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スメタナ:「我が祖国」

カレル・アンチェル指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1963年1月7,10,13&14日録音

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [1.The High Castle]

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [2.Die Moldau]

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [3.Sarka]

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [4.From Bohemian Woods and Fields]

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [5.Tabor]

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [6.Blanik]


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「我が祖国」=「モルダウ」+「その他大勢」・・・?


スメタナの全作品の中では飛び抜けたポピュラリティを持っているだけでなく、クラシック音楽全体の中でも指折りの有名曲だといえます。ただし、その知名度は言うまでもなく第2曲の「モルダウ」に負うところが大きくて、それ以外の作品となると「聞いたことがない」という方も多いのではないでしょうか。
言ってみれば、「我が祖国」=「モルダウ」+「その他大勢」と言う数式が成り立ってしまうのがちょっと悲しい現実と言わざるをえません。でも、全曲を一度じっくりと耳を傾けてもらえれば、モルダウ以外の作品も「その他大勢」と片づけてしまうわけにはいかないことを誰しもが納得していただけると思います。

組曲「我が祖国」は以下の6曲から成り立っています。しかし、「組曲」と言っても、全曲は冒頭にハープで演奏される「高い城」のテーマが何度も繰り返されて、それが緩やかに全体を統一しています。
ですから、この冒頭のテーマをしっかりと耳に刻み込んでおいて、それがどのようにして再現されるのかに耳を傾けてみるのも面白いかもしれません。

第1曲「高い城」

「高い城」とは普通名詞ではなくて「固有名詞」です。(^^;これはチェコの人なら誰しもが知っている「年代記」に登場する「王妃リブシェの予言」というものに登場し、言ってみればチェコの「聖地」とも言うべき場所になっています。ですから、このテーマが全曲を統一する核となっているのも当然と言えば当然だと言えます。

第2曲「モルダウ」

クラシック音楽なんぞに全く興味がない人でもそのメロディは知っていると言うほどの超有名曲です。水源地の小さな水の滴りが大きな流れとなり、やがてその流れは聖地「高い城」の下を流れ去っていくという、極めて分かりやすい構成とその美しいメロディが人気の原因でしょう。

第3曲「シャールカ」

これまたチェコの年代記にある女傑シャールカの物語をテーマにしています。シャールカが盗賊の一味を罠にかけてとらえるまでの顛末をドラマティックに描いているそうです。

第4曲「ボヘミアの森と草原より」

私はこの曲が大好きです。スメタナ自身も当初はこの曲で「我が祖国」の締めにしようと考えていたそうですが、それは十分に納得の出来る話です。牧歌的なメロディを様々にアレンジしながら美しいボヘミアの森と草原を表現したこの作品は、聞きようによっては編み目の粗い情緒だけの音楽のように聞こえなくもありませんが、その美しさには抗しがたい魅力があります。

第5曲「ターボル」

これは歴史上有名な「フス戦争」をテーマにしたもので、「汝ら神の戦士たち」というコラールが素材として用いられています。このコラールはフス派の戦士たちがテーマソングとしたもので、今のチェコ人にとっても涙を禁じ得ない音楽だそうです。(これはあくまでも人からの受け売り。チェコに行ったこともないしチェコ人の友人もいないので真偽のほどは確かめたことはありません。)スメタナはこのコラールを部分的に素材として使いながら、最後にそれらを統合して壮大なクライマックスを作りあげています。

第6曲「ブラニーク」

ブラニークとは、チェコ中央に聳える聖なる山の名前で、この山には「聖ヴァーツラフとその騎士たちが眠り、そして祖国の危機に際して再び立ち上がる」という伝承があるそうです。全体を締めくくるこの作品では前曲のコラールと高い城のテーマが効果的に使われて全体との統一感を保持しています。そして最後に「高い城」のテーマがかえってきて壮大なフィナーレを形作っていくのですが、それがあまりにも「見え見えでクサイ」と思っても、実際に耳にすると感動を禁じ得ないのは、スメタナの職人技のなせる事だと言わざるをえません。


絶望を乗り越えて

カレル・アンチェルという名前をどれほどの人が記憶にとどめているでしょうか。

かくいう私もまた、チェコフィルの長い歴史における一人の指揮者としてその名前を記憶にとどめているだけで、その録音をほとんど聞いたことがないことに気づかされました。
チェコフィルの黄金期の一つが戦前のターリッヒの時代であったとすれば、それと肩を並べる第二の黄金期がアンチェルの時代であったことも事実なのです。にもかかわらず、アンチェルという指揮者に対する認知度がかくも低いと言う事実に、我ながら驚いてしまった次第です。

何しろ、こういうサイトを始めてかれこれ二十年近くなると言うのに、アンチェルについて言及するのはおそらくこれが初めてなのです。
1961年まで長生きしたものの、チェコフィルとの関わりは戦前がメインであったターリッヒでさえそれなりの録音を取り上げているのですから、この欠落には驚いてしまいます。

