。
それだけに、チェコフィルの常任をつとめながら「新世界より」を録音しなかったエリアフ・インバルはかなり異色です。(彼はフィルハーモニア管とは録音しています)

そして、これは断言しますが、そう言うはずれのない名盤揃いのチェコフィルの「新世界より」から一枚選べと言われれば、私は迷うことなく、このアンチェルの61年盤を選びます。アンチェルは1958年に、ウィーン交響楽団とも「新世界より」を録音していますが、その仕上がり具合には歴然たる差があります。
聞いてみてすぐ分かるのは、オケの力量の差です。この時代のチェコフィルは間違いなく世界の一流オケと言い切って性能を持っています。そして、第二楽章の歌わせ方などを聞くと、チェコの民族性みたいなものが体に染み込んでいないと表現できないものがあるようです。

とは言え、ウィーン響との58年盤も、それだけを聞くならば悪い演奏ではありません。また、アンチェルは手兵であるチェコフィル以外との録音はあまり多くないので、そう言う面での興味というか資料的価値もあるので録音はアップしておきたいと思います。

ただし、アンチェルが求める方向性は、ウィーン響との58年盤も、手兵であるチェコフィルとの61年盤も全く同じです。
アンチェルの表現は基本的にはトスカニーニからライナー、そしてジョージ・セル屁と引き継がれていった様式と同じ方向性をもっていると思います。特別なことはしないで、真っ向からあるがままに音楽を表現していく姿を見ると(聞くと?)、やはりシルヴェストリなんかの録音はあざとすぎるな、と言う気にさせられます。
そして、チェコフィルの一切混濁を見せない透明感に溢れた響きはクリーブランド管とも十分に肩を並びかけるだけの優れものです。

ただし、セルの59年盤を貫く強い緊張感のようなものはアンチェル盤にはありません。
そこから聞こえてくるのは、表現する言葉が難しいのですが、何処かシンとした静けさのようなものです。もちろん、音は常に鳴り響いているのですから静かなはずはないのですが、その音楽の本質的な部分が常にシンとしているのです。
これは何とも言えず不思議な感覚なのですが、おそらくアンチェル以外の演奏から聞いたことがないような気がします。
そして、私がアンチェルという指揮者に瞠目させられた一番の理由がこの「静けさ」です。

それから、両端の楽章の奇をてらわない端正な造形はセルを彷彿ととさせますが、中間の二楽章は明らかにアンチェルの演奏からしかいくことの出来ない世界が広がっています。パッと聞いた感じではここもまた端正に造形されているのですが、音楽の形はかなりデフォルメされているような気がします。そして、このデフォルメ(だと思うのですが)こそが、彼とチェコフィルに染み込んだチェコの民族性ではないのかと思うのです。

結果としては、この二人は非常に似通っていながら、本質的には作品が持つ純粋な音楽性で貫き通したセルに対して、チェコの民族性をきわめて端正な形で造形し、表出させたアンチェルという違いが出たように思います。
そして、かなり思い切った言い方をすれば、かつては私の中では絶対だったセルの59年盤が、このアンチェルの61年盤と出会うことで、疑いもなくツー・トップになったような気がしています。

とは言え、トスカニーニもライナーもケルテスも、そしてフリッチャイもバーンスタインもみんなみんな素晴らしいので、こういう決めつけ方は意味はないのですが、それほどまでにこのアンチェル盤に感心させられたと言うことです。

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