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ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」

コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 フランス国立放送管弦楽団 1957年12月9日~11日録音

Dvorak:Symphony No.9 in E minor, Op.95 "From the New World" [1.Adagio - Allegro molto]

Dvorak:Symphony No.9 in E minor, Op.95 "From the New World" [2.Largo]

Dvorak:Symphony No.9 in E minor, Op.95 "From the New World" [3.Molto vivace]

Dvorak:Symphony No.9 in E minor, Op.95 "From the New World" [4.Allegro con fuoco]


望郷の歌

ドヴォルザークが、ニューヨーク国民音楽院院長としてアメリカ滞在中に作曲した作品で、「新世界より」の副題がドヴォルザーク自身によって添えられています。

ドヴォルザークがニューヨークに招かれる経緯についてはどこかで書いたつもりになっていたのですが、どうやら一度もふれていなかったようです。ただし、あまりにも有名な話なので今さら繰り返す必要はないでしょう。
しかし、次のように書いた部分に関しては、もう少し補足しておいた方が親切かもしれません。

この作品はその副題が示すように、新世界、つまりアメリカから彼のふるさとであるボヘミアにあてて書かれた「望郷の歌」です。

この作品についてドヴォルザークは次のように語っています。
「もしアメリカを訪ねなかったとしたら、こうした作品は書けなかっただろう。」
「この曲はボヘミアの郷愁を歌った音楽であると同時にアメリカの息吹に触れることによってのみ生まれた作品である」


この「新世界より」はアメリカ時代のドヴォルザークの最初の大作です。それ故に、そこにはカルチャー・ショックとも言うべき彼のアメリカ体験が様々な形で盛り込まれているが故に「もしアメリカを訪ねなかったとしたら、こうした作品は書けなかっただろう」という言葉につながっているのです。

それでは、その「アメリカ体験」とはどのようなものだったでしょうか。
まず最初に指摘されるのは、人種差別のない音楽院であったが故に自然と接することが出来た黒人やアメリカ・インディオたちの音楽との出会いです。

とりわけ、若い黒人作曲家であったハリー・サンカー・バーリとの出会いは彼に黒人音楽の本質を伝えるものでした。
ですから、そう言う新しい音楽に出会うことで、そう言う「新しい要素」を盛り込んだ音楽を書いてみようと思い立つのは自然なことだったのです。

しかし、そう言う「新しい要素」をそのまま引用という形で音楽の中に取り込むという「安易」な選択はしなかったことは当然のことでした。それは、彼の後に続くバルトークやコダーイが民謡の採取に力を注ぎながら、その採取した「民謡」を生の形では使わなかったののと同じ事です。

ドヴォルザークもまた新しく接した黒人やアメリカ・インディオの音楽から学び取ったのは、彼ら独特の「音楽語法」でした。
その「音楽語法」の一番分かりやすい例が、「家路」と題されることもある第2楽章の5音(ペンタトニック)音階です。

もっとも、この音階は日本人にとってはきわめて自然な音階なので「新しさ」よりは「懐かしさ」を感じてしまい、それ故にこの作品が日本人に受け入れられる要因にもなっているのですが、ヨーロッパの人であるドヴォルザークにとってはまさに新鮮な「アメリカ的語法」だったのです。
とは言え、調べてみると、スコットランドやボヘミアの民謡にはこの音階を使用しているものもあるので、全く「非ヨーロッパ的」なものではなかったようです。

しかし、それ以上にドヴォルザークを驚かしたのは大都市ニューヨークの巨大なエネルギーと近代文明の激しさでした。そして、それは驚きが戸惑いとなり、ボヘミアへの強い郷愁へとつながっていくのでした。
どれほど新しい「音楽的語法」であってもそれは何処まで行っても「手段」にしか過ぎません。
おそらく、この作品が多くの人に受け容れられる背景には、そう言うアメリカ体験の中でわき上がってきた驚きや戸惑い、そして故郷ボヘミアへの郷愁のようなものが、そう言う新しい音楽語法によって語られているからです。

「この曲はボヘミアの郷愁を歌った音楽であると同時にアメリカの息吹に触れることによってのみ生まれた作品である」という言葉に通りに、ボヘミア国民楽派としてのドヴォルザークとアメリカ的な語法が結びついて一体化したところにこの作品の一番の魅力があるのです。
ですから、この作品は全てがアメリカ的なもので固められているのではなくて、まるで遠い新世界から故郷ボヘミアを懐かしむような場面あるのです。