ただ、彼の録音をまとめて聞いてみて、「なるほどそう言うことか!」と感じることがありました。
それは、アンチェルにとって意味があったのは「音楽」だけであり、それに付随する世俗的な「あれこれ」に対して全く意味を見いださなかったのではないか、と言うことです。

おそらく、この対極にある生き方をしたのがカラヤンでしょう。
もちろん、彼もまた音楽と誠実に向き合ったことは否定しませんが、その様な音楽を世に広めるための努力も惜しみませんでした。さらに言えば、それに伴って転がり込んでくるであろう「お金」や「世間的な名誉」もまた、カラヤンにとってはとっては大きなインセンティブであった事も否定できないのです。
そして、その後者の部分に対するギラついた姿に嫌悪感を感じて、かつての私も含めて少なくない人たちが「アンチ・カラヤン」になってしまったのでした。

しかし、私も年を重ねました。
そう言う営業努力によって彼の音楽は世界の隅々にまで届けられ、結果としてクラシック音楽という業界もまた潤ったのですから、その業績は正しく評価する必要がある事くらいは理解できるようになりました。死後三十年が経っても彼の業績が忘れられることはなく、広く世界中に流通しているのは、その様な努力を生きている間に惜しまなかったからです。

そして、その全く裏返しのことがアンチェルにあてはまるように感じられるのです。
彼の音楽を聴く限りでは、音楽以外のことには全く無頓着であったろう事が推測されます。

素晴らしい技術を開発して素晴らしい商品を作りさえすれば「売れる」という事が既に神話となったように、芸術もまたそのクオリティが高いと言うだけでは世に受け入れられないのです。己の業績を広く世に広げ後世に残そうと思えば、それなりの営業努力が必要だというのは厳然たる事実なのです。

アンチェルと言えば、いつも語られるのはナチス支配下で拘束されてアウシュビッツ収容所におくられ、そこで生まれたばかりの幼子も含めて家族全員が虐殺されたという事実です。そして、アンチェル自身はその音楽的才能によって「利用価値」があるとされて生き延びることが出来たのです。
アンチェル自身はこの事実についてほとんど語ることはなかったので、ここから述べることは私の想像にしか過ぎません。

人はこのような絶望的な状況に向き合ったときに取り得る道は三つしかないように思います。
一つは泣く、二つめは恨む、そして三つめが闘うです。

ローマの哲人セネカが語ったように、泣いて問題が解決するならば死ぬまで泣き続ければいいでしょうし、何かを恨んで問題が解決するならば死ぬまで恨み続ければいいでしょう。しかし、そんな事をしても何の解決にもならないことが明らかである以上は、立ち上がって闘い続けるしかないのです。
もちろん、泣くことも恨むことも必要な時期はあるでしょうが、いつかは泣きやみ、そして恨みを飲み込んで新しい一歩を踏み出さなければいけないのです。
そして、その一歩がアンチェルにとっては「音楽」だったはずです。
「私の人生において音楽はとても大切なものです。」と恵まれた幼少期を過ごしてきた若手の音楽家が語るのとは重みが違うのです。おそらく、アンチェルにとって音楽と向き合うと言うことはそのまま「生きる」と言うことと同義であったはずです。

そして、乗り越えた絶望が深ければ深いほど、音楽への「思いの純度」は深くなるでしょう。
彼にとっては、愛する音楽がどれほどの「真実」をもって演奏できるかが大切であり、その「真実」を実現することこそが絶望を乗り越える一歩だったはずなのです。

そして、その愛する音楽は次第に踏みにじられた祖国チェコの音楽へと収斂していくのは一つの必然だったことでしょう。
アンチェルの業績として、低迷していたチェコフィルの水準を引き上げたことと、知られざるチェコの作曲家の作品を世に広めたことの二つが指摘されます。それは、彼が絶望を乗り越えて必死の思いで歩を進めていく過程の中で必然的に成し遂げられたことだったのです。

ここで紹介している「我が祖国」は、その様なアンチェルの一つの到達点とも言うべき録音です。
この61年盤(チェコフィル)を聞けば、あのクーベリックでさえ不純物が混じり込んでいたのではないかという気にさせられます。そして、二流のオケと指揮者が己の至らなさを糊塗するために寄りかかる偽物の民族性が、本当のの民族性とどれほどまでに隔たっているかと言うことも教えてくれます。

そして、アンチェルによって鍛え上げられたチェコフィルの素晴らしにも驚かされます。

深い感情と緊張感を失わぬピアニシモの美しさは言うまでもなく、どれほどのフォルテシモでも一切の乱れや混濁を見せない強さにも驚かされます。そのレベルに到達するめに積み上げたトレーニングは厳しいものだった想像されますが、その厳しさにオケのメンバーが耐えられたのは、それが音楽のために絶対に必要だというアンチェルの求めの真摯さを共有できたからでしょう。

どうやら、私は50年代と60年代の録音さえあれば、残りの人生をやり過ごせるような気がしてきました。

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2016-03-13:原 響平


2016-03-14:emanon


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