クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|フリッチャイ(Ferenc Fricsay)|ウェーバー:舞踏への招待

ウェーバー:舞踏への招待

フリッチャイ指揮 ベルリン放送交響楽団 1961年2月14日録音

Weber:Invitation to the dance(Arr. Hector Berlioz)


原曲はピアノ曲です

以前に、原曲のピアノ曲を紹介したときにこんな事を書いていました。

「舞踏への招待と言うとオーケストラ曲じゃなかったの?とお思いになるかもしれません。今日ではそちらの方が有名ですから。

しかし、原曲はこちらの方、つまりピアノ曲だったのです。そして、今ではそちらの方が有名になってしまっているオーケストラ番はベルリオーズによる編曲版です。自分が編曲したものならいざ知らず、他人が勝手に編曲した方のバージョンが有名になると言うのではウェーバーも苦笑いしているかもしれません。」

うーん、これは全くの勘違いでした。
ベルリオーズはウェーバーのことを大変尊敬していたらしいのです。そして、その尊敬の念があったがゆえに、ベルリオーズの尽力で「魔弾の射手」がパリで上演されることになりました。
ところが、当時のパリではオペラにバレエを入れるのが習慣となっていたのですが、「魔弾の射手」にはそのような気の利いたバレエのシーンは存在しません。そこで、ベルリオーズは尊敬すべきウェーバーのオペラがパリで受け入れられるようにと、「魔弾の射手」をオーケストラ用に編曲したというのです。
ですから、「他人が勝手に編曲した」というのは、私の早とちりでした。

原曲にないバレエの場面をそんな形で挿入することにベルリオーズ自身も抵抗があったようですが、出来上がった作品はまるで最初から管弦楽曲だったかのような見事さです。


悲劇的なものへの親近感

楽しい音楽というものを聞いたことがない・・・と、言ったのはシューベルトだったでしょうか。確かに、すぐれた音楽というものはその中になにがしかの悲劇性を内包しているものです。よく言われるように、それが澄み切った青空のようなモーツァルトの長調の作品であっても、その青さの中に言いしれぬ悲劇性が顔を覗かせていたりするものです。

そして、病を得てからのフリッチャイの音楽を聴いていると、そう言う悲劇的なものへの傾斜が大きくなっているような気がします。
そして、作品によっては、そう言う悲劇的なものに肩入れしすぎるがゆえに、かえって足下をすくわれているような場面もあるかのように見えます。その典型が59年に録音されたモーツァルトのト短調シンフォニーでしょう。
これはもう語り尽くされるほどに語り尽くされていることですが、モーツァルトは壊れやすいのです。

ただし、その同じ録音を聞いて、それを形にとらわれずに作品が内包している悲劇性に肉薄したという人がいたとしても、私は否定しようとは思いません。

ただ、こうやって彼の晩年の録音を聞いていると、その悲劇性におぼれるように対峙してもそれほど作品の形が崩れないものと、驚くほどにそう言うスタンスを拒否するものがあると言うことです。拒否するものの典型が言うまでもなくモーツァルトです。

逆に、形が崩れない典型はチャイコフスキーの音楽でしょうか。
とりわけ、59年に録音された「悲愴」は、この作品の最も優れたアプローチの一つでしょう。そして、ドイツ・グラモフォンがこのすぐれた録音をお蔵入りさせてしまったことには驚きを禁じ得ません。

同じように、リストの前奏曲やスメタナのモルダウのようなロマン派の小品を聞いていると、悲劇的なものへの近しさというスタンスが実に上手くはまっているように思えます。そう言えば、ウェーバーの舞踏への招待なんかも実にいい感じです。
ところが、シュトラウスのワルツのような音楽になると悲劇性がいたって希薄なので、今度はそこへ自分の気分を反映させようとして逆におかしな事になっているような場面もあったりします。そう言う録音を聞いていると、どうしてこんなものを取り上げたんだろうと訝しく思ってしまいます。(まあ、レーベル側からの要望があったのでしょうね。)

それから、意外だなと自分でも思ったのがベートーベンです。61年に録音された運命などは、ズブズブに悲劇性に絡め取られているように聞こえるのですが、ベートーベンにはそれを引き受ける強さがあります。
そして、バルトークのような作品になると、その悲劇性が数学的な精緻さで構築されていることは手に取るように分かるので、そこで悲劇性に足下をすくわれるようなことは起こるはずもないと言うことです。それどころか、あの60年にアンダを迎えて録音されたピアノ協奏曲の録音を聞いていると、バルトークの悲劇性とフリッチャイの悲劇性が同化して、まるで孔子の従心「心の欲する所に従いて矩を踰えず」のような境地に達しているかのようです。

しかし、そうやって彼の晩年(と言っても40代の若さだったわけですが)の録音を聞いていると、その素晴らしさは認めながらも、失ったものの大きさも感じずにはおれません。
あの、50年代の初頭に聞くことが出来た、弾むようなリズム感に裏打ちされた、精緻でありながらも強い推進力に満ちた音楽は姿を消してしまいました。それは、この隔てられた二つの時期において録音された同一の作品を聞いてみると、そのお思いはよりいっそう強くなります。

既に紹介しているものとしては、モーツァルトの二つの交響曲(29番・41番)があるのですが、41番のジュピターなどは古い録音の方に好ましさを感じている自分がいたりします。
それ以外にも、チャイコフスキーの「悲愴(53年・59年)」やドヴォルザークの「新世界より(53年・59年)」などもあります。
変わることによって得たものが大きかった事は否定しませんが、同じように失ったものも大きかったことも否定しようがありません。

ただ、こうやってフリッチャイについてあれこれ述べていながら、実は大きな欠落があることも自覚しています。
それはただの一つも彼のオペラ作編の録音について触れていないことです。
これでは、少なく見積もってもフリッチャイという指揮者の半分しか見ていないと言うことになります。ですから、それなりにペラ作品の録音を概観してからだと、また違ったフリッチャイの姿が見えてくるのかもしれません。
ですから、彼についてこれ以上のことをあれこれ言おうと思えば、それなりに彼のオペラを聞いてからにした方がいいのかもしれません。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



2536 Rating: 5.0/10 (86 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント




【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-11-24]

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98(Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

[2024-11-21]

ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)

[2024-11-19]

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)

[2024-11-17]

フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)

[2024-11-15]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-11-13]

ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)

[2024-11-11]

ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)

[2024-11-09]

ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

[2024-11-07]

ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)

[2024-11-04]

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)