その典型的な例が、第3楽章のスケルツォのトリオの部分でしょう。それは明らかにボヘミアの冒頭音楽(レントラー)を思い出させます。
そして、そこまで明確なものではなくても、いわゆるボヘミア的な情念が作品全体に散りばめられているのを感じとることは容易です。

初演は1893年、ドヴォルザークのアメリカでの第一作として広範な注目を集め、アントン・ザイドル指揮のニューヨーク・フィルの演奏で空前の大成功を収めました。
多くのアメリカ人は、ヨーロッパの高名な作曲家であるドヴォルザークがどのような作品を発表してくれるのか多大なる興味を持って待ちかまえていました。そして、演奏された音楽は彼の期待を大きく上回るものだったのです。

それは、アメリカが期待していたアメリカの国民主義的な音楽であるだけでなく、彼らにとっては新鮮で耳新しく感じられたボヘミア的な要素がさらに大きな喜びを与えたのです。
そして、この成功は彼を音楽院の院長として招いたサーバー夫人の面目をも施すものとなり、2年契約だったアメリカ生活をさらに延長させる事につながっていくのでした。


強烈な表現の振幅の大きさ

2月のはじめにかかったインフルエンザは大したことがなかったのですが、それに伴って誘発した喘息に苦しんでいます。かれこれ2週間ほど経つのですが、本当に「微速前進」としか言いようのない回復状態です。少しずつ良くなっているのは間違いなのですが、咳き込む状態は延々と続いているので気力・体力ともに消耗状態が続いています。
そんなわけで、このくすぶり状態を吹っ飛ばしてくれるような演奏はないものかと探していて見つけ出してきたのが、シルヴェストリ&フランス国立放送管弦楽団による「新世界より」です。

シルヴェストリと言えば一部では「爆裂指揮者」というレッテルを貼られているのですが、あれは最晩年(とは言っても50代でしたが)の「老醜」であって、この時代のシルヴェストリは「正しく爆発」しています。
1957年と言えば、長くルーマニアでくすぶっていたシルヴェストリがロンドンでのコンサートで大成功を収めて、一気に西側にデビューを果たした年です。そして、EMIがそんなシルヴェストリに目をつけて、ロシア・スラブ系の音楽を任せられる指揮者として契約をするという幸運に恵まれました。
考えてみれば、これは破格のことだと思うのですが、それだけ57年の成功が素晴らしかったのでしょうし、さらには、モノラルからステレオに移行する時代であり、どのレーベルもカタログのラインナップを再構築しなければいけない時期と重なったことも味方したのでしょう。

それにしてもこの「新世界より」は強烈です。その表現の振幅の大きさは半端ではありません。
もちろん、オケの精度という点では問題は山ほどあるのですが、そんな事は「些細」な事だと思えるほどの強烈な表現力を内包しています。

ただ、不思議なのは、このモノラル録音の2年後に、全く同じ顔ぶれでステレオによる再録音を行っている事です。

考えてみれば、何故に57年の録音がモノラルで収録されたのかは謎です。
EMIにしてみればステレオによるカタログを充実させるためにシルヴェストリと契約したはずなのに、この1曲だけがモノラルで録音された理由が全く想像できません。実際、チャイコフスキーの後期の3曲は57年の2月に一気にステレオで録音されているのです。

同じ年の12月に録音された「新世界より」だけがモノラルというのはわけが分かりません。

ただし、聞き手である私たちにとっては、2年という短い期間を隔てて、モノラルとステレオによる録音を聞くことが出来るという「楽しみ」が持てのは幸いでした。
どちらも強烈な演奏ではあるのですが、より尖っているのはモノラルの57年盤です。そこでは、それぞれの楽章がもっている方向性が極限まで肥大化されていて、突っ込むところはトスカニーニも真っ青・・・位の勢いで突き進んでいきますし、ネッチリと歌うところは極限まで腰を下ろして歌い上げています。

それと比べると、ステレオによる59年盤は、そう言う細部へのこだわりが多少は薄らいで作品全体としての統一感を少しは意識した仕上がりになっています。
音質的にもかなり向上していますから、シルヴェストリの「新世界より」と言えば、一般的にはこの59年盤を取るのが普通なのでしょう。しかし、異様とも思えるモノラル盤の強烈な表現にも捨てがたい魅力があります。

やはり二つ残って良かったです。

